叶え、この恋
久保克彦慧に片思い中
澄田慧いつも笑顔な女の子
渡辺祐介克彦の友達
じっと、今日も君を見つめる。
バレたら恥ずかしいので、少しだけ、だけど。
今日も友達とニコニコ笑う君を見て、自然と口角が上がる。
「かわいいなあ…」
「よっ」
「おわっ!?」
にひっ、と笑う友達の祐介。俺の視線の先を辿って頷く。
「今日も澄田さん見てるんだな」
「ばか、声でかいって」
「ごめんごめん」
澄田さん、俺の、片思いの相手。席が隣で、人と話すのが苦手な俺によく話しかけてくれる。でも、そこまで仲がいいわけでもない。もし、好きってバレたら引かれるに違いない。
「澄田さん、モテてるよな」
「うっ…」
そう、そうなんだよ!澄田さんはフレンドリーで、可愛い。狙ってる男子も多いと聞く。あー、そう考えたら更に落ち込んできた。
「アタックしたら?克彦、そこそこ話してるじゃん」
「でも、何話せばいいかわからないし、澄田さんの迷惑になったらって…」
「女々しいな」
「悪かったな女々しくて!」
しばらく言い合いをしていると、澄田さんが視界の端にいた。
「おはよ。ごめん渡辺君、私、席座ってもいいかな?」
「わかった、ごめんね」
すっと祐介が俺のほうに移動してくると、耳打ちをする。
「俺、席戻るから。澄田さんと話せよ」
「ばっ」
手を振って自分の席に戻る祐介。たっ、ただでさえいつも隣の席で緊張しているのにっ。
「おはよう、久保君」
「おっ、おはようっ、澄田さん」
「久保君っていつもおどおどしてるけど、私のこと苦手?」
「いっいやいや!苦手どころか大好きですよっ」
「え…」
「……あっ」
し、しまったー!つい口が滑っちゃったよ、どうしよう、どうしよう!なんて誤解を解けばいいんだ。誤解ではないけど!驚いているんだろう、澄田さんの頬が赤く染まっている、とてつもなくかわいい!このまま告白を……できるわけないっ。
「あ、いや、その。く、クラスメイトとしてっ、ですから」
「だ、だよね。ごめんね、変に勘違いしちゃって。恥ずかしいな」
へへ、と笑う澄田さん。勘違いしてないんですよ、あーもう本当にごめんなさいっ。
「あ、久保君ってこの歌手知ってる?華乃さんっていうんだけど」
そう言って澄田さんは水色のCDを見せた。
「知ってます。そのCD、昨日発売のですよね?俺も買いました!」
「ほんと?周りに知ってる人いないからさ、すごく嬉しい」
「俺もです、恋愛系の歌聞いていると、男友達に引かれるんですよ」
「えー。男子でも華乃さんのファン多いのに」
「そうですよね、悲しいです」
「ははっ」
すごい、すごいぞ、俺!今、いつも以上に澄田さんと自然に話せてる!しかも、好きな歌手で盛り上がれてるとか、なんか青春っぽい気がする!
「久保君、華乃さんのライブがこっちでもやるって知ってる?」
「はい、確か今週の土曜日のですよね。俺、チケット外れたんです」
「そうなの?私さ、ほかのクラスの友達と行く予定だったのに、友達急な予定入っちゃって。もしよければ久保君どう?」
「えっ、いっ、いい、いいんですか!?」
「うん、久保君が良ければ。」
「ぜひ、お願いします」
「じゃあ、土曜日に駅で待ち合わせね。」
「はいっ」
これって、デートだったりしますか!?
「ふへ、ふへへへへ」
明日、明日だ!この日をどれだけ待っていたことか。
服も決めたし、目覚まし時計もセットした。何を話すのかも頭にしっかり入れた!これで明日のデートは完璧だ。いや、デートじゃないごめんなさい。
「眠れなかった」
楽しみすぎたせいで一睡もできなかった。中学生か、俺は!
隈の取り方をスマホで調べて、暖かいタオルを目元に当てる。完全には取れなかったけど、ましにはなった。昨日のうちに選んだ服を着て、リュックを背負う。おかしくないよな、祐介が選んでくれたんだし。鏡の前で何度も何度も髪や服を確認する。
「よしっ」
大丈夫だ。もう時間だし、そろそろ家を出よう。
10分前に駅前についた。早く着きすぎてはないよな、10分前行動、当たり前。うん。持ってきたミュージックプレイヤーを取り出して、イヤホンをつける。華乃さんの曲。
華乃さんは失恋の歌をよく歌う。女子目線の曲が多いけれど、男の俺でも共感できる歌詞が多いんだ。
少しだけでいいの、私を見つめて。少しだけでいいの、私だけに、あなたの笑顔を見せて。
その歌詞を聞いた途端、頭に澄田さんが浮かんできた。俺に、少しだけでいいから、笑顔を、俺だけのために見せてくれたら。
「ごめん、待った?」
まさか、本人が目の前にいると思わなくて、少し声が裏返る。
「すっ、澄田さん。ううん大丈夫、今来たところだから」
「じゃあ、行こうか」
やばい、今の会話、カップルっぽくないか?頬をおさえて、にやけているのをばれないようにする。
「目が合って」
「微笑んでくれて」
「それだけで幸せなのに」
「欲張りな私が出てきちゃう」
「ごめんね」
「でも、もう」
「好きって気持ち、止まらないよ」
「叶わない恋なんて、なければいいのに」
華乃のデビュー曲。この曲が、一番共感できる。
俺の隣にいる、俺の好きな人。叶わない恋をしている俺。
好きでいるのって、楽しいのに、辛い。
澄田さんは、好きな人、いるんですか。
暗い青色のペンライトを左右にゆっくり振る。
「ライブ、すごくよかったね。生の華乃さん、可愛かったー」
きゅっとライブタオルを抱きしめている。君のほうがきれいだよ、なんて。くさいセリフが出てきた。
「はい、最高でした。俺、最後の曲で泣いちゃいましたよ」
「華乃さんって、本当に辛そうに歌うよね。歌詞が心に響く感じ!」
上を見上げて、精いっぱい感想をいった澄田さん。すると、顔を曇らせた。
「私も、同じ、だから」
そういうと立ち止まり、振り返る。
「私の話、聞いてくれる?」
近くの公園のベンチに座る。恐る恐る口を開き、話し始めた。
「久保君って、渡辺君と仲いいし、よく話してるよね。私たち席となりでしょ。だから、結構見ちゃうの。それでね、気づいたら、渡辺君のこと、好きになっちゃったの。」
どん、と頭を思い切り鈍器で叩かれたようだ。今、澄田さんはなんて?祐介のことが、好き?
「渡辺君と話すのって結構勇気いるから、あまり話せないし。私の友達に渡辺君のこと好きな子多いからさ、こんなこと話せるの久保君だけなんだ。
もし、久保君が良ければなんだけど。三人で、遊びに行きたいなって」
頬を赤らめながら、恥ずかしそうに、でも楽しそうに話している。
涙が出てきそうだ。でも、今は知らないふりをして、
「いいよ、」
そう、答えた。
その後のことは、よく覚えていない。
俺の片思いが、終わった日。