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第4話-3・〜ナニかの予感

「調べられましたか?」

「あぁ。この屋敷に、多分いる(・・)よ」

 掃除も終わり、一息ついたところでちゃちゃっと探索を済ませてきた。やはり予想通りだ。

 先刻レイラとフツキが晩御飯を取ってきてくれるってことで俺とアリシアは居残って掃除を任された訳だ。ていうかレイラがフツキを無理矢理連れ出した。

 あぁ妬ける。俺だって一緒に森に行きたかった。

 それからこの屋敷にいるアレ(・・)について調べてみた訳なのだが、今回は当たりだろう。

 俺はシルクハットをくるくる指で回しながら、ソファに腰掛ける。アリシアも汚れた手を洗面所で洗って俺の正面にゆっくり腰を下ろした。

「やっぱりそうでしたか。でも一体誰がこんな酷いことを?」

「分からない。俺達を阻む敵、もしくは……フツキの叔父さんかな?」

「姫様の叔父さん……、何を企んでいたのかしら」

 叔父さん、とやらのことについては悩んでも無駄な気がする。フツキの生い立ちについて分からないことが多すぎる。まだしばらくは掴めないだろう、とは言え、ある可能性は見えているが。

 アリシアは叔父さんが相当気になるようだ。小首を傾げて溜め息をついている。

「フツキを、何年間かは分からないけれど、軟禁していたんですよ。どういう方なんでしょう?」

「まぁ叔父さんはいいじゃん。嬢は可愛がられていたみたいだし、失踪しちゃったんだし?」

 この部屋に入るときのフツキの表情は言葉に出来ないものだった。

 悲しみを湛えながら強く、強くあろうとする瞳。それは宝石より強い輝きを持っていた。

 彼女は本当に叔父さんが大好きなんだろう。だからこそ思い出が彼女を締め付ける。

「それよりアレ(・・)だよ、アレ(・・)

 そうだ、俺達は叔父さんを探すためにここに来たわけじゃない。

「うーん、そうですね。ここは時間をかけて魔法で抑えてしまうのがベストかな」

「あっは、でも俺は世の中そう上手くいくもんじゃないと思うなー」

「え?」

 アリシアは眉間に深い皺を寄せて俺に睨みを利かせた。

「どういうこと? クロウさん」

あの扉(・・・)は開かないよ。強い、強い魔力で封じられている。だから先に見つけなければならないモノがあるんだ」

「何ですか?」

「それは――」

「ただいま」

 扉が乾いた音を立てて開いた。そこには飄々と帰ってきたレイラと見るからに具合が悪そうなフツキ。

 アリシアはフツキの様子に気付くことなく嬉しそうに二人に駆け寄る。

「お帰りなさい。ありがとう、二人共。きゃっ! 血塗れじゃない!」

「外科専門だから大丈夫でしょ? さばくぐらい。僕した方がいいですか?」

 レイラは血塗れであろう動物の入った大きな麻袋と野草が沢山入ったバスケットをアリシアにずいっと手渡した。

「大丈夫よ、待ってて」

「ごめん、アリシア。私、自室にいたいからご飯出来たら呼んでくれない? ちょっと具合が悪くて」

「え、姫様、大丈夫ですか?」

「えぇ。手伝えなくてごめんなさい、でも何か困ったことがあったらいつでも遠慮なく呼んでね」

 フツキは月よりも青白い顔でほんの少し笑うとそそくさとその場を立ち去っていった。

 あんなに顔色の悪い彼女は初めて見た。何かあったに違いない。

「掃除ありがとうございました」

 どかっとソファに腰を下ろしたレイラは豹みたいな金髪を二、三回掻いて革靴を脱いだ。彼もたまには俺に感謝なんてするらしい。

「いいえ。嬢にまずいことしちゃった系? レイラ君」

 レイラの右手の甲には切り傷が出来ていた。魔力でやられてるしこんなんフツキしかいないじゃん。

「いえ。正体不明のナニかです」

「へぇ……」

「で、探索(・・)はどうでしたか?」

 レイラは深刻な表情でこちらを見る。それはまるで俺にある答えを急かしているようだった。

 俺はニヤリと笑ってみせる。

「宝はそう簡単に手に入れられないよ、まず()を手に入れないと、ね」




   †




「フっツキちゃーん」

 俺は勢い良く二階のフツキの部屋の戸を開けようとした、が軍にやられたのか取手が壊れていて指先で触れただけですぐに開いた。

「フツキ嬢ー」

 あれ、しーん……。

 返ってきたのは静寂だけ。思わず首を傾げる。

「入るよー?」

 そっと足を踏み入れる。『陰』な部屋の気。しかしそれも彼女らしい感じがする。

 ――寝ちゃったのかな? ご飯出来たんだけどな。俺はそっと寝台に近寄る。

「俺を誘ってるの? まったくフツキ嬢は可愛いんだから」

 壊れかけのガラス細工を扱うように真っ白な天蓋を優しく開けた。

「……寝ちゃってるし」

 白いシーツの波間に微睡む乙女。黒い髪を散らして、小さな口唇を少し開けてくぅくぅと眠っている。

 天使みたいだ――。

 長い睫毛は少しカールしていて、ワンピースから伸びた両足はすらりと細長く真っ白で。

 これで背中に羽が生えていたら完璧に天使なんだろうな、そう思うと急に愛しくなった。

「可愛い顔して」

 俺は彼女の頬をつん、とつつく。しかしながら一向に起きる気配はない。

「本っ当に危機感ないんだから」

 首元ではだけた桜色のストールをすっと指でどかすとくっきり浮き出た鎖骨と重力でベアトップから少しだけはみ出た胸が露になった。が、しかし。

「青薔薇?」

 まだ咲きかけの丸みを帯びた一輪の青薔薇がストールに隠されてフツキの胸元に置かれていた。まさかフツキが何処かから持ち帰った訳ではないだろう。

「ふーん」

 芳香が香っているうえ、色も艶やか、葉も生き生きとしている。ということは最近……いや、全く枯れてないしこの瑞々しさだ。ほんの少しの間に置かれたに違いない。

 宣戦布告……か? 一体誰からの?

「ナニかの予感」

 俺は青薔薇を手に取り軽く口付けると、そのまま一気にぐしゃりと握り潰し、フツキの上に散らした。

 その花弁はひらひら、ゆらゆら舞い降りてフツキの口唇に一枚乗ると一斉に光の粒となって消えた。

「ん……」

「起きて、フツキ嬢」

「クロ……ウ?」

「うん。ご飯出来たよ」

「わかっ……」

 た、って言う前にまた寝てるし!

「ちょっと起きてってば、フツキ嬢!」

 俺が肩を叩くとフツキは枕にしがみつき先程より半音下がった声色でんん、と言った。はい、不機嫌マックス。

「あっは、だったらご飯の前にフツキ嬢を食べちゃおっかなー」

「……だめ」

 フツキは少しもじもじするとゆっくりと瞳を開けた。

 優艶に咲く青薔薇の瞳、だんだん輝きが増して大輪の薔薇が咲いた。

「おはよう、フツキ嬢。ご飯、行くよ」

 何かいい夢でも見たのだろう。

 フツキはあどけない表情で顔をくしゃくしゃにして笑うと右腕だけを空に伸ばしてうーん、と背伸びをした。

「お腹空いたぁ」

「よし、じゃあ早く行こう。二人が待ってる」

 手を差し出すとフツキは元気良く頷き、ぎゅっと握った。

「夢じゃない、よね」

「え、なんて?」

 フツキは一人で何か呟いたようだがよく聞き取れなかった。

「何もない、早く行こ!」

 余程お腹が空いたのかフツキは俺の手を強く握り階段の方へ引っ張った。

 石段の急な階段を手を繋ぎながら降りる。その足取りは彼女のご機嫌を表していて、今にもステップからメロディーが零れそうだ。

「フツキ嬢って兎みたい」

「え、兎!? 私が?」

「ふわふわしてて、可愛いくて、気まぐれで、寂しがり屋」

「そう、かなぁ……」

 兎さんは視線を左下に向け、唸りながら考えている。でもこっちを向くとはにかんだような苦笑いで口を開いた。

「兎飼ったことないから分かんないや、ごめんね」

 何か微妙にポイントがずれている。この絶妙な抜け感は天性のものかはたまた軟禁生活で養われたものか……まあ、いい。

「でも嬉しい。私、兎好きなの。長い耳が可愛いわよね」

「そっか、なら良かった」

「ねぇ、クロウ。何故私を嬢付けて呼ぶの?」

「俺、姫って嫌いなんだよね。気持ち悪い」

「じゃあフツキでいいじゃない?」

「なんかフツキ嬢って感じなんだもん」

「私はフツキがいい!」

「俺はフツキ嬢がいい」

「……フツキがいいの」

「あっは、そっか。……じゃフツキね」

「うん!」

 何だか調子が狂ってしまった。

 俺的にはフツキ姫でもフツキでも青薔薇姫でもなくてフツキ嬢が一番しっくり来ているんだけど、そのフツキ嬢ご本人きってのお願いなら仕方ない。

 今までで一番楽しそうな顔をしている彼女に我が儘なんて言えるはずもなかった。

「二人共遅いですよっ」

 いつの間にかダイニングルームに移動していたようだ。アリシアが頬をぷくっと膨らませながら目の前に突っ立っている。

 一方レイラは足を組ながら本を読んでいて、ちらりとこちらを一瞥した後再び本に視線を戻した。

 あ、拗ねてる。レイラも素直じゃないんだから。

「ごめんね、アリシア。私寝ちゃっててさ」

「そうそう。だから目覚めのキス――」

「してませんっ! や、や、やめてよ、クロウ!」

 フツキは顔を真っ赤にしながら手と顔をぶんぶん振ると、繋いでた手を咄嗟に離した。

「もうやだっ、クロウさんたら。早く食べましょ。とりあえず姫様が元気になって良かった」

 アリシアは嬉しそうにフツキに抱きつくと、フツキも照れながら右腕をアリシアの背中に回した。

「心配かけてごめんね。でももうすっかり元気!」

「お熱い中申し訳ないですがご飯冷めそうなんですけど。僕もう空腹で餓死しちゃいそうなんですけど。背と腹がくっつく五秒前なんですけど何ですかこれ。新手のいじめですか」

 痺れを切らしたレイラが顎肘をつきながら早口で捲りたてた。

「行こ!」

 いいことを思い付いた俺は右手にアリシア、左手にフツキの手を取りダイニングテーブルへ連れていく。

「レイラ見て」

「何ですか?」

「両手に花」

 俺が繋いだ両手を軽く持ち上げると、レイラの眉間に異常なほどの皺が出来る。

「このテーブルに乗ってる鳥と一緒に火で炙られたら良かったのに。残念ですよ、ほんっと」

「あっは、生憎俺はチキン(・・・)じゃないからね」

「どういう意味ですかそれは!」

「もう喧嘩は止めなさい二人共!」

 アリシアの鶴の一声でお遊びは即座に終了。

 レイラは売られた喧嘩を買ったことに後悔しているのか頭を掻いて、グラスに入った水を一気飲みした。俺も俺で何だか妙に悄気てしまい、しぶしぶ席につく。

「ふっ、ふふ。あぁ、可笑しい!」

「フツキ?」

 その空気が可笑しかったのだろうか。フツキは席についた途端笑い始めた。

「二人ったらやっぱり仲がいいんじゃない!」

「良くない!」

「うん」

 もちろん否定したのがレイラ、肯定したのが俺。

「よく分かったわ。照れなくていいのよ、レイラ。ご飯にしましょ」

「……」

 レイラ沈黙。しかし皆がいただきますと言い両手を合わせると、彼もしぶしぶそれに従った。俺はレイラのこういう所も結構好きだったりする。

 テーブルの上には鳥の炙り、茸と野草の炒めもの、チキンスープとパンが用意されていた。

「姫様のお口に合うといいんですけどどうです?」

「うん、アリシアの料理すごく美味しい!」

 フツキはにこにこしながら炒めものを頬張っていた。アリシアも嬉々とした様子で優しく見つめている。何とも微笑ましい光景だ。そういえば前から気になっていたけどアリシアにとってフツキは一体どういう存在なんだろう?

「皆でご飯食べると美味しいって本当ね」

「そうだよ。楽しいよ」

 俺が答えると、彼女はうんうんと首を縦に振る。

「アリシア、お代わりある?」

「ありますよ、入れますわ。お皿貸して下さい」

「ありがとう!」

 フツキはぺろっとスープを平らげるとアリシアにお代わりをねだる。

 この子意外とよく食べるんだ、へぇ。スープ以外の皿はほとんど空で俺よりも食べるスピードが早い。

「ねぇフツキ、ここのお屋敷って鍵かかってる場所ばっかなんでしょ?」

「そうよ」

「開けらんないの、その部屋達は」

「そう、ね。多分無理よ、叔父さんも知らないの、全ての鍵の在り処は。数が多すぎて無くしたって言ってた。そんでもって叔父さんが保管していた残りの鍵の場所も私は知らないの」

「ふーん」

 沢山の部屋に鍵がかかっているのは恐らくフェイクだ。フツキが簡単に何かを探し出せないようにするためにこうやって嘘をついてたんだ。だっておかしいじゃん、家主が鍵持ってないとか無くしたとか。こうなったら虱潰しに全部開けていくしか……。

「御馳走様でした」

 いつの間にかお代わりまで済ませたレイラはすっと席を立ち、一人でグラスに水を注いでいる。

「フツキ、風呂を貸してもらえますか?」

「もちろん。あ、そうだ、少し待っててもらっていい?」

「え、えぇ」

 フツキは一気にスープを飲み干すと急にダイニングルームを飛び出していった。しかし数分後、彼女は何故か両手に抱えきれないほどの荷物を、不自由な左腕をも使って持って現れたのだ。

「ちょ、フツキ、危ないですよ!」

「よいしょ、はい、レイラの。ずっとそんな金属ついたベスト着てたら落ち着けないでしょ? これ、叔父さんのだけど良かったら使って?」

 フツキが差し出したのはバスローブと寝間着一式だった。全員分持ってきてくれたらしい。確かにレイラの茶色いベストには魔法防御のための特殊な金属が施されていて着ているだけで疲れる代物だ。金属自身の重さと魔力の重さに耐える体力や精神力が必要なので俺の普通の服とは訳が違う。

「ありがとうございます」

「お風呂沸かしておいたからいつでも入ってね」

「じゃあ申し訳ないですが僕先に入ってきます」

 そう言ってレイラはくるりと背を向けたが、一歩進んで立ち止まると再びこちらを向いた。

「あぁ、そうだ。フツキ、風呂に入った後、話をしましょう」

「何の話?」

「色々です。これからのことや皆のこと、世界のこと。どうです?」

 フツキの目が途端にキラキラ輝いた。ものすんごい楽しみなんだなぁ。

「うん、する! あれだよね、最近の子がよくする夜更かしってやつだよね!」

「最近っていうか悪い子ですよね、って一体どこでそんな謎めいた知識を? まぁいいです、じゃあ全員が風呂に入った後に客間で待っています」

「はぁい」

 フツキが元気良く手を上げたのに合わせて俺とアリシアも手を上げて返事した。便乗して少しだけ困ったような笑顔でレイラも小さく手を上げるとダイニングルームには楽しそうな笑い声が響いた。




   †




「何のお話してくれるの?」

 C字型ソファの向かい合っている部分に俺とレイラ、真ん中にフツキとアリシアが仲良く座っている。

 フツキが小さい頃着ていたであろうパジャマ姿のアリシアと二人で一枚のタオルケットにくるまりながら、ネグリジェ姿のフツキは森で取った桑の実をぽいっと口に入れた。

「そうですね。まず世界からお話しましょうか」

「うん!」

 まるで親に絵本を読んでもらっている子供じゃん。

 そのくらい無邪気な表情のフツキは風呂上がりのせいもあるだろうけど頬を仄かに紅潮させて姿勢を正した。

「ラウリナトスにはですね、生物を大きく分けると僕達ヒト、動物、魔獣がいます。魔獣と動物の違いはもちろん魔力の有無。魔獣の中では更にランクがあって、言葉を話せたり、変化できたり、魔力のかなり高いものであればあるほど高等に位置します。一方魔法を使える人間は三割いないでしょうね」

「じゃあレイラは三割の人間に入っているのね」

 そうフツキが言うとレイラは優しい眼差しを彼女に向けた。嬉しそうな顔しやがって。

「俺もだよー、フツキ」

「え、そうなの!?」

「そうだよ。ぶっちゃけ魔力はレイラより俺の方があるよ」

「知らなかった! クロウって意外とすごいのね、今までなんで従者か不思議だったんだけど」

 あれ、なんか今すごく余分な言葉が入ったんですけど。

「私は魔法なんて微塵も使えませんわ、耐性すら弱いんです。取り柄は知識と運動神経だけ」

 さりげなくフォローするようにアリシアが口を挟む。

「でもアリシアが普通なんですよ。僕やクロウが例外。ましてや魔法を職に、例えば魔女、魔導士、夢巫女、魔療師、それから軍人など選ばれたほんの一握りの者しか魔法を扱いこなせません」

「ふぅん」

「魔法を使うには魔力が必要で、普通は使いすぎるとすぐ魔力が枯れてしまい、最悪死にます。だから回復のため休まなければならないんです。しかし強力な魔力を持ち、回復が異常に早い者達がいます。それが古に滅んだと言われている『魔女』です」

「その言い方なら『魔女』は存在するようね」

「御名答」

 レイラは首にかかっているタオルをわしゃわしゃさせて髪の水を吸った。

 タイトな七分丈の黒いシャツとカジュアルなパンツ、それからお決まりの黒縁眼鏡をかけたレイラはまさしく水も滴るいい男そのものだ。

「まぁ『魔女』に会える日は楽しみにしておいて下さい。いずれ会うことになりますから」

「うん!」

「でも貴女の従者は『魔女』だけではありません。もっともっと特殊な生物も従者です」

「何なの?」

「秘密です」

「えぇっ! 気になるじゃない!」

 フツキが口唇を尖らせるとレイラは意地悪そうな腹黒い笑みを浮かべる。うわ、ブラックレイラ。

「えぇっ! って言われても秘密です。だから早く会えるようにここにしばらく滞在して元気になって少し魔法を学んだりしましょうね」

「うん……」

「そうだ、ねぇ、レイラ。それにフツキの生い立ちとか叔父さんについてとか調べてみたらいいんじゃないかしら?」

 アリシアが人差し指を立てて提案する。

「俺も賛成、かな。レイラだってフツキについて気になるでしょ?」

「まぁ……、そうですね。時間のある限り調べてみましょう」

 レイラは俺にちらりと目を合わせて頷いた。俺も頷き返す。

 意味深な合図。俺達にしか分からないやり取りだ。

「ねぇ、皆はどうやって自分達が従者だって分かったの?」

「夢を見たのです」

 アリシアが三角座りを正して、フツキの方を見た。

「夢? どんなの?」

「黒髪の女の人が夢に出てきて『貴女は優れた知能と運動能力を生かして橙薔薇の従者として青薔薇姫を護ることを誓いなさい』って。で誓った後、目覚めたらベッド一面に橙薔薇の花が落ちていたの。で気付いたわ」

「そうだよ、俺も」

「僕もです。僕はそれ以前にフツキに似た女の子が出てくる夢を見ました」

「そう……」

 フツキは深刻そうな顔でオレンジペコティーを一口啜る。

「私の話になっちゃうんだけど、私は小さい頃からよく夢を見る子だったの。でも夢は目覚めてもいつも鮮明で、必ずメッセージが込められてた。だから私も青薔薇姫ならそういう御告げの夢見たかったなぁ……って」

「フツキ。それはどういうことが言いたいの?」

「私は本当に青薔薇姫なのかな?」

 フツキは青薔薇色の瞳をちょっぴり潤ませながら、不安げに聞いた。

「魔力もない。戦えない。御告げもない。でも私に『青薔薇姫』としての価値がなかったら私……」

「御告げはそもそも青薔薇姫には来ませんわ。生まれて、その回りの魔導士達が判断し、私達が彼らからの情報をあてにして探すんですから」

 フツキはいまいち府に落ちない顔だ。確かに俺だって彼女の立場ならどう思うだろうか。

「それに私達はもう立派な友達ですわ」

「本当に……?」

「もちろん!」

「アリシアもレイラもクロウも昔から仲良しなんだよね、私は途中からだし……」

「そんなことに気を遣ってたの、フツキ!」

 思わずすっとんきょうな声を出してしまった。

「あっは! 君は面白いんだから」

「ちょっとクロウ……。ただ気を遣わせていて本当に申し訳ないですね。でもこれから僕達も貴女にそんな思いさせないようにしますから」

「その言葉は明日言ってあげた方がいいんじゃないかしら?」

「え?」

 当のお姫様はいつの間にかアリシアの肩に頭を乗せながらすやすやと眠りについている。

 この様子じゃせっかくのレイラの言葉は聞けていないだろう。あーあ、残念な、可哀想なレイラ君。

「姫様にはまだ夜更かしはきつかったかな……。青薔薇姫の神話も語ってあげたかったのだけど、今までの軟禁生活上、体力はあまりついてないはずだもんね。それでもここ数日姫様はよく頑張られましたわ」

「ですね。僕、寝室に寝かせてきます」

 レイラはソファーから腰を上げるとフツキの首と膝裏に腕を入れて、起こさないように、持ち上げた。

「寝込み襲っちゃ駄目だよ、レイラ君」

「……貴方と一緒にしないで下さい。じゃ行ってきます。明日から探索(・・)を始めますので二人共早く体を休めて下さい」

「了解」

 レイラが足早に客間を出るとアリシアは一つ溜め息をつく。

「お似合いよね、あの二人」

「あっは。……そうかもね」

 俺はアリシアが二人を見つめる茶褐色の双眸をしばらく忘れることが出来そうになかった――。



ひたすら長いぐだぐだクロウターン。ぐだぐだですが意味はある、はず。飄々変態クロウさんの謎思考の一部が伺えますね。

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