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第7話 ばあさん

 もうすぐ電車が来るとアナウンスが聞こえる。いよいよだ。

 なのに俺は、まだ迷っている。ついには安全地帯へ下がってしまった。飛び込む勇気もないんだ、俺は。

 しかし、考えてみれば、別にわざわざ飛び込まなくったって、そのうち餓死するんだからいいかという気になった。


 「これでどうか、息子を助けて下さい。よろしくお願いします」


 ふと見ると、腰の曲がったばあさんが何度も何度も頭を下げていた。俺にじゃない。相手は中学生ぐらいの女の子で、身長は低いし顔立ちは幼いが、リクルートスーツを着てるので社会人だろう。俺と違ってまともな人間、まっとうな人生を送ってることだろう。

 そいつにばあさんは頭を下げている。


 「息子を助けて下さい」

 「息子さんを助けるためにも、それが必要なんです。電話でお話ししたとおり、あとはこちらで対応させていただきますので」


 ばあさんは紙袋を持っていた。女の子に渡そうとしたが、寸前でためらい手元へ戻す。大事なものが入ってるのか?なら、イコール金か。

 女の子は少々強引に受け取ろうと紙袋を引っ張る。ばあさんは胸元で抱きしめ放そうとしない。そらそうだ、誰が好き好んで金を手放すものか。


 「息子さんを助けたくないんですか?」

 「……お金で本当に解決できるもんかねえ?あの子にとって本当に必要なのは……」

 「必要なのはお金だけですっ!」


 女の子が力尽くで紙袋を引き寄せた。引き合いの反動で、ばあさんはよろめき、滑ってホームから落下した。紙袋が破れて中から大量の紙幣がこぼれる。女の子はすぐにしゃがんで拾い始める。

 電車がもうすぐ来る。

 ビィィイイイッッ。緊急事態を報せるけたたましい音が響く。女の子は金を集めるのに必死だった。

 俺はあれほどためらって踏み込めなかった線路へ飛び込んでいた。





つづく


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