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第5話 金さえあれば

 ついにアニメの女の子キャラと結婚したということか。


 「俺はこいつを愛してるのさ」

 「……でも、ゲームだろ?」

 「声だって出るんだぜ?『愛してる』ってセリフを買って、夜、寝る前に話しかけてくれるようプログラムもできる」

 「セリフを買うって何?」

 「こういうセリフを言わせたいって依頼すれば、声優さんが録音してくれる」


 他にも彼女の髪型を変えたり、服を買ったり、ショッピングもネット上でできるようだ。結婚したら子供を作れたり、家を建てたり、植物を育てたりも可能。


 「子供にオモチャを買うなんてリアルと同じだろ?俺は一家の主として、家族のために働いてんのさ」

 「……何か、かっこいいな」

 「ははっ、だろ?」


 幸せそうな浅山を見ると、昔なら、とはいえアニメだとバカにしてた部分もあったが、今は何となく羨ましい。話を聞いてると、現実とネット空間と何が違うんだって思う。浅山は大切なものを持ってるし、守ってる。それにはお金がかかるけど、生身の世界だって生活に金がかかる。人間の女の子とアニメの女の子が大差ないように思えてきた。


 「金をかければかけるだけ、たくさん話してくれるし、アクセサリーや服、化粧品とか買って信頼度アップしておくと、いつも笑ってくれるし、娘の頭を撫でたりもできてな、甘えたりして可愛いんだよ。最近は成長して恥ずかしがったりするけど、それも可愛くてさ。『パパ、お人形で遊ぼう』って何回誘われたことか」


 浅山は嬉しそうだった。本当に自慢の娘がいるように見える。いや、いると数えてもいいんじゃないだろうか。


 「リアルの女の子も可愛いけど、うちの娘が1番だ」

 「親バカかよ」

 「まあな。そういうわけで俺もたくさん稼がなきゃいけないんだ。娘もそろそろオシャレに興味もつだろうし、息子はラジコンヘリを欲しがるかもしれない。買ったら絶対喜んでくれる。一緒に遊ぶともっと喜んでくれる。金が無いと愛情が足りないと言われて離婚の危機に……」

 「離婚もあるのか」

 「あるさ。再婚もな。金次第じゃ一夫多妻もできる」

 「……金次第かぁ」

 「そんなもんだよ、人生は」


 金さえあれば、浅山のように充実した楽しい日々を過ごせる。金さえあれば、いつも笑ってくれる。金さえあれば、子供ももてる。金さえあれば、希子と別れることもなかったかもしれない。金さえあれば。

 金が無いと当たり前のことができなくなる。金が欲しい。金がすべて解決してくれる。金を切望してのどが渇く。けど、どんなに手を伸ばしても俺の元に金は無い。どんなに悔やんでも過去はやり直せない。

 もっと勉強をちゃんとやってたら。バイトを懸命にやってたら。就活にもっともっと必死になれていたら。今更遅い。金の無い俺はもうおしまいだ。どうやって輝かしい未来を描けばいいのか。今、何をすれば生きながらえるのか。いや、俺のようなやつが生きてていいのか。バカな俺にはわからない。何の答えも出せなかった。




つづく


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