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第9話-7・〜殺戮の魔女

また遅くなってしまった(><)今、若干スランプなんですよ〜汗 とりあえずお楽しみ頂ければ幸いです!

 僕達が出会ったのは5年前の春だった。

 大抵、魔女の里に住む者は10歳から魔法学校に通い、20歳に卒業する。この魔法学校さえ卒業すれば一人前の魔女、魔導士として認められるからそっからは就職するのも有り、魔法学院に通うのも有りなんだ。

 僕はそのまま院生になったよ。まだまだ勉強がしたかったしね。

 サブリナが院生になって僕のいる学部に来たのは僕が3年の時だった。つまり彼女は同じ部にいる後輩。

 彼女、あんな体つきしてるだろ? そんでもって綺麗なオッドアイだし、魔力はハンパないし本当に皆からの憧れの的って感じだった。でもサブリナって気高い女だから、決して男にフラフラする事もなく女性としか交友関係は広めなかった。特に僕みたいな感じの奴は嫌いみたいで、僕はかなり嫌われていたよ。

 でもいつしか僕は彼女の気高さに惹かれてたんだ――。

 ある日、僕は研究室に忘れ物しちゃってさ、急いで家を飛び出て、キャンパス走って研究室に戻ったよ。

 そしたら廊下を走ってるのにも関わらず、研究室の中からすごい音が聞こえてきたんだ、僕やサブリナが研究してたのは【召喚獣】だったからすごい嫌な気がしたよ。僕ら、育成してたから。

 予感は的中。急いで中に駆け入ると……

「サブリナ!?」

「あんたっ、どっか行きなさいよ!」

 そこにはトカゲ型の大きな召喚獣に右腕を丸ごとがぶりと噛まれていたサブリナの姿があった。彼女も必死に抵抗していたんだけど、杖は右手に握っていたみたいだから魔法が発動できなかったんだ。

 彼女を助けなくては!

 そんな思いで必死だった僕はステッキを取り出し、召喚獣の顔面を光線で切ると召喚獣は痛みに呻き、大きな口を開けた。

 彼女は右腕を解放されて、よろめきながらもふらりと立ちステッキを構える。そして僕でも聞き取れないくらいの早さで呪文を唱えると召喚獣を炎で燃やした。

「サブリナ、大丈夫!?」

「来ないで!」

「だめだ、腕を見せて」

「やめてってば!!」

 僕は抵抗するサブリナを押さえ付けて、血で真っ赤に染まったステッキを取り上げた。

「これは……!」

 驚いたよ。彼女が【殺戮の魔女】だったなんて。

 彼女が手に握っていたのは大きな法螺貝が真珠や鎖で彩られた【人魚姫の杖】だったから。

「だから見ないでって言ったじゃない!!」

 サブリナは力が入らないはずの腕に精一杯力を込めて、ステッキを直ぐ様奪い取り僕に向けた。

「何するんだ!?」

「皆に言うんでしょ!? 私が【殺戮の魔女】だって!!」

「言わない、言わないさ! だから早く傷を」

「いやぁぁぁっ!!」

 サブリナは血が出そうなくらい頭を掻き、短い紫の髪の毛を振り乱し、ひたすら絶叫する。

「いやいやいやいや! 誰も来ないで! 私は何もしてないの!! なんで私なのよ!!」

 ただひたすら泣き叫ぶサブリナ。

「サブリナ! しっかりするんだ!」

 僕は始めサブリナを気絶させようと思った。でも彼女が今までに経験したただならぬ何かを感じて、僕はあえてサブリナを抱き締めて励ました。

「違うの、私は……私は殺してなんかいないのよ!!」

「君が人を殺すはずないだろ?」

「私はっ私は……! ああああ!!!」

 完全に気が動転したサブリナは魔力を押さえ切れず僕の胸板を叩いて、引っ掻き、紅色に染めていく。

 耳が千切れそうなくらい、彼女の声が響き、エコーする。胸は痛かったけれど、ここで彼女を離せなかった。いや、離したくなかったんだ。

「サブリナ、どうしたの!?」

 物凄い騒音とサブリナの叫び声を聞いたメイト達が研究室に駆け入ってきて、僕は咄嗟にステッキを奪い取り、魔法で隠した。

「大丈夫。召喚獣が暴れたのさ、処理を頼む。僕は彼女を家まで送るよ」

「えぇ。サブリナ、大丈夫?」

 僕はこくこくと頷くサブリナを即して、研究室を出た。











「先に僕の家で腕の手当てをしよう。いいね? ほら、入って」

 僕に肩を抱かれながらただ黙ってついてくる彼女。

 僕の家に着いてただ人形のような彼女を取り敢えず押し入れ、椅子に座らせて、僕は【人魚の杖】を彼女に差し出した。

「君の物なのかい?」

 返ってくるのは静寂。そして、むせ返りそうなくらいの血の臭いに交じった彼女の甘い香りが部屋を漂う。

「君のじゃないなら、こんな物捨ててしまおう」

「私の!」

 杖を半分に折ろうとした僕の手を制止し、サブリナは杖を取り上げた。

「どうして?」

「駄目よ、駄目なの。私には夢がある。それを叶える為にはこれが必要なのよ」

 血塗れの腕で美しく、妖しい杖を胸に抱いた彼女の顔はどこか哀しげで、でも何かを決心したような顔だった。

 まるで為す術を無くした女神のようで――。

「君は……」

「そう、私が【殺戮の魔女】よ。遥か昔から嫌われ、憎まれ、忌まれた魔女」

「君が人魚の姫を殺したのかい?」

 サブリナはゆっくり首を横に振る。

「……貴方達は過去を取り違えている」

「僕、君の力になれないかい?」

 サブリナの腕を魔力で綺麗にし、傷を塞いでいく。やはり華奢な腕で、今にも折れそうだったよ。

「私から離れた方がいいわ。もしかしたら今回みたいにうまくいかないかもしれないから、いつか誰か暴くでしょう。私の存在を」

「でも君は一人じゃ生きていけないだろ?」

「一人じゃない。リネットも、メグもいる」

「君自身が拠り所と出来る人がいないじゃないか! つらいだろ? 味方になってくれそうな奴を頼れよ!」

 サブリナは俯きステッキを握り締め、いきなり子供のようにぽろぽろ涙を流し始めた。

「だって……私、【殺戮の魔女】だもん! 私だって……誰かに助けて欲しいわよ。でも……裏切られるのは嫌なの」

「サブリナ、僕が力になるから。君は泣かなくていいから」

「エ……エドイス先輩」

 そう言って僕は彼女をしっかりと抱き締めた。






 それから僕らは彼女が【殺戮の魔女】であることを懸命に隠し、彼女はもっと社交的になった。彼女は強くなる為に僕に特訓を挑む事も出てきたしね。それからはお互いがお互いのいい所見つけて、笑いあって、助け合った。

 僕は更に惚れたよ。あぁ、思い通りの女性だと。特に笑顔が今だに忘れられない。彼女の強くなりたくて必死だった姿も忘れられないけどね。

 そうやって3年付き合った。



 サブリナがラウリナトスに旅立つ目前で雨の降る日だった。そんな新たな日を前に、僕らの平和なキャンパスライフが終わったんだ。



 僕は朝からキャンパスに向かい、実験をしていたんだ。確か五時くらい、もちろん召喚獣の研究さ。でも七時半過ぎくらいかな、雨の音を遮るくらい外が異様に騒がしくなり始めたんだ。

 僕もただのじゃじゃ馬精神で、実験を置いておき外のエントランスに向かった。

「え?」

 僕、血の気が引いたよ。

 エントランスにあった掲示板一面にサブリナが【人魚姫の杖】を持って特訓している写真が貼ってあり、更に【人魚姫の杖】が……無造作に刺さっていた。

「エド、お前の彼女じゃねぇの? サブリナって」

「あぁ……」

「え、先輩サブリナが【殺戮の魔女】だって知ってたんですか?」

「僕は――」

「すごーい! エドイスやるじゃない!!」

「そうだ、魔女の正体を暴くだなんてやるじゃないか! ここ何年も分かっていなかったのに」

「違う、やめてくれ」

「「エドイス万歳ー!!」」

「ちょ、やめろよ!」

 そうしたらすぐ後ろで誰かが傘をバサリと落とす音がした。

「エド……?」

 くるりと振り返ると、そこにはただ虚脱感に侵されたサブリナが。

 辺りがしん、と一気に静まり返り時が止まる。

「違う、僕じゃない!」

 彼女の色違いの瞳が大きく見開かれて、僕をただじっと見据える。

「……売ったの? 私を、殺戮の魔女】だって」

「何言って――」

「そうよね、誰だって魔女の正体知りたいわよね。何、お金? それともただ私が欲しかったの? 誰かに喋りたくなっちゃった?」

「違う! 僕じゃない、信じてくれ!」

「私の特訓付き合ってくれたのも……貴方だけだったわよね」

「サブ! 本当に違う! 僕がそんな事する訳無いだろう!?」

 たった今、二人の間に出来た溝はどんどん広がるばかりで。

「待って! 行かないでくれ!」

「触らないでよ!」

 サブリナは彼女の肩を触ろうとした僕の手を払う。強く、力を込めて。

 それからサブリナは人を掻き分けて、杖を引き抜きこちらへ振り返った。

 彼女はまるで人間に傷つけられた猫が人間を睨み付け忌んでいるような、また悲しみも少しばかり含んだ顔でただ僕をじっと見つめて。

 そんな彼女の頭が、顔が、雨と涙で濡れていく。僕はそれを拭く事も出来ずただただ立ち尽くす。

「エドなんて……エドなんて大ッ嫌い!!」

 彼女は魔女の帽子をどろどろになった地面に叩きつけて、泣きながら走り去っていった。

 誤解も解けぬまま――、そうして僕らは再び出会ったんだ。











「じゃあサブリナはエドお兄さんが裏切ったんだと?」

「だろうね」

 そんな……なんて残酷な話なの。

「そうしてサブリナは魔女である証の帽子を脱ぎ捨てて、ラウリナトスへ旅立ってしまったんだ」

「どうしてサブリナはラウリナトスに? やはり魔女の里にはいれなくなったの?」

 エドイスお兄さんはゆっくり首を横に振り、こう呟いた。

「サブリナが僕に強くなりたいって言ってたの覚えているかい?」

「えぇ」

「彼女、青薔薇姫を護るんだって言っていたんだよ」

 まるで皆のお姉さんで、お母さんのように私達を見守ってくれてるサブリナ。

 そんな決意していたんだ――。自分の故郷を捨ててまで、私を護ってくれてるんだ。

「私は青薔薇姫に仕える紫薔薇の従者だって」

「そうだったんですか……」

 知らなかった、そんな彼女の信念。

「でも君が気を病む事ないよ」

「……どうして?」

「彼女自身が――人魚姫の唄を受け継ぐ為、【殺戮の魔女】と呼ばれる魔女を無くす為もあるから」

 さっきから何度も出てきた【人魚姫】と言うワード。でも何がなんだかさっぱりで……。

「人魚姫って……【殺戮の魔女】と何か関係あるんですか?」

 エドイスお兄さんはドアノブにかけた手を一度止め、こちらに向いた。

「あぁ、古い古い昔から伝わる歴史さ。……サブリナの実験室で本を探すといいよ、人魚姫の本。自分で知った方がいいと思うし」

 それって――夕焼け色のマーメイドの挿し絵がありますか?って聞こうと思ったけれど、やめた。だって多分それよね、私の第六感だけど。

 それに扉の向こう側には大切な仲間がいる。早く会いに行かなくちゃ。

「いくよ」

 ドアが音立てて開き、悪臭が漂う部屋が姿を現す。

「アリシア! え?」

「フツキ!」

 思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。だってそこには泣きじゃくるアリシアに寄り添うレイラの姿があったから。

 全身に変な脱力感が駆け巡る。

 それがアリシアの安全を確認出来たからなのか、自分の安全を確認出来たからなのか、それとも……また二人の絵姿を見てしまったからなのかは自分でも分からなかったけど。

「っ……!」

「フツキちゃん!」

「フツキ!」

 思わず気が緩み、前のめりに倒れそうになる。

「大丈夫かい!?」

「えぇ、少し痛みがきただけです」

 背中の傷が痛む。疲労感がつきまとう。

「フツキちゃん、その傷を先に治した方が」

「いえ、アリシアを先に。私の傷、浅めですから」

「……分かった。金髪の君、サブリナは?」

「レイラと申します。はい、そろそろ戻ってくるはずですが……」

 レイラは背筋の伸びた体を少し折り、綺麗な敬礼でエドイスお兄さんに挨拶をした。

「きゃっ!」

 突然エドイスお兄さんは私をお姫様抱っこしてレイラに差し出した。

「レイラ君、フツキちゃんといてあげなさい。彼女、背中と肩、切ってるから気を付けてあげて」

「はい」

 あぁ、いつものレイラの抱き方だ。なんかこう……安心するっていうか。

「行きましょうか」

「うん」

 私はレイラの胸板に顔を当てて、今は彼に身を委ねる事にした――。


次回からまた普通にまたぐだぐだ二人のシーンに戻ります←

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