第1話 別れ
愛とお金のどちらが大事かと問われたら、誰でもお金と答える。愛があったって、食べ物は買えないのだから、空腹は満たせず、生きていくことができない。子供にだって容易く想像がつくだろう。人生に必要なのはお金であって、愛だなんて言うやつはおめでたいバカだ。
俺はまさしくバカだった。大学生の頃から付き合って5年になる恋人の市瀬希子を幸せにしようと夢見ていたのだから。結婚して子供が生まれたらどんな名前にしようか、2人で住む家のインテリアはどんなものがいいかってワクワクしていた。未来で問題が発生するとは思ってなかったし、もし問題が起こっても解決できるだろうと理由もなく自信があった。
けれど、現実は厳しかった。希子が就職できたとき、祝いにプレゼントしたピンク色のネックレスを安物だけど喜んでくれた。誕生日も忘れずに祝った。節約しながらデートだって毎週欠かさなかったが、フリーターの俺の稼ぎでは、結婚は難しかった。一緒にいる時はテレビを見て笑いあうこともあった。毎日電話して何でも話し合った。俺は楽しかったし、幸せを感じていた。たぶん、希子も俺といる時間を大切にしてくれていた。
希子を泣かせてしまったのは、バイトをクビになった時だ。
「愛してるけど、やっぱりそれだけじゃうまくいかないんだよ」
胸に突き刺さる言葉だった。希子の幸せを考えれば別れるべきだと、俺の頭はわかっていた。でも、この時の俺はみっともなく希子にすがろうとした。手を伸ばして引き寄せようとしたが、希子は首を左右に振りながら、身を遠ざけた。
「希子……」
「ごめんね、史人」
希子は俺の元から去っていった。すでに賢明な決意をもって、別れたいと話してくれたのだ。
つづく




