第9話-2・〜the unknown
休み中は比較的早めな更新です(´∀`)もうフツキの姫キャラ壊れてます←
別にいいさ、ただそれまでの事だし。
パチリ、そんな音がして家中の電気が点った。
「うわ、埃っぽ」
クロウが嫌そうに顔を歪める。
私も思わず顔を歪めたくなるくらい空気も、中の埃っぽさも汚さも最高だった。ただ掃除すればかなり素晴らしい内蔵のはずだ。部屋はそこそこ多そうだし、少し洒落たシャンデリアもついている。蜘蛛の巣を気にしなけりゃのお話だけど。でもなんて言ったって埃の匂いに交じる木の香りがそれの素晴らしさを表している。
「まず掃除をしましょう」
「は? ちょ、アリシアは?」
レイラがアリシアをお姫様抱っこしながら素っ頓狂な声をあげる。
「だってあんな汚い毛布で寝かせられないでしょ、だから先に皆でお掃除しましょ」
という訳で大掃除開始。まず叩きで埃を落とす作業から、では無かった。サブリナ、ティーティ、レイラ、クロウと魔法を使える組が私とジャイロとアリシアを外に追い出した。 ジャイロはレイラやクロウより小さな体でアリシアをおぶっているせいか、何度も何度も背負い直している。私も私で未だ苦しそうなアリシアの額を私は濡れたハンカチで拭くしか出来ない。
「何するつもりなの、あの人達?」
「アナログ世代を抜け出したいんだろ」
「は?」
「ほら危ねぇ!」
ジャイロはアリシアを背負ったまま私に思いっきり体当たりをしてきた。
「痛〜いっ」
「いいから黙って伏せろ!!」
「ぶッ」
うつ伏せの状態の私の横にジャイロがうつ伏せになり、私の顔を草むらに押しつけた。
その時、頭上で爽やか……とは言えない埃が入り交じった突風が吹き渡った。「ひきゃああああ!」
「どうした!?」
「スカートぉぉぉッ」
「は? うわっ!? 押さえろよッ、スカートを!」
「押さえてるわよ!」
吹き渡る埃風が私のスカートの裾をさらう。いや、手で押さえてるけど色々間に合ってない。
なぜかと言うとジャイロの顔が赤くなっているから。もういい、何色であろうがもういいよ。
次は足や服が水滴でしっとりと湿る。後から温風が吹いたり、トカゲが飛んできたり、シャボンが飛んできたりしたけど何だか疲れてずっとぼーっとしちゃって覚えてない。唯一私にあったのは風で捲れるスカートを押さえる気力だけ。
しばらく草むらに寝転んでいると少しひんやりした手が肩に置かれた。
「掃除が終わりましたよ」
いつもの聞き慣れた声がして、私はぱっと顔を上げる。ポタリとレイラの前髪から雫が垂れて、私の頬に落ちた。
「レ――」
「ジャイロ、アリシア貸して下さい」
レイラはジャイロが抱えていたアリシアをすっと抱え、お姫様抱っこをした。
「うっ」
「アリシア……」
あ――。
私はただその二人を見るしか出来なかった。
レイラの腕で場所は見えなかったけれど、彼が彼女に優しいキスを落としたとこを――。
そしてぎゅっと抱き締めた、大事なひび割れたガラスの置物をただ壊れないようにするために。
目を伏せていたレイラはアリシアを抱えたまま、やがてコテージの方に歩んでいってしまった。
「――ツキ!」
「あぁっ」
「大丈夫か?」
ジャイロはずっと私を呼び続けていたようで、私は肩を揺さ振られていた。
「えぇ、えぇ。……ごめんなさい。行こ」
「お前、変だぞ?」
「変じゃないっ! ほら、さっさとする!」
私はジャイロをべしっと一度叩き、前へ押していった。ジャイロは私より小さいと思うし、ガキだけど全てを悟ってる感じがするから怖い。全部全部見透かされてそうなの。うちの従者を名乗る人はある意味、怖く感じる。
「押すなって、姫のくせにはしたないぞ」
「姫じゃない!」
「まだ言うか?」
「言う! なんで私が姫だと思うの? 私が青薔薇、娜夜竹さんの魂を受け継いでいるとどうして言い切れる?」
「どうしてって……、紅のあいつが言うから」
「紅?」
「レイラ」
ぴたりと私は止まってしまった。今、一番聞きたくない名前だったかも。何だか胸がムカムカして、このままだとジャイロに八つ当りしてしまいそう。
「レイラって一体何なの? ほんとあいつ何なのよ」
「あ〜あ。お前……あいつに惚れたんだな」
「ちがッ、違う違う違う! 違うわよ!」
「別にいいぜ〜、隠さなくても」
「隠してないっ!」
「青薔薇姫のお顔が真っ赤っか」
自分でも顔が熱くなったのはわかったし、赤くなってるだろなってのは分かっていたけれど図星だったのは悔しい。ジャイロが意地悪い顔でニヤニヤと笑っている。く……くそぅ。
「うるさーい! ……自分でも本当にレイラが好きかはわからないの。本気なのか、違うのか」
「アリシアは完璧だから取られるぜ?」
「なぁっ、何よ! そう言う自分はアリシアのこと好きなんでしょ!?」
「っ!」
うわ。ジャイロが赤くなっちゃってる、かわいい〜。初めて見たな、ジャイロが素直なトコ。よく見るとジャイロは幼いし、何だか親近感がわく。この人も……やっぱ子供だな。
「そうよね〜、アリシアは可愛いもの。分かるわ、その気持ち。ああいうのがタイプなんだ〜」
「好きじゃねぇっ! アリシアが可愛いとか金髪が綺麗とか目がくりくりしてるとかスリムだとか思ったことねぇからなっ!」
「いや、あの、誰もそこまで言ってないんですけど」
ジャイロが睨みながらドアノブに手をかけた。
「おま――」
「言わないわ」
私がにっこり笑うのを見てジャイロは気まずそうな顔をしながら、乱暴にドアを開けコテージの中へと入って行った。
「何してたんだよ、サブリナ。外で待ってた組はどんだけ被害被ったか」
ジャイロが口を止め呆然としているので、ジャイロの肩越しからちょっと皆を見てみた。中にいた全員、服が乱れきり、べしょべしょどろどろでどことなく疲れた顔をしていた。
「魔法使って掃除したの、きれいでしょ」
「アリシアはどうだ?」
ジャイロはサブリナのそんな自信に満ち溢れた言葉を無視し、服に付いた埃を払いながらアリシアの様態を尋ねる。
確かに部屋は物が少ない分、壁などはピカピカに磨かれていたし、匂いもいい。魔法でやるのはどうかと思うけど。
「相変わらずよ。今は客人待ち」
「客人?」
「えぇ、それまで皆で買い出しに行って、アリシアちゃんを見といて。で、フツキちゃんだけ来てちょうだい」
サブリナの一言が終わり、レイラはアリシアを別室に運ぶ、ティーティは妖精の姿で部屋に向かう、クロウはお風呂に入る、ジャイロは荷物を運ぶ。そんな感じでそれぞれが思い思いに動き始めた中、私はサブリナについていった。
廊下に出ると自然の木で出来た壁には穴が開いていて、その中では魔法で出来ているであろう狐火のような炎が廊下を仄かに照らしていた。しかし穴の代わりに時々ぽつり、ぽつりと部屋があって薄暗くなる。
「入って」
サブリナが部屋の一つを開けると、私を中へ軽く押し入れた。
「うわ」
その部屋は試薬やホルマリン漬けの意味分からない動物がいたり、分厚くて、背表紙の文字も知らないような本があちらこちらに置かれていた。部屋の空気もラウリナトスでは嗅いだことの無い不思議な匂いを帯びていて……。
「適当に掛けて」
「あ、うん」
私は木で出来た小さな椅子に腰掛け、側にあった本を開けた。やっぱり何も読めないけど代わりに綺麗な綺麗な人魚姫の挿し絵があって、いつしかじっと見とれていた。
「ごめんねぇ、汚い部屋で。でもやっとまともな治療が出来るわ」
「治療?」
サブリナは机の向かいにあった椅子に座り、私に笑いかけた。
「左肩治してあげるわ、ただ癖付いちゃうのは避けられないけどね。不便でしょ」
「あ、ありがとう」
「じゃああっち向いといて」
左肩を向かいに座るサブリナに向けて、私はじっと並んだ本の列を見ていた。
「魔法で治すって言ってもね、アリシアが行うような治療とほぼ変わらないのよ。腕はぐるんて回せるようにしとくけどきっと脱臼癖はついちゃうから気を付けて。ただ違うのは魔法を使ってる事とこのくらいなら一瞬で治る事だから」
「え?」
左肩を見るとサブリナがあのステッキの柄の先で印が次々と書き込んでいる。サブリナが書き終わり、ステッキを机の上に置くと印が弾けて、急に肩が動きやすくなった。
「えっ、すごい! サブ、ありがとう」
腕が一周回る! 脱臼しそうな気配もしないし、何だか嬉しい。
「どういたしまして。無理な力を加えたら脱臼しちゃうからね、一周動くのも魔法の力だからね。気を付けるのよ」
「はーい!」
「フツキちゃん」
「どうしたの?」
「レイラ君の事、怒ってる?」
思わずぶんぶん回していた腕を一度止めてしまった。せっかく頭からあの二人の美しいビジョンが消えかけていたのに――。
「どうして……」
「今は知らない方がいいわ、でもいずれ知る事になるでしょう。まだまだ先だとは思うけど。レイラ君の事、思う気持ちも分かるけど今だけそっとしておいてあげて」
「レイラは……アリシアの執事だものね。仕方ないのは分かってるの。じゃあ、ありがとう」
私はまだ心配そうな顔をしているサブリナを残し、部屋に出た。なぜならサブリナに気持ちを読まれたくないから。
「あぁ、ほんと嫌になっちゃう」
レイラは……私の従者。ただの従者――、ならあんなに一生懸命に護らないでよ。
狐火の廊下を抜けて人気のないダイニングを過ぎて、外に出た。
「何しよう……」
皆、今は買い出し行ったり、アリシアの所にいるはずだからな。
するとどこかからドンっ、カコンっと勢い良く木が割れる音がした。
誰だろう? よし。
時間を持て余してる私は自然とそちらに足が向かった。池や花壇、小さな原っぱや重ねられた土管を通り過ぎて、更に外れた所にやっと辿り着いたのは――。
「あ」
「フツキお嬢様、どうしたの?」
大きな切り株で薪を割っているクロウの元だった。
「別に何も」
気になって、というのも何だか癪に障るからそう言って近くの切り株にどしっと座り、肘をついた。
しばらく少しだけ驚いた表情でこちらを見ていたクロウだったけど、やがていつものように滑稽そうににやついて再び、薪を割り始めた。
「なんで薪割ってるの」
「え?」
「どうして薪を割ってるのか聞いた」
「あはは。それは風呂が焚けないからだよ。俺さ、買い出し面倒だから風呂にいの一番に向かったのに入れないからさ」
あぁ、成る程ね。要するに買い出しだけは避けたかったんだ。なのに残念な事に薪が無きゃお風呂が焚けなかったんだね。で薪を割ってると。嫌々しているせいか、あまり割れていない。しかも普段クールに決めているクロウがタートルネックの長袖を折り、シルクハットも取って汗を流している姿は非常に滑稽だった。
「何笑ってるの、気持ち悪い」
「気持ち悪いって、いつも笑ってるのはあんたでしょうが! 貸して、斧」
「え、ちょ出来るの? 薪割り」
「家でも暖炉あったから。たまにやってたの」
「家ってか青薔薇城でしょ?」
「家なの!」
私はクロウから斧を無理矢理取り上げて、あっかんべえをした。
「すぐだからあっち行ってて」
「一人じゃ危ないよ?」
「大丈夫、だから一人にして」
クロウは私からただならぬ何かを感じたのか、ふぅっと溜め息をつくとすたすたと家の方へ向かっていった。
思いっきり斧を振りかざして、ぶんと振るとガコンといい音が響き、木が真っ二つに割れる。そしてまた一つ薪を乗せて、繰り返す。そうやって私は木が無くなるまでただ一心不乱に薪を割り続けた。
「終わったー」
私は額の汗を袖で拭き、散らばった薪を一ヶ所に集めた。集めたはいいけど……どう見ても一人で運べる量じゃない。
「うわぁ、この往復はきついなー。やっぱクロウに居といてもらえば良かった」
そう独り言を洩らしてがっと肩脇に薪を抱えた。結構ずっしりとくるけど、それだけ達成感がある。
一度運べば、クロウが家にいるだろうし中に入って頼もう。よし、決まり。いや、でも癪だ。帰ってと頼んだのは私だし……。いいや、私一人で頑張ろう。
少し小走りで向かい、辿り着いた家の前に持ってきた薪を置いて再び小走りで薪のある場所まで向かった。
「あ……れ?」
さっきまで山程あった薪が忽然と姿を消している。
えっ、嘘!? まさか……スられた!? そんな! 私の努力の結晶が!
私は来た道を激走し、急いで家へ向かう。あと50メートル、20メートル、あと10メートル……あれ?
コテージの前に置いてある薪は先程よりも増えている、所謂向こうの残り半分くらいがこっちへ加わったみたいな。でも少なくとも全部は無い。
「嘘でしょ? え、本物だよね? え、半分に切れたバームクーヘンとかじゃないよね!?」
思わず一本、薪を手に取って自分の頭にぶつけてみた。
「い……痛い」
思い切りやり過ぎた。リアルに脳細胞が減った。
「本当に訳が分かんないんだけど」
ともかく薪置場に一度戻ってみよう。
そう思い、くるりと振り返ったその時。
「危ない!」
そんな声が耳に入ったけど、時すでに遅し。
幾本もの薪がこちら目がけて飛んできて、私の顔や体に直撃した――。
次回は新キャラ登場ですっ(^O^)




