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第9話-3・〜君、強くあれと

今回は少し遅くなっちゃいましたm(__)mとりあえず楽しんで頂ければ幸いです。

 俺から取るものは――もう何もないだろ?





















「しっかりぃぃっ!」

 バシャン!

「冷たィィィッ!」

 私は飛び起きた、薪のベッドの中で。

「ごめんなさい、あなたが余りにも薪を重そうに運んでたから魔法で飛ばしたら……。あああ、ごめんなさい!」

 薪が頭や鳩尾にもぶつかったせいで意識が遠退く中で水をぶっかけ、腕を引っ張りぶんぶん振るこの人は誰?

「しっかりぃぃっ!」

「痛ァァァ!」

 思いっきり平手打ちを食らった。ダメージ9999。

「ちょっ、分かった! お陰様で意識はっきりと戻ったから!」

「それは良かった。初めまして、リネットよ。あなたがフツキさん?」

 よろしくの一言もなく、リネットと名乗る彼女は私の手を無理矢理握り、握手した。

「えぇえぇ、貴方はどちら様?」

「姉がお世話になっています」

「え?」

「サブリナ姉さんがお世話になってます」

「サブリナ姉さん!?」

 確かに目の前にいる彼女は20歳くらいでサブリナの濃い紫の髪よりかはピンクっぽいストレートの長髪。ただこの人の瞳は両方完全に緑色だ。やはり黒いとんがり帽子をかぶっていたけど、服は黒バルーンのミニスカに黒のベアトップ、ピンクのニーハイにとんがり帽子に似たとんがった靴をはいていた。いかにも魔女って感じだし、サブリナと少し似ている。ただ違うのはサブリナはもっとしとやかである事。

「あなたが青薔薇さんなのね、さぁオレンジ色の従者さんは?」

「アリシアは家の中です、あなたが……客人なのですか?」

 リネットは優しく微笑み、私の髪を撫でた。

「えぇ、そのアリシアちゃんを助けるのがこの私よ。私が貴方達を救うわ」

「お願いします! アリシアを……助けて下さい」

 後ろでキィィとドアが開いて、薪が何本か音を立てて転がった。

「クロウ!」

「フツ……」

「サブリナの妹さんだって、早く!」

「俺にはそれがサブリナの妹には見えないけど」

「え?」

 背後にいる彼女の握力がきつまる。殺気に満ち溢れた視線で、私は振り返る事も許されない。

 ただ固まるしかない私を見たクロウが急に背筋が凍り付いてしまうような冷たい顔をし、魔法で大鎌を取り出した。

「嬢、しゃがんで」

 とりあえずクロウの言う通り、手を捕まれたまま咄嗟にその場にしゃがみ込んだ。

 頭上でザシュッ、という鈍い音が響き、背中に固い何かの塊とドロッとした液体が落ちてきたのが伝わった。

「もういいよ、立っても」

「う、うん」

「フツキ、気を付けなきゃ。後ろ見てごらん」

 コンクリにも似た塊が足元にバラバラ落ち、蜂蜜にも似た液が服越しに腕や背中を伝う。とりあえずかかった粉を振り払おうとしたが、リネットの手は握られたままだった。

「これはポーン、あの黒いマント被った奴らの僕だ。こいつは他人に化けれるという意味では普通のポーンでは無さそうだけど」

 ゆっくりと振り向くと白い石膏像のような首の無いリネットがいて、そこからは赤い蜂蜜のような液体が溢れ出ている。先程までの人間らしさは全く無くなっていて、リネットいやポーンはただ血塗られた石膏像の姿に成り果てていた。

 それでもまだ離さない手は、私への執念とセシリー達への忠誠心の表れなのかもしれない。

「セシリー達は……何がしたいのかな」

「分からない、ただ君を狙っている。だから気を付けて、さっきみたいな事もあるから」

「分かったわ。ねぇ、リネットは本当にさ、サブリナの妹なの?」

 返り血ならぬ、返り液で濡れたクロウは手の平に魔力を集中させると、私を絶対に離さないポーンの手を砕いた。

「リネット自身はね、ただやばいな」

「何が?」

「ポーンにリネットの姿を知られているうえ、リネットがここに来る事も知っていた――」

「リネットが誘拐されたかもしれないって事?」

「あぁ、薪は置いといてサブリナに言おう」

「えぇ」

 私はクロウにリードされながら家の中に駆け入る。

「サブリナ!」

「どうしたのその服!?」

「ポーン達がリネットをさらったかもしれない」

「何ですって!?」

 食卓で魔導書を読んでいたサブリナは書を閉じて、ガタンと椅子を倒し立ち上がった。

「ポーンがリネットに化けてフツキを襲った。危なかったよ」

「そんなっ、アリシアちゃんはどうなるの! 魔界虫は一人で取り出せないし、魔法も数日かかるのにっ……!」

「今は仕方ないよ、レイラとジャイロとティーティは?」

「買い出し。そろそろのはずよ」

 その時、入り口の階段を駆け上る音が聞こえてドアが開いた。

「サブリナ! どういう事ですか、このポーンは!」

 レイラが大きな紙袋を抱えたまま、ダイニングに入ってきた。

「フツキが襲われたんだ、リネットに化けたポーンに」

「そんな、大丈夫? あぁ、服が……」

 紙袋をどさりと机の上においてレイラが私の所へ駆けてきて、私の肩に触ろうとした。そんな私の脳裏はあの時の光景がフラッシュバックして――。

「やめ……て」

「姫?」

「触らないで!」

「フツキ!?」

 私はレイラの手を払い、一歩後ろに下がった。

「フツキ、大丈夫?」

 ティーティが心配そうに私の周りをふわふわ飛んで、私の頬に小さな手を当てた。

「ごめんなさい、少し気が立ってて」

「姫、あの……」

「放っておいてよ!」

 レイラの顔を見るのが辛くて辛くて――。なんで貴方が悲しそうな顔するのよ、いつもいつも私がするような顔を真似して……!

「フツキ!」

「アリシア見てくる」

 とりあえず私はアリシアの部屋に行こうと思った、ただ何となく思っただけだったんだけど――その時はまさかあんな出会いが訪れるなんて思っていなかった。











「馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ、私馬鹿だ」

 只今、狐火の廊下。そしてアリシアがいる部屋聞くの忘れた。馬鹿だ、私は今世紀最大の馬鹿だ。

 叔父さんと住んでたあそこよりかは小さいけれど、ここも迷路になり得るくらいの広さは十分ある。

「あああ、部屋数どんくらいなんだろ。聞きに行くのも癪だし……、一発で当てられないかな」

 やだやだ、と一人で呟きながら歩いていると傍らの部屋から何かが落ちる音が聞こえた。

「アリシア?」

 躊躇いもなく、私は冷たいドアノブに手を掛け、ドアを開けた。

「あ――」

 そこはさっきの部屋だった、私が左肩を治してもらった。あの匂いや雰囲気はすぐに忘れられるモノじゃなかったし。

 確かに音がしたんだけど……。

「これは……人魚姫」

 私が不意に開け、暫し魅入られた人魚姫の挿し絵。彼女は日を少し焦がしたような――そう、まるで夕焼け色のような長い髪と尾鰭を持ち岩場に座っていた。海の色からすると彼女は早朝の薄紫色の海を眺めていて……、哀愁漂うワンシーンだ。どうしても眺めてしまう、彼女を。


 一番好きな本は何?


「え……」

 頭で鳴り響いた誰かからの始めの一言。

「い……や、知らない」

 その声が聞こえなくなった今もエコーが響き、私の頭から離れようとしない。

「いや、離れて。知らない……、知らないの」

 頭が痛い、割れちゃいそう! やめて、お願い! 私、知らない!!

「いやぁぁぁぁぁ!!」


 早く――。


 先程とは違う声、狂い死んでしまいそうな中で聞こえた優しい一言――。


 早く僕を捕まえて――。


 その時、わずかに見えた差し出された幼い手に私は無我夢中で掴まった。

「フツキ!」

「……レイラ」

 優しい少年の手は――ただ必死になって掴んだ手はレイラのほっそりした煌めく指輪が沢山付けられた手だった。

「どうしたんですか!? 大丈夫でしたか?」

「私……、一体?」

「どうやら魔力にあてられたようですね、大丈――」

「放っておいてって言ったでしょ」

 ……馬鹿。本当に言いたかったのは少しだけ一緒にいて、だったのに。

「私がどこに居ようと私の勝手でしょ!? いちいちついて回らないで」

 頭が痛くて気持ち悪い。何も食べてないから吐きはしないはずだけど、今すぐにでも座り込みたい気分。

「ごめん……、気を付けます」

 私の手をゆっくり離したレイラは哀しげに私を見ると、そそくさと部屋を後にした。

「レイラの馬鹿……、私の馬鹿……」

 ガタンと音を立ててその場に崩れた私は吐き気と空虚感で何も出来なくてただじっと人魚姫の挿し絵を眺めた。

「痛っ」

 頭がズキズキするのに加えて、頭上から何かが降ってきた。ついでに埃も落ちてきてむせた。

 最悪、もう最悪。泣きっ面に蜂ってこういう事よね。

「魔導書?」

 落ちてきたのは分厚い本で埃を払っても表紙には一文字も書かれていなかった。分厚い本の真ん中辺りを適当に開けた。


 ――やっと逢えたね。


「え――?」

 本から柔らかい真っ白な光が放たれ、私を包み込み、何かがあるわけじゃないけど心が、体がどんどん満たされていく。光もどんどん拡がり、煌めきを増して、何とも言えない光のヴェールが私を纏う。

 しかしふいに光が止まり、本がすごい勢いで閉じられた。

「何だった……の?」

 あのまばゆい光、優しい少年の声。確かに違った、あの手はレイラじゃない。あの手は――もっと幼い手だった。

「訳分かんないよ……」

 吐き気などとっくに消え去った私はとりあえず本を抱えてただその場に座り込んだ。

 私はレイラが好きな訳じゃない――ただ側にいて欲しいの。

「フツキちゃん」

 ふいにそう呼ばれた。

「サブリナ……」

「私達はリネットを助けに行くわ、行く? 一応、ついて行った方が私達いるし安心だと思うけど」

「私……出来れば行きたくない」

 サブリナはきゅっと口を真一文字に結んで、私の肩に手を置いた。

「何かあったら……レイラを呼ぶのよ。彼しか貴方の本当の危険と居場所を察知出来ない」

「……うん」

「レイラの事、嫌いになった?」

「分かんない。でも……ただ側にいて欲しいの……! それだけでいいのに、私も素直になれなくて……!」

「フツキちゃん」

 ふいに頬を小さなビーズのような涙が転がった。溢れて止まらない涙は私の心を悲しみに染める。染み込んだ痛みは何? 私はどうして悲しいの? 教えて、誰か私に教えてよ……。

 サブリナが私を抱き締めて、背中を(さす)ってくれた。

「大丈夫よ、レイラ君はどこにも行かないわ。彼は絶対に貴方を護る」

「皆そう言うのよ! 芳弥叔父さんだって……私にそう言ったのよ!!」

 私はサブリナの背中に腕を回し、彼女の大きな胸に顔を預けてただ啜り泣いた。

「泣かないで、青薔薇」

 初めて聞いたサブリナが私を青薔薇と呼ぶのを。

「青薔薇、強くなりなさい。皆から愛され、それ以上に人を愛しなさい。そうすればきっと何かが変わっていくから」

「強く……?」

「そう、貴方ならまだまだ伸びる。これからよ」

 これから先に私達の前に待ち構える物は何なんだろう。私達の未来は? 行方は?

「もう貴方は一人じゃない」

 そう、一人じゃない。でも私に何が出来る?

「自分と愛する人達を護りなさい、ナヨタケのように。青薔薇らしく」

「そっか……そうだね。ありがとう、サブリナ! ねぇ、お腹空いた! 何か食べるものある? あと――」

「あぁ、ダイニングに貴方の分があるわ。食べてらっしゃい。あとアリシアはここより二つ前の部屋」

「うん、分かった」

 私はサブリナから離れてスカートについた埃を払った。

「ここの本読みたいんだけど……辞書とかある?」

「あぁ、それなら私が昔この言葉を勉強した時に使っていた辞書があるわ。良かったら使ってちょうだい」

「ありがとう、何読んでもいい?」

「いいけど開けない本の方が多いと思うわよ?」

「開けない?」

「強力な魔導書があるからね、そんな魔導書はある程度の魔力が無いと開かない。例えば貴方の足元に落ちているその本とか」

「私、開けたけど……」

「何ですって!? 何がどうなった!?」

 サブリナは紫の艶めく髪を振り乱しながら私の肩をこれでもかと揺さ振る。

「肩肩肩外れる! 落ち着いてっ」

「あぁ、ごめんなさい。でどうなった?」

「光がぶわって、それが気持ちいいの」

「そう、そっか。まぁ開けてもいいけれど疲れたら閉じてね。でこの部屋では本は読まないこと。いい? それだけは気を付けて」

「オッケー、サブリナも気を付けてね。アリシアの面倒は私が見るわ」

「えぇ、ありがと。じゃ……」

「待って!」

 私は急いでサブリナの背中に掴まってただ思い付きのままを、裸のまま言葉にした。

「レイラに――言って。私、強くなるからって。もう迷惑はかけないって。だから……絶対に帰ってきてって。それであの時はごめんて……」

「分かったわ、必ずすぐに戻るわ」

 私はサブリナを薪が散らばった玄関まで見送った。まだ私には外に出て、皆の姿を見る事が出来なかったけど窓からこっそりとレイラ達の姿を見送る事にした。

「……頑張って。私はアリシアを一人にしたくなかったから」

 本当はついて行きたかったけど、アリシアを放っておくのは気が引けたから。何となく――、ううん。レイラが心配するアリシアだから。

「何からしよう」

 久しぶりの一人。たまには一人で久しぶりで大好きな読書をするのも、覗かれる心配もせずゆっくりお風呂に入るのも、黄昏るのもいいわ。まだまだ考えたい事が山程あるものね。

 とりあえず私は薪を拾い上げて、手頃な籠に入れていく地味な作業から始める事にした――。


次回はフツキ視点のはず。恐らく留守番のお話かと。もしかしたら従者メンバーの描写もあるかも!お楽しみに☆

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