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第9話-5・〜Sign

結構早めな更新!お話は前回とかに比べると短めですが、もやもやレイラ君視点です笑

 俺に……もっと力があれば――。





















「サブリナ大丈夫?」

 僕はあいつのそんな声でふと我に返った。

「えぇ、大丈夫よ。ありがと」

「どういたしまして」

 僕はあいつのあんな作られた笑顔が嫌いだ。どうしても受け付けない。――そりゃお前はどうなのかって聞かれたら、難しい所には変わり無いけれど。本能のままに、汚れ無く生きる事が出来るのは選ばれた人間だけだと思う。

 僕達はサブリナの妹・リネットの救出に向かっている。聞いたところによるとリネットに化けたポーンがフツキを襲おうとしただとか。玄関にあったポーンの骸は見たけど、まさかここまで追ってくるとは。あいつ達の執念には本当脱帽したくなる。

 とりあえず今はリネット救出の為に気味悪い真っ暗な洞窟にいる。サブリナ曰く、ここからリネットと同じような魔力を感じるらしい。

 洞窟の中はじめっとしていて、昼なのに物が見にくいと感じるくらい暗い。しかも奥に進めば進む程、更に暗さは増していく。まるで僕らを飲み込もうとしているようだ。ときおり頭や顔に冷たい雫が垂れてきたり、足に何かを踏み潰したようなむにゅっとした感覚を覚えたけれど、耳に入るのは僕らの足音と水滴が落ちる音と動物の鳴き声だけだ。

「レイラ」

「はい」

「君こそ大丈夫?」

「大丈夫だから気にしないで下さい。ていうかこっち向かないでもらえますか?」

 僕がそう言うとクロウはシルクハットを被り直してにやりと笑った。

「ほんといつも面白いね、君は」

 だから何なんだ。あー、落ち着かない。一発誰かにヘッドロックかましたい気分。

「アリシア心配だね」

「……全くもって心配そうに見えませんが」

 クロウはくくっと笑い、僕の肩を叩いた。

「俺は心配、でもセシリーもヤな女だよね〜。魔力が皆無のアリシアにあれを埋め込むなんて」

 確かにそうだ。魔力が多少でもあれば耐性が出来て、抗体も出来る。魔力が全く無いのは僕らの中ではアリシアだけだ。きっとセシリーはそれを狙ったのだろう、僕らの足を引っ張る為に。

「それにしてもさ〜、フツキ心配だね」

 このワードが今は一番聞きたくなかったかもしれない。だけど別に、とも言えなかったし、うん、とは言いたくなかった。

「フツキが残るって言ったんですからどうだっていいんじゃないですか」

 あの時のフツキの顔が脳裏から離れなかった。少し怒りながらも、笑いながらも今にも泣きそうなあの顔。

 ――あの時、彼女もフツキと同じような顔をしたから。

「フツキはまだ素直になりきれていないだけさ、そして君も」

「クロウに言われたかないです」

「俺はいつだって素直に、本能のままに生きているさ」

 確かに。こいつが本能のままに生きていなかったら世界に犯罪など存在しないだろう。でもこいつの野性的な生き方が人を悩ましている事も分かって欲しい。

「でもさ、ぶっちゃけ俺が思うにフツキに期待しない方がいいよ」

「は!?」

 思わずクロウの方を向いてしまった。案の定、僕の顔を見てクロウは大笑いする。

 くそっ、変態が。

「こんな言い方もあれなんだけど、フツキ姫は誰かに一緒にいて欲しいだけなんだよ。今まではレイラがずっと一緒にいたじゃん? だから今独占欲でイラついてるけど俺でもジャイロでも代わりはいくらでもいるんだ」

 何なんだ。いつも思うけど本当にこいつは何なんだ。いちいちムカつく発言をしてくる。

「僕はそんな気ありませんし。てか彼女がイラつく理由なんてどこにあるんですか、僕は彼女の――」

 クロウは驚いた顔をして、ふぅと溜息をついた。

 何故、姫がイラつかなければならない。実際、アリシアが危なくて、姫に当たられ、クロウに絡まれている自分の方が哀れだ。

「ははっ、レイラって案外馬鹿だな」

「な、ジャイロ!」

 前方を歩いていたジャイロは歩く速度を遅らせ、横に並んできた。

「レイラさぁ青薔薇に惚れたワケじゃねぇのな。あーぁ」

「惚れたって……、別に」

 惚れたか惚れてないかなんてまだ分からない。いや……好きだとは思う。でもあんな事言われたら多少なりともカチンとくる。

「レイラ、女一人くらい真面目に護れよ」

「は? その台詞そっくりそのままお返ししますよ、クソガキ」

「なんだと! このプレイボーイ!」

「ん? 君とは違って大人ですから」

「もう止めなさーい!」

 いつの間にかサブリナが僕達の前に立ちはだかりじっと睨み付けた。

「どいつもこいつも結局は10代のガキなんだから! 今はリネット救出に集中してちょうだい」

「……」

 サブリナに言われると黙って従うしかない。まぁ、本来のリネット救出っていう目的も忘れてましたし。

 あー、本当にムカつくなぁ。嫌な事ってどうしてこんなにも立て続けに起こるんだろう。ん?

「っ!」

「レイラ君、どうしたの!?」

「何かが飛んできたから避けたんですが……何でしょうか。ティーティ、明るくしてもらえますか?」

「OKよ」

 そういうとティーティはひらりと舞って、呪文を唱えた。

 そこにいたのはオレンジがかった茶髪の20歳前後くらいの女性。量は比較的少なめで先だけ巻いた髪は見るからにサラサラそうだ。前髪からちらりと覗く大きな瞳は僕らを哀しげに見つめていた。ただ具合が非常に悪いみたいで顔が青白い。

 もしかしたら魔界虫に犯されているのかも、なぜなら彼女を取り巻いていたのは人間サイズの大きな蛾――多分魔界虫だったから。更にその周りには人間の顔サイズの蛾。どの道、蛾にしては大きすぎるし色も変に派手で気色悪い。

 するとサブリナが急にふらりとよろめいて、僕の胸に倒れてきた。

「サブリナ、大丈夫ですか!?」

「ごめんなさい。――レイラ君、後ろでサポートするから任せてもいいかしら。あの子を助けてあげましょ。とりあえず背中は任せてちょうだい」

「分かりました、無茶しないように。ティーティ、サブリナについて」

「いいわよ」

 今日のサブリナは何だか変だ。体調が悪いのか、倒れるだなんて滅多に無いのに。

 ふと嫌な羽音が耳につき、ふと見てみると虫達がこちらにじわりじわりと詰め寄ってくる。

「悪いのは見た目だけじゃねぇみてぇだな」

「俺らに勝負挑むしアリシアを殺そうとするなんて度胸のある虫さんだね」

「洒落臭い、今すぐ地獄に叩き堕としてやりますよ」

 そう言うと全員が武器を構えて、ひらりと飛び出した――。











「やれやれ」

「終わりましたね」

「あーあ、気持ち悪い」

 ジャイロの言う通りだった。サイズが違おうが所詮は虫。戦いはすぐ終わったが、羽の千切れたのや緑色がかった体液が服に染み付いて悪臭を放っている。

 こんな事になるならカッターシャツ、着替えなかったら良かった。

「君、大丈夫?」

 クロウがいつになく紳士的にその女性に手を差し伸べた。

「はっ……はい。うっ」

 恐らくその場にいる全員が見たと思う。彼女の首筋で大きな何かが蠢いて消えた所。嫌な予感がした。かなりまさかの事態。ティーティはふわふわ飛んで女性の肩に乗ると首筋に手を当てていた。だんだん険しくなるティーティの表情を見ると、事態は最悪だ。

「急がなきゃやべぇんじゃねぇの、これ」

「うん、魔界虫だよ! サっ、サブリナ!?」

 女性の首筋を診ていたティーティが背後にいたサブリナの異変に気付いた。サブリナは頭を抱え込み、その場で膝をついていた。

「っ、ごめんなさい。ちょっと頭痛くて……」

「早く戻りましょう」

 僕はサブリナの肩を抱いて、そのまま外の入り口に向かおうとした。

「うあっ!」

「レイラ!? どうしたのよ!」

 ティーティがすぐに寄ってきて、小さな手で頬を叩く。

「背中にっ……痛みがきて……! あっ!」

 心臓がドクンドクンと激しく高鳴る。思わずサブリナから手を離し、しゃがみ込んだ。何かが刺さるような鋭くて、切り裂くような痛み。

 そしてその時、ふと彼女の顔が浮かんだ――。

「フツキ!」

 何かがあったに違いない。でも……。

「呼ばない……」

 何故だろう、前は確かにフツキが呼んでくれている感覚があった。でもどうして今回は……? こんなにも痛みと緊張が体に走っているというのに。

 どうして――?

「そんなのいいからレイラ君は先に行って! フツキちゃんに何かあった事は間違いないわ」

「でもっ皆」

「早く行きなさい! 私達はいいから!」

「……すみません」

 僕は立ち上がってすぐに駆け出した。見えにくい暗闇の中を滑るように駆け抜ける。急がなきゃ、でも速さなら誰にも負けない。

 僕自身が研究を重ね、魔力を組み合わせて編み出したんだから。

「馬鹿……!」

 背中に走る痛みは未だ止まらない。僅かに伝わってくる恐怖と嘔気。

 まだ生きてるとは思うけど……頼むから呼んでほしい。

 ただ無我夢中に走って走って、闇を斬り分ける。

 早く早く。もっと早く。急げ……、紅の豹なんだから。

 ひたすら周りに目もくれず走って、光が差す世界へ飛び入った。

「え?」

 走るような痛みが急に和らいだ。吐き気も恐怖も今では消え去っていて、何も感じない。

「何があったんですか……、フツキ?」

 僕はいつの間にかサブリナの家に通じる道にいて周りは鮮やかな草花に囲まれていた。一見、閑かな一軒家。

「これは……」

 ただ違ったのは漂う空気だった。僅かに二、三人くらいの魔力が香っている。その中に、間違えるはずもないフツキの香りが――魔力の香りが芳しく漂っていた。

 もしかしてあの銃を? いや、そうとしか考えられない。まぁ彼女が銃をぶっ飛ばす可能性は十分あるしそうだろう。それはそれでいい。

 だって現にフツキの死体はありませんから。

「どこにいるんですか……、フツキ。僕らの青薔薇姫」

 池を通って、花壇も横切り家の前に辿り着いた。

 明らかに異変のある家。入り口には透明に煌めく粉々になったガラスの破片が散らばり、ドアは開けっ放しでそこから開く廊下は黒くはびこる血に(まみ)れていて、大きな足跡が残っていた。

「ロジャーっ……」

 ここに残る邪悪な臭いはあいつしかいない。

 聞こえない声を、見えない彼女を求めて僕はサブリナの家へ入った――。


次回は再びフツキターンとなります\(^O^)/

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