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第4話-4・〜誘われた過ち

 あぁ昨日いつ寝たんだっけ……。そうだ、私、皆と喋っている途中に眠たくてレイラが何かを話してる途中につい寝てしまったんだ。

 私は白いシーツを蹴り上げて、ベッドに座り込んだ。まだ覚醒しきっていない頭で昨日の記憶を辿る。

「あー、駄目だ。ここまでどうやって来たか覚えてないや」

 まだ部屋がいつもより暗くて涼しいし朝早いのかな。私にしては珍しい早起きだ。皆起きていないんじゃないかな。

 そうだわ、今日はせっかくだし私が朝食の用意でもしようかな。昨日は森での出来事のせいで寝込んでしまって、アリシアにお世話になりっぱなしだったし。うん、そうしよう。

「そういえば……昨日は変な夢を見たなぁ」

 夢の中でうとうとしてるとレイラにお姫様抱っこされて、おでことおでこくっつけられて『おやすみなさい。いい夢を、フツキ』なんて王子様みたいなかっこいい顔で言われたの。

 あぁ、恥ずかしい。私はなんて妄想を繰り広げていたの、レイラになんて恥ずかしいことをさせていたの!

 恥ずかしさを誤魔化すように鏡を見ながら寝癖を手櫛で無茶苦茶にほどいた。

 少し恥ずかしそうな顔をした自分。アリシアのような明るさなんてなくて、なんか……根暗そう。最近ご飯を真面目に食べてガリガリではなくなってきたからマシではあるけれど黒髪に青い目なんて陰のオーラが漂うに決まっている。そりゃ金髪に茶色い目の方が見るからに華やかだ。

「やっぱりアリシアの方が可愛いや」

 アリシアってやっぱりモテたんだろうなぁ。私は生憎そういう環境に身を置いたことなかったからよく分からないけど、私が男だったら絶対に惚れている。

 レイラもクロウもアリシアに惚れちゃったりしないのかなぁ。こう……、ずっと友達だったら異性として見れないっていうし。っていうか本に書いてあったから多分そう。

 でもアリシアをストーカーしたことある人絶対いるだろうなぁ、うん、気持ちは分かる、ストーカーさん。

「びよーん」

 私は両頬を両手で伸ばした。すごくすごく変な顔だ、止めよう。余計傷付いた。

 クローゼットからお気に入りのケープを出してネグリジェの上から羽織る。再びベッドに腰掛けて窓から空を覗くと妙に静かな森がひっそりと屋敷を覆っていた。依然窓辺の青薔薇は枯れたままだ。

「前の……(うた)た寝の時の夢は何だったのかしら」

 叔父さんが出てきた。

 青薔薇に包まれてにっこり笑った叔父さんが私に手を差し出していたのだ。

 ……でも私は拒んだ。

 ごめんね、私はレイラとアリシアとクロウっていうお友達が出来たから今は行けないのって。

 そしたら私をぎゅって抱き締めて「僕は生きているから」って言ったから私が何かを尋ねようとしたけどクロウに起こされて……。

「私はあの手を取るべきだったのかな」

 叔父さんは優しい顔をしていた。それだけでも安心した。すごく嬉しかった。会いたくて会いたくて仕方がなかった人だもん。

 でも何か違う感じがしたの。いつもの夢じゃないというか。言葉にはし辛いけど、知らせの夢じゃないというか。

 自分の右手を開けて見つめる。気付かぬ間に何故か傷が全部治っていた。レイラが魔法で治してくれたのかな……。なんとなくだけどきっとそうだ。

 うん。行こう。

 私は手を結んで、開いて、心を決める。

 壊れたドアを押し開けて、石段を降りようとしたけどその前に寄り道をする。私はすぐそばの客間をこっそり覗いた。

「あ、寝てる」

 アリシアとクロウはベッドに入っているがレイラは眼鏡をかけたままソファで眠っていた。

 私は物音をたてないように部屋の中に入り、ずれ落ちたタオルケットをレイラの胸元までそっと被せて、眼鏡を外した。それからテーブルの上に置いてあった本の上に静かに置いた。

「すごく綺麗な寝顔」

 出来ることなら写真を何枚か撮らせていただいたに違いない。これじゃあ、私もクロウと変わらないくらい変態か。いや、ないない。それはいやだ。

「レイラ、ベッド二つしかなくてごめんね。レイラこんなに背高いのに。叔父さんの部屋のベッド見てきてあげるからね」

 小声でそう告げて、私は抜き足差し足忍び足で客間を出た。それから薄暗くて冷たい階段をゆっくり降りる。

 昨日はクロウと手を繋ぎながら歩いたなぁ……、小さい頃は叔父さんと歩いたのに、そっちの方がすごく違和感があった。

 親離れっていうのかな、私もそんな年だもんね。次で十六だし。

 私が向かった先はもちろん叔父さんの部屋。

 何か手掛かりがあるかもしれない――。叔父さんが消えた理由、私の全て。

 見慣れた木の扉は私の前に立ちはだかる。叔父さんの部屋、私が入ってはいけなかった場所。

 私はドアノブに手を掛けた。けど一瞬、戸惑いが脳を蝕み、動きを遮った。

 本当に開けてしまっていいのだろうか――?

 でもこうなったら何か手掛かりを見つけなきゃ、叔父さんが待ってる。

 ぎゅっと冷たいそれを握り締めた、と同時にいとも簡単にドアが開く。それはまるでこっちへおいでと誘うかのよう。

 一歩足を踏み入れると、ふわりと香る芳香。枯れた花瓶の中の薔薇。乱雑とした机の上には分厚い本や黄ばんだ本。はためくカーテン。綺麗に畳まれた布団、大きなベッド。そしてまだ僅かに残る叔父さんの匂い――。

「なんで……?」

 やはりこの匂いを嗅ぐと胸がナイフで刺されたように痛くなった。思わず涙が零れそうになってつん、とした鼻を手で押さえた。

 どこへ行っちゃったのよ、叔父さんは私を一人にしないって約束してくれたじゃない。嘘つき。知的でスマートで優しい私の叔父さん。大好きだったのに。……決して私の過去については語ってくれなかったけど。

『まだ君は何も知らなくていい。……いつかは話すからね。ごめんね、深月』

 そればっかだったけど……。もういい? いいよね。

 言い付け守らなくてごめんなさい。もう部屋に入っちゃったけど一応。

 叔父さんだって約束守らなかったもんね。夢なんかに出てきちゃってさ。

 私、生きる為に知らなきゃいけないんだ。叔父さんの為にも旅立たなきゃいけないんだ。ずっとここには居られないの。こんな私を心配してくれる優しい友達が出来たわ。あの人達は私よりもっと深く何かを知っている。そんな気が実は、ほんの少ししてたの。だからきっと友達であっても、こうやって私を護ってくれるんだよね。何か深い理由があるに違いないわ。

 でも信じたいの、彼等を。信じてもいいかなって初めて思った気持ちだから信じてみたいの。

 もしそれが虚偽の愛だとしても。

 私はゆっくりと歩みを進め、目に止まったデスクの引き出しに手をかける。


 ――茶色く枯れた薔薇の首が茎から舞い堕ちたのも知らないで、取っ手を思いっきり引いた。


「これは?」

 引き出しの中から出てきたのは沢山の青薔薇の花弁をクッション代わりにして置かれた鍵。青薔薇はまだ新鮮でまるで摘みたてのよう。誰かが仕組んだとしか思えない。

 私は鍵を手に取る。少し錆びたような金色のボディーに持ち手の薔薇の装飾は赤や青、黒に黄色、緑、紫、様々な色の宝石がちりばめられていて全長はちょうど人の顔くらいの大きさ。ずっしりとしていて重々しさを感じる。

「どこの鍵かしら……、大きいわね、無駄に」

 あ……、そうよ。

 私、小さい頃一度だけ叔父さんに頬を叩かれたことがある。その時の叔父さんの顔はまるで悪魔の形相だった。

 記憶が甦る。

 そうよ。あの地下の部屋を開けようとして怒られたのよね。

 初めて叩かれたこと。それと鍵穴がすっごく大きかったのはしっかり覚えてるの。

 結局、あの部屋は鍵がかけてあって開かなかったんだけどきっとあそこの鍵に違いないわ。この大きさだし。私の知らない何かが隠されているはず。

 何も知らないままで、何かが終わってしまうなんて駄目。ここまで来たら怖いだなんて言ってられない。言えないわ。

「これが手掛かり」

 私は右手でぎゅっと掴む。

「今から行くから」

 普段使わないでいた地下への急な石段を急ぎ足で下る。埃臭く、真っ暗な廊下の端まで来た。そう、とうとう地下の部屋の扉の前に辿り着いたのだ。

 重々しい両開きの扉。長い鎖に錆びた色の錠がぶら下がっている。

 ごくりと生唾を飲み、私は大きな鍵の先を穴へゆっくり突き刺し、右向きに回す。

 ガチャン、と大きな音を立てた。正解。

 ――開いた。

 錠が外れて、床に滑り落ちたのと同時に額から一筋の汗が流れ落ちる。

 恐怖はないけど緊張する。どうしてこんなに張り詰めた空気が漂っているのだろうか。

 私は錠から鍵を引き抜きゆっくり鉄の扉を引く。

 ギイィィと吠える扉。その先は暗闇だ。

 私はそっと中を覗こうと顔を隙間に入れたが、その刹那、私は意識がふぅと何かに抜かれそうになる。

「……な、に?」

 急に暗闇から見えない何かが飛び出てきて私を覆いこんだ、が突然私の体の中に入り込む。

 視界がぐらりと傾く。視界がちかちかして、内臓が焼かれてしまうような痛みが全身に走る。妙なきな臭さ、どこを見ても燃えてなんていないのに。でもその正体は、私自身から発せられたものだった。

「あ、つっ」 

 全身を焼かれるような熱さに思わず体を折り曲げる。わずかに残った意識の中。もがく私は急に誰かに抱えられた温もりを感じた。でもまるでその温もりを掻き消そうとするように更に体の中は熱くなってくる。

 熱い、苦しい。何かが私の中で暴れて、壊そうとしている。額に汗がしみ出し、滴り落ちたのが自分でもわかった。

「フツキ! フツキ、しっかりして下さい!」

「レイラ……?」

 視界がぼやけてはっきり見えない、でもこの優しい紅茶色……。この色を持つのはレイラだけだ。

「レイラ、からだの、なかが、あついっ……」

「くそっ、――――をとり――たまり――!」

 なんて……?

「フツキ!」

 この低い声はクロウかな、なんでそんなに辛そうなの……?

 声に出したいけれども出ない声。私の口唇は何かを求めるように動くだけであった。それを見たレイラは更に苦虫を噛み潰したような顔をし呟く。

「どうしてそれを!」

 何……?

 どうして私はこんなに苦しいの?

「フツキ姫様! 開けたのですね、あの扉を……! そうしたらこうなったんですね!」

 この鈴みたいな声はアリシアの声だ……。

 とびら……? あぁ、地下か、なぁ……。

「アリシアは離れて。レイラ、フツキを早く」

「えぇ。フツキ、今から助けますから」

「ご、めんなさ……い。ねぇ、熱いよ、レイラ。助けて……」

 骨まで溶けそうなくらいの熱が意思を持っているかのように体の中で暴れまわる。

「フツキ!」

 皆の呼ぶ声がだんだん遠ざかる。

 熱いよ、苦しいよ、ねぇ助けて、レイラ――。



 不気味な円舞曲(ワルツ)で踊りましょう?

 まるで螺旋階段を転げ落ちるように消えるような速さでどんどん闇へ。

 全てが埋葬品と化すその前に――せめて懺悔が叶わぬのなら。




もう第4話も折り返し地点。いや、もうでなくやっとですね。セプリは一話が長いと最近気づきました藤咲です。ごめんなさい。本当ごめんなさい。次回はあの変態がとうとうしでかします、舞台が地球だったなら間違いなく刑務所行きでしょう。彼に代わって作者が謝っておきます、ごめんなさい←

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