第6話 電車待ち
俺は白線の外側に立って電車を待っていた。
呼吸するだけでふらりと線路へ落ちてしまいそうなギリギリの位置にいる。いざ立ってみると心臓がバクバクして止まらない。意気地が無い俺は両足にめいいっぱい力を込めて、そこから先へ進めず、その場に踏みとどまってしまっている。
動け。思い切って飛び込むんだ。飛び込めっ、飛び込めっ、飛び込めっ!
自分を叱りつけ、勇気を振り絞る。あと、一歩だ。俺はどうしても飛び込まなければならないんだ。勇気を出せ、俺。どうせ生きてたって人に迷惑かけるくらいしかできることないだろ?この世に必要ない社会のゴミクズなのだから、消えることが俺の役割だろうが。さあ、やるぞ。これが俺の仕事だ。
小学校、中学校、高校、大学と進み、どこかへ就職して社会人となり、結婚して、子供を作り、マイホームを建てる。子育てして、子供が立派な成人になるのを見届け、孫をかわいがり、何となく老後を迎え、のんびりする。それが俺の当たり前にやってくる将来だと思っていたが、こんなの叶えるのは到底難しい。これが平均的な未来で、ほとんどの人がそうなるのだとしても、俺にはハードルが高すぎる。目指す理想が高すぎるのだ。
こんなまともな人生を俺なんぞができるはずもない。何をまともに生きようとしてたんだか。就職できずにフリーター、それすらクビになり、恋人にフラれる。別れた理由、金が無いから。
金が無ければ愛をとどめておくことはできない。愛か、金か、どっちが大切なのかと問われたら、当然金だ。愛があったって金がなきゃ食べ物も水も手に入らない。生きていけなくなる。人生に必要なのは金だ。愛が大切なんて偽善だろ、それが真実なら恋人は別れたりしなかったろ。何が愛だ、所詮すべて金。金が無い俺に生きるすべも居場所もない。
つづく




