バビロナアゲハ
「よいしょ…」僕は砂浜に腰を落として海を眺めた…ジュエラから一昼夜費やして一体どの位離れたのであろうか…?
カチャッ…「どうぞ…」自分の壺の中から持ってきた綺麗なティーセットでジーナさんは僕にお茶を入れてくれた…
温かいお茶を一口、口に含む…「美味しい…!」僕が笑ってそう言うと彼女も嬉しそうにニコッと笑った。
「さてと…」僕は辺りを見回した…
眼前に広がる海は穏やかな海…人間界の珊瑚礁そのままである…ハッキリとは分からないが今いるこの白い砂浜も砂では無くて珊瑚のカケラが堆積したものではないだろうか…?
そして海と反対側には生い茂った森が広がっている…ここから見る分にはあまり木漏れ日が射すようなジュエラのエメラルダの森みたいな感じでは無く、何処まで続いているのか分からないジャングルのようである…
「ジーナさん…ここの景色に見覚えはない?」「うーん…ちょっとここだけでは分からへんなぁ…」「そうか…そうだよね…」
僕は乗ってきたじゅうたんを触ってみた…グッショリと濡れている…取り敢えず近くの木に陰干しをするが乾くまでしばらくかかるだろうし、もう一度撥水スプレーをかけて乾くまでは更に時間が必要である。
僕がどうしようかと途方に暮れているとジャングルの方から一匹の蝶が飛んできた…
フワフワと舞うその黒と水色…オレンジ色の斑点が綺麗な蝶をふと見つけたジーナさんはとても驚いた表情を見せた…「あ…あ…」
「どうしたの?」「バビロナアゲハ…」「あの蝶の事?」「…はい!あのバビロナアゲハは私が幼い時、追いかけた綺麗な蝶…」「じ、じゃあ…」「間違いない!…このジャングルの向こう側はバビロナ王朝や!しかもウチらは東から来たさかい、大体の場所は予測出来るわ…」ジーナさんは飛び上がって喜んでいる…
良かった…取り敢えず一安心だ…と笑顔になった僕だったが、ジーナさんと一緒にジャングルに足を踏み入れた瞬間…
「グルルルルル……」「キーッ!キョッキョッキョッ!」「バサバサバサバサバサッ!」
「わーっ!ジーナさん!」沢山の動物の雄叫びや羽ばたきが聞こえて来てジーナさんの手を取ってすぐに海岸に引き返した…
ふと腕時計に目をやるともうすぐ約束の時間となるようだった…
僕はジーナさんにお願いして壺の中に預かってもらっていたものを取ってきてもらうことになった。
彼女は一旦壺に帰ると、綺麗な紫の風呂敷に包まれた物を両手で持って再び現れた…




