最終話 笑顔
まだ希子の瞳は真っ赤だ。渡せるハンカチもない。目を合わせることもできなかった。
「……ごめん」
何もしてやれなくて。苦しい思いばかりさせて。俺のせいだ、怖い思いをさせた。泣かせて、ごめん。本当に俺はどうしようもないバカヤローだ。何生き残ってんだ俺。助かるのはばあさんだけでよかったろうに。でも。
希子を見ると、希子は泣きながら怒ってもいた。
「……もう危ないことしないって約束して」
「……」
「約束してっ」
不謹慎だろうが、俺は怒られながら浮かれていた。嬉しかった。偶然か奇跡か知らないが、また希子に会えたのだから感謝している。
金が無くて希子もいないと苦しかったけど、金が無くても希子がいる今は満たされている。思い残すことないっつうくらい清々しかった。だからこそ、俺に足りないものが見えたのかもしれない。金のせいにして逃げるのはもうやめよう。俺に足りないのは、覚悟なんだ。
「約束する。俺は生きてる限り、希子のために生きる」
「え……?」
「愛してる」
「……」
「これからもずっと、愛したい。希子のこと」
「……」
「家族として」
止まりかけていた希子の涙があふれて止まらなくなった。
「希子……」
そっと手を伸ばすと、届いた。希子を包み、抱きしめる。あぁ、希子だ。俺が1番大切にしたい人。こんなに愛しいんだ。
涙腺がゆるんで流れた。みっともないとこ見せてばかりだ。でも、離れていた時間の分だけ想いがつのって止まらなかった。
俺の腕の中で、涙をぬぐった希子が笑い出した。
「ねぇ、笑って。私、史人のくしゃくしゃってなる笑顔好きなの」
くしゃくしゃ?言い方が面白くて笑った俺を見上げて希子も笑う。あぁ、やっと笑ってくれた。俺の待ち望んだ、俺の大好きな笑顔だ。
「俺も好き。希子が笑ってくれると、生きててよかったって思う」
「じゃあ、長生きしてね」
「ああ。笑顔がいっぱいの家族になろう」
「うんっ」
幸せだ。金は無いけど最高に幸せになった。これから先も困難はあるだろうし、予定通りに行かないこともあるだろう。でも、俺には希子がいる。俺にできるせいいっぱいの力で、希子を幸せにすると決めた。
おしまい




