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彼女の投影は小説家として吉とでるか凶とでるか誰にもわからない

作者: ぼるしち

その女の子には小説を書く才能があったかどうか、誰にもわからなかった。

なぜなら彼女はたくさんの作品を書いたが、それを誰にも評価してもらおうとはしなかったからだ。

だが彼女だけが、彼女自身こそが、自分の才能を一番信じていた。

才能があった。才覚があった。なにをやってもダメな人生だったが、小説を書くことだけは長いこと続けてきたのだから、自信だってあるのだが、それにしてもなぜそんな簡単に自分を信じることができたのだろうか。

それは彼女が書いたものがネット上に形として残ったからだ。

何度も彼女は確認した。

自分の作品を、何度も読み直して、最高の作品だと自負した。

だがそれだけ自信があったのに、他の誰にもその作品たちを見せようとはしなかった。

なぜだろう。

わからない。

ある日、宗教の誘いがやってきて、あなたにも光が差し込みますと言われたが、彼女はそんなことをまったく信じなかった。だが問題として、その宗教への勧誘はしつこかった。毎日、毎日、彼らはやってきた。

だから彼女は彼らのことを作品にしてしまおうと思った。それが始まりだったのかもしれない。

彼女は自分の障害となるものすべてを作品にしてしまおうと決意したのだ。

つまり、邪魔者を作品とすることで、価値あるものに変えてしまおうというわけだ。

彼女を馬鹿にしている同僚、彼女を認めない上司、それら全てを作品にしてしまおうと決意した彼女の筆は軽かった。羽毛のようにふわふわと作品たちを生み出していった。

だがその代わり問題が生じた。

ある日のことである。

上司に仕事のミスを叱られて困った彼女は、唐突にこういってしまった。

「お前、おねしょばっかりしてるくせに偉そうだな」

言ってからも何の違和感もなかった。なぜ自分はこんなに強気なのだろうと少し疑問には思ったが、大体、この発言に問題があるかということもわからなかった。

境界線が曖昧になっていたのかもしれない。

同僚にもこういった。

「あんたさあ、個性がないから輝けないんだよねえ」

彼女の作品の中で、たしかに彼らには個性がなかった。だから目立たない人物であった。

だがそれは作品の中だけのことのはずだった。

彼らは作品の中で嘆き、悲しみ、怒り、喜んでいた。

それは現実でもそうだ。

だから彼女はわからなくなってしまったのだ。作品と現実、その二つが交錯し、交わり、溶け合い、一つとなってしまったのだ。

そういうわけで、彼女は作品と一体化した世界に違和感すらも感じることはなく、そのままの生活を続けた。周囲の人間からすると、ノイローゼになったのだろうという評判だった。

そういうわけで、彼女は変人として生きていくことになる。

物語はまだ終わらない。

彼女が彼女自身を作品に投影させるとき、そこに何が起こるのかは、彼女にしかわからない。

なぜなら彼女は彼女の作品を誰にも見せないから。

自分の作品を自分だけのもとするから。

だから彼女は、彼女自身を描くとき、そこに新たな自分を作り出すだろう。

それが吉とでるか凶とでるのか。

それさえも、だれにも、彼女以外には、わからないのだ。

小説って、おそろしい。


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