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第9話-6・〜優しすぎて

多少遅くなりました(><)ついにあの人登場です!

 ねぇ、二人はいつか巡り逢えるんでしょ……?





















「んっ……」

 嘔気と恐怖が私を襲う中、ずるずると木陰に引き摺られていく――。足を踏張ろうとしても、余りにも力が強くて逃れることが出来ない。もう何も出来ないの?

 後ろは見えないけど、広い胸板や口を押さえる白手袋をした手は男性のものだった。

 待って。……これってロジャーじゃない?

 だって私が撃った手には黒い革手袋がはめられていたもの。確かに見たわ。

「おらおら、青薔薇ちゃ〜ん? どこにいるんだよ、俺は鬼ごっことか好きじゃないんだけど〜。ははッ、逃げても無駄だぜ?」

 すぐそこにロジャーがいる。見つかるか見つからないかはもう時間の問題に近かった。早く逃げなきゃ。 誰? この人は誰なの? 離して、逃げなきゃ!

「んんっ!」

「静かにして」

 忘れそうになっていた記憶が蘇る。低くて撫でるような声はあの時の――。

「今は僕がサブリナの代わりに護ってあげるから」

 やっぱりあの時の人だ。 彼は小さな声でぶつぶつと呪文を唱えると足元に魔法陣を出し、私の体を解放すると正面に回り込んでしっかりと向き合った。

 改めて近くで見るとやっぱり綺麗な人で黒いとんがり帽子を被っている。長めの灰色の前髪からは切れ長だけど優しい紫色の瞳が私を見つめていた。

「君は今は誰からも見えない。だからここから動いちゃ駄目だよ」

「は、はい……」

「あぁ泣かないで。痛いだろうね、怖かったろう」

 一気に緊張が溶けて目から涙が溢れ出して、声が震えた。お兄さんはすっと私を抱き締めて、頭を撫でてくれる。

「傷はあとで治療してあげるから少し我慢しなよ? あと何かある?」

「皆……死にませんか?」

「あぁ、死にはしないさ。ただ一瞬、手放してしまっただけだよ」

 そう言うと私の頭を一撫でしてお兄さんは私から離れた。

「すぐ戻るから待っておきなさい」

「お兄さん!」

「大丈夫だよ」

 お兄さんはくすりと頬笑み、私の呼ぶ声を無視して自分だけ魔方陣の中を出ていく。

 彼の手にはいつの間にか黒いステッキが握られていて、先程の柔らか過ぎるオーラは消えていた。そんな彼は物怖じもせずロジャーの前へ歩いていく。

「何だ、てめぇは? 青薔薇をどこにやりやがった?」

「知りませんよ、君こそ何をしてるんですか?」

「青薔薇どこにやったか聞いてんだよォォ!!」

 ロジャーが大剣を振りかざして、お兄さんに襲い掛かろうとする。切っ先がもう紫の瞳の目の前に――。

 危ない!! そう思って目を瞑った瞬間、思わず耳を塞ぎたくなるような金属音が鼓膜を振るわせた。

「短気なのはいけませんよ?」

「なっ……!」

 そこには大剣の10分の1もないような細いステッキで大剣を軽々と受け止めているお兄さんが。

「単純思考でミジンコ以下の君が魔女や魔導士に勝つなんて――100億年早い」

 お兄さんはロジャーの大剣を凪ぎ払いロジャーの手、それも私が撃った辺りを的確に、そして思い切り叩いた。一瞬、バキッと骨が砕けたような音がし、ロジャーは痛みに呻いて思わず大剣を落とす。更に彼はそれをステッキで遠くに払い、ステッキの先をロジャーに向けてこう言った。

「お前のような愚者が青薔薇姫やサブリナに近寄るんじゃない」

 ステッキの先で光る何かが弾けてロジャーを包み込むとロジャーは一言も発す間もなく、そして跡形もなく消えてしまった。

 強い……、魔力があるとこんなにも人は強くなれるんだ。

「大丈夫だったかな?」

 気付くとお兄さんは目の前にいて、足元にあった魔方陣も風に飛ばされたかのように姿を消して、私は見えない檻から解放されていた。

「はい、ロジャーは死んだんですか?」

「いや、移動魔法でラウリナトスのどっかに帰したのさ。――彼を本気で殺したい方がいるようだからね」

「はぁ……」

 やっぱロジャーって色んな人から恨まれてるんだ。そりゃあんな狂った感じなら……分かる気はするけど。誰だろう、彼を本気で殺したい人。

「あ、君の名前は? 僕はエドイス。好きに呼んでくれてかまわないよ」

「私、フツキです。さっきはありがとうございました」

「もちろん、気にしないでくれ」

 エドイスお兄さんはステッキを手から離した。するとステッキは地面すれすれで止まり、消えてしまった。

「魔法が面白い?」

「えっ。あ、はい!」

 ステッキに気を取られていてついついぼーっとしていた。でも魔法って素敵だな。

「あの……」

「何だい?」

「私って青薔薇なんですか?」

 エドイスお兄さんは少し驚いた顔をすると黙ってしまった。生温い風が私達の間を吹いては、去っていく。頬を撫ぜるその感触は……なんだか生命(いのち)を感じさせた。するとお兄さんは突然あははと声に出して笑った。

「僕は知らないさ、ただサブが言うって事は君は選ばれた青薔薇なんじゃないのかな? それに君に青薔薇はぴったりだよ」

「ありがとう」

 ぶっちゃけ青薔薇が似合うだなんて臭いなって思うけど、エドイスお兄さんが言うと何の違和感も無かった。むしろ紳士的なお兄さんにはそんな言葉がお似合いだ。

「嫌なのかい? 青薔薇である事が」

「だって分からないんですもの、私が青薔薇だなんて。でも皆が皆、青薔薇って言うから……」

 エドイスお兄さんにこんな事言うのもあれだと思うけれど……何だかお兄さんはゆっくり聞いて受け入れてくれる気がした。

 レイラにもサブリナにもそんな事、誰にも言えない。皆が必死で私に気をかけてくれてるのを知っているから。

「でも皆、フツキちゃん自身が好きなんじゃないかな?」

「え?」

 エドイスお兄さんは少ししゃがんで私に目線を合わせ、頭をくしゃくしゃと撫で始めた。

「おっお兄さん!?」

「僕は君を初めて見た時、物凄く美しい子だと思った。見た目じゃない、内面から綺麗なんだ」

「……私には分かりません」

 そう言って思わず俯く。だって自分の事って分からないから。

「だろうね。とりあえず家においで、背中の傷とか治さなきゃいけないからね」

 目の前のお兄さんはそう言って私を手招きした。

 え、この距離で?

 申し訳ないけれど身の危険を感じて思わず私はその場に立ち尽くす。するとそれを見たお兄さんは再びははっ、と笑った。

「大丈夫だよ、移動魔法使うだけだから」

「あ、はい」

 あぁ、疑ってごめんなさい。そんな気はなかったけど某男子にそんな事言われて騙された事あったから思わず。

 一歩足を出して、また出してと地に足つけて進むけれどその度に体中が痛む。常に痛いけれど更に鈍痛が体を駆け巡るのは傷のせいかな?

 お兄さんの横にぴたりと並ぶと、お兄さんは私にしっかり掴まるよう促した。そしてステッキを手のひらから取り出し地につける、さっき聞いたのとはまた違う呪文を唱え始めた。と同時に先程とはまた違う魔方陣が足元に浮かび上がる。

 ……あ!!

「お兄さん! 待って、サブリナの家に連れていって!」

「でも傷が」

「いいから! 友達が危ないの!」

「いいよ、行こうか」

 足元の魔方陣から風が吹き上げて捲り上がるスカートを押さえ、目をぎゅっと閉じた――。











 目の前には鋭く尖ったガラスの破片。そして血の色一色に染まっている家の中。

「アリシア……!」

 駆けようとしたけど、あの馬の光景が蘇ってきて足が思いとは裏腹に進まなかった。

 するとお兄さんが私に肩を貸し、体を支えてくれた。

「エっ、エドイスお兄さん!?」

「体が弱っている時に魔力に当てられたら、少し具合が悪くなるものだよ。家の中もこれだし」

「でも」

「いいから今は僕を支えになさい」

 私はお兄さんの背中に腕を回して燕尾服を力の限り掴んだ。

「お兄さん」

「なんだい?」

「あとで……一緒に馬達を葬ってやって下さいませんか?」

「あぁ、もちろん。君は大丈夫なの?」

「えぇ、私のせいですから。――あの子達が死ぬことになったのは。それがせめてもの供養なんで」

「そうか」

 お兄さんは嫌な表情一つせず、承諾してくれた。ゆっくりと私の歩調に合わしてくれるし、随分長い間しっかり支えてくれている。 狐火の浮かぶ血塗られた廊下をスローペースで進んでいく。この分だと部屋に辿り着くのはまだまだだろう。ただ沈黙とお互いの熱が私達の間を行き交っては包み込む。

 ふとお兄さんの顔を見上げて見てみると、長い睫毛が(すみれ)色の硝子玉を見事に縁取っていてまるでこの世の人じゃないみたい。まぁある意味、この世の人じゃないんだけどね。

「ねぇ、お兄さん」

「どうしたの?」

「貴方はサブリナの何?」

 ずっと気になってた事。エドイスお兄さんとサブリナの関係。私はあの時のお兄さんの顔が忘れられなくて――。余りにも切なくて痛々しい顔、ほんとに小さく見えた背中。

「サブリナは――僕の大切な人だよ」

 あぁ……、やっぱり。

「じゃあ二人は……」

「今では過去形だね」

「そう……だったんですか」

「すれ違いが産んだ……歪んだ運命」

 やっぱり何かあったんだ。この温和な二人がお互いを憎み合っているの? 違う。お兄さんは……お兄さんの瞳はサブリナを求め探している。

 家の中は血の匂いが充満、そして耳に入るのはゆっくりすぎる二人分の足音と時々、悲鳴をあげるように軋む床の泣き声だけになってしまった。

「でもどうしてそんな事を?」

「だって初めて見たお兄さんの顔が余りにも悲痛だったから――」

 エドイスお兄さんもサブリナもとてもとても優しくて、こんなにもお似合いなのに。

「フツキちゃん」

「はい?」

「ありがとう」

 その時のお兄さんはにっこりと笑って、本当に柔和な笑みを浮かべて私に感謝の言葉を述べた。

「そんなっ、私は何も……」

 正直、ありがとうと感謝されたのがすごく嬉しくてにやけちゃった。でもたった5文字の言葉がこんなに人を幸せにするなんて……素敵だと思う。

「知りたいかい? 僕達の事を」

「え、でも……」

「いいんだ、それに君は知っておいた方がいいだろう?」

 知りたい、けれど聞いてしまってもいいのだろうか? 私みたいな部外者が……。

「とりあえずは口を挟まずに聞いておくれ」

 そう言ったエドイスお兄さんは息を吸い込み、大きく呼吸するとゆっくり語り始めた――。


次話は二人の悲しい過去編です。お楽しみに☆

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