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第8話 警笛

 線路で横たわるばあさんに駆け寄る。間に合う。間に合うはずだ。立たせてすぐホームに持ち上げればいい。思いつくまま手を伸ばす。


 「早く!」

 「腰が……」


 線路に仰向けになったまま、ばあさんも手を伸ばしたが、それ以外は動いてない。動かそうとしても小刻みに震えるだけで、自力で起きあがれないようだ。立たせてホームへ戻すなんて機敏な脱出は無理だ。

 電車の警笛音。

 電車の顔とやらを正面から拝んだとき、俺はばあさんを抱き込んでホーム下の穴へ転がった。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオ。


 背中から轟音と熱風に襲われる。風圧に堪え、ただ懸命にばあさんを抱きしめる。恐怖が限界を超えたらしく、自分が生きてんのか死んでるのかわからなくなった。

 それなのに、俺の頭は考えごとをしていた。こんなに小さいんだなって。こんなに小さくて腰だって曲がってるのに、息子を助けたいんだなって。なんか、すごいなって。


 「……生きてるかい?」


 気がつくと、車輪が止まっている。ばあさんの声に、自分たちが生き残ったことを知った。

 幸い命に別状はなく、骨折もなく、ばあさんは元気だった。腰の痛みはあるものの、ゆっくり立ち上がれるくらいの力は残っていた。駅員と、到着した警察と話すうち、詐欺にあっていたことにも気づいて愕然としていた。本当の息子が慌てて迎えに来ていた。

 詐欺に協力してしまった社会人風の女の子は中学生だったらしい。すぐに逮捕され、散らばった金は無事、すべてばあさんに戻った。

 俺は駅を出て、あてどなく歩き出す。ちら、と横を見る。俺の隣には希子がいる。非常停止ボタンを押して危険を知らせたのが希子だった。






つづく


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