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第8話-5・〜Chaser

あぁ、なかなか話が書けません。相変わらず更新率低いですが今回は6000字越え+ほぼ全員の戦闘シーンが出てきますっ☆

 側にいるのに愛せないなんて嫌だから――。





















 あぁ、いやだいやだ。まさかレイラが知っていただなんて。私が知らない、無くした記憶も全てを。

「薊 深月……。私、誰なの?」

 自分にそう問い掛けるたびに頭がズキズキ痛む。まるで何かを思い出すな、と忠告してるかのように。

 気持ちだけが焦って焦って何も進まない。ただ指と指を絡ませて弄び、右腕を目一杯伸ばして手のひらを空に透かしてみた。手の甲が暗に染まる。なんとなくだけど無理しない範囲で左手で手首を握ってみた。

 前よりも少しだけふっくらして健康そうな手首は温かくて、滑らか。

 知ってるよ、レイラ達が誰よりも私のこと思ってくれてるって。皆、私を護る為に。でも――。

「分かんないよ、何信じていいか」

「何かあったの〜?」

「!?」

 聞き覚えのない声が聞こえて私は思わず振り向いた。広がる草むらの中に忽然と黒いマントを被ったレイラやクロウより長身の男がいて大きな剣と盾を抱えていた。

「……あなた誰?」

「どんなべっぴんかと思ったら案外、普通の子じゃん。ま、そこらよりかは余裕、可愛いか」

 さっきまで後ろにいた彼は気付くと正面にいて私にぎゅっと抱き付いた。叫ぼうとしたけれど私は背中に木の幹、顔に(ほの)かに熱い胸板が押しあてられて何もする事が出来ない。

 く……苦しい。私は大きな彼の手で頭を撫でられているのが分かった。優しい手つきに悔しいけどまさかの安心感を覚えた、けど優しさのどこかに交じった憎しみも感じる。

「可愛い可愛い青薔薇ちゃん、そろそろ俺達の物にならねぇ? あんな気障男なんぞ放っておいてさ……」

 気障男ってもしかしてレイラの事? なんで面識あるの? だいたい誰?

「震えてるよ、大丈夫?」

「はな……してよっ」

 とりあえず彼を引き離そうと精一杯、彼の背中を叩き、引っ掻いた。

「だーめ。青薔薇ちゃんが俺達の所に来るまでは。でもってあんたの連れ犬達をいじめるまではな。あれ?」

 彼はいったん私から少し離れると二本の指でそっと首筋をなぞる。

「契約――しちゃってたんだ。へぇ、知らなかった」

 そう言うと再び私の腰に手を回して、後頭部を手で支える。はぁっと首に息を吹き掛けられて思わず目をぎゅっと瞑った。

「貴方には関係ない!」

「ははっ、でもその【第一の従者】には気を付けな」

「!?」

 さっき、息を吹き掛けられていた首の赤薔薇の紋にいきなり吸い付いてきたかと思うと堪え難い衝撃的な痛みが走った。

 噛み付かれたっていっても堪ったもんじゃない。明らかに人間の歯よりも尖ったそれは私の皮膚を破り、赤いどろっとした血を溢れ出させているんだから。

 いきなりの痛みに私は叫び声をあげて、首に吸い付きと噛むのを交互に繰り返す彼の首を一生懸命絞めた。

「はは、やっぱりあんたの血の味は最高だな。甘くて痺れるようなこの味」

「やめてよっ……」

 傷を(えぐ)られ、舐められ、歯を突き立てられて。痛みと悔しさと怖さで目に涙が溜まる。

「離しなさいよっ……」

「何を恐がらせてるの? 一人で楽しまないでくれる?」

「クイーン・セシリー」

 彼がセシリーと呼んだその人もやはり黒いマントを被っていて、声と身長からして女性。フードの中からちらつく長めの髪はとても淡いピンク色だった。

「初めまして、青薔薇姫様」

 そう言うと彼女は私の前に跪いて手を取り、軽く口付けをした。

「離して。私を皆の所に帰らせて」

「それはいけませんわ。だってあなたは私達の夢ですもの。それにしてもあなたのお子様方は余りにも不躾で」

「子供?」

 何言ってるんだろう、この人は。この人なら多少、話を分かってくれるかもしれないって思ったんだけど……所詮は敵だ。

「あなたの回りにいる従者達じゃあありませんか。彼等は見事に私の仲間を2人も殺っちゃったのよ。お陰様で復元が大変だったわ」

「2人?」

 私がそう聞き返すと、セシリーは唯一マントに隠れていない口元でまぁ、と声をあげ、驚いた。

「あなたってば何も知らないのねぇ!! そこの彼だってあなたのとこの魔女さんに一度は殺されているしうちの怪物はあなたの王子様にぼろんちょんにされちゃったわ〜」

 もしかしてこの黒マントって私が襲われたあのでかいやつの……。あの時、血塗れになった足首がじんとした気がした。

「その顔つきからするとやっと気付いたようね。ほうらう、し、ろ」

 嫌な気がして後ろを振り返ると大きく立ちはだかるあの怪物が。直ぐ様、ずっと後退りして距離を取った。何もしてはこなさそうだったがやはり、マントの中の暗黒を見つめるのは怖い。

「何? 貴方達の目的は一体、何? 答えて、セシリー」

「この世界、ラウリナトスを建て直すの。だってこんなにろくでもなくて惨めな世界、無いほうがマシじゃあありません? あなた様だって裏切られるの嫌でしょ?」

「それは……」

 この世界……捨ててしまいたい。こんな世界、息苦しくって、悲しくて、溜め息と涙で形作られてる。

「そうでしょ、だって皆が自分勝手に生きてるんだから。だから作り直すの」

 セシリーは私の手を離して優しく私の背中を撫でだした。

「お姫様だって力が無きゃ捨てられちゃうのよ。もうご存知でしょう?」

 知ってる。知ってるから何も言わないで。でも……。

「彼はナイト・ロジャー。先程の彼の無礼は許して下さいね」

 彼はまるで人が変わったかのように私に跪いて手を取った。

「先程は失礼致しました、青薔薇の君」

 そう言うと彼はまだ私の血で濡れた口唇で私の手の甲にキスしようとした。

「えいっ!!」

 私はタイミングを見計らっていた。彼らから離れることの出来るナイスタイミングを。

 目の前に跪いた彼の顎に厚い底のブーツの先で思いっきり蹴りを入れてみた。だって気持ち悪い、しかもむかつく。さっきまで自分の血を啜り飲んでいた人間なんだから。

 まさかのキックはかなり効いたらしく、ロジャーは後ろに尻餅をついたまま顎を押さえている。

 顎に手を当て、小さく笑っていたセシリーもこの光景を見て口が真一文字に引いた。

「私は嫌! この世界が無くなるなんて。やっぱり貴方達、私の事を分かってないみたい」

 口から血を垂らしながら痛そうに呻き、こちらを睨むロジャーを余所に、セシリーはただ黙って私の方をじっと見ている。

「何が」

 一つも柔らかさが無くなった彼女の口調はただ悪魔のように冷たく、鋭さがしみだした。

「貴方は本気で悲しい時に、ただ優しい誰かに助けてもらった事がないからそんな事言えるんだわ」

 それでも彼女は固まったままただ私を見つめる。

「私は、やっぱり皆が大好き。こんなろくでもない世界だけど皆と出会わせてくれた事、感謝してる」

 そんな事言ったら何されるかわからない事くらい自分でも分かってた。でも――世界だけじゃなくて皆や、きれいに輝く思い出まで消えちゃいそうで。

 セシリーはふっと笑うと黒い皮の手袋をした手をすっと上にあげた。

 護りの態勢しか取れない私はとっさにぎゅっと目を瞑って、身をすくめてしまう。私に力があれば……。

「フツキのバカ!!」

 切り裂くような風がひゅんと横を切って、目をあけると……そこには碧の長いソバージュがかった髪のすらっとした女の人の背中が。

「?」

「何してんのよ、あんた。我らの姫に」

「誰、あなた」

 セシリーも分かっていないよう。私もわからない。彼女はシースルーのラッパ型の袖に人差し指と中指の間で止める形の布を腕に巻き、ロングスカートという少しシンプルだけど女性らしい出で立ち。背中を向けたままだから顔も見えないけれどただ華奢で手足がすらりと長いことだけはわかる。

「は? 黙りなさいよ、ブス。顔隠すことしか出来ない負け(ルーザー)が」

 あと口が悪いことも分かった。うわ〜、誰? 口悪い、誰?

 今、確かにセシリーの口がひくりと動いて引きつったんだけど……。

「失礼な方ね」

「あんたには礼を言わなきゃいけないかもだけど、私達の姫をさらうなら私達の敵よ」

「その尖った耳と首の水晶……。あぁ、あの時の妖精さん」

 ようせい? え、妖精?

「ティーティ!!」

 女性は長い髪を振ってこちらを向くとくすっと笑いかけた。

 人間ではあり得ないくらい尖った耳にきれいなアメジスト色のクールに決まった瞳、首にはリボンで結ばれた大きな水晶がきらりと煌めいてる。

「私がわざわざこーんな美女になって助けに来てやったんだから感謝しなさいよね〜」

 そう言うとティーティはどこからか茶色いカバーのぼろぼろの分厚い本を取り出して、手の上でふわふわと浮かせるとページを迅速に(めく)っていく。 そして何が何だか分からないような言葉を羅列させると本をばたんと閉じ、手を水晶に当てた。

「どうせならもがき苦しんじゃいなさいね!」

 ティーティは華奢な腕をセシリーに向け、指をパチンと鳴らした。すると小さい羽虫――といってもなぜかそのおしりには細い細いリボンがひらひら棚引いているのがセシリーの周りで辺りが黒く見えるくらい飛びかっている。

「ふざけないでちょうだい、小さい妖精さん」

 苛ついたセシリーは顔にぶつかってきた羽虫を手で握り潰す。

「なっ、何よこれ!!」

 握り潰したセシリーの手の中はキラキラ光り、光線が貫く。その光線はくるりと曲線を描いたかと思うとセシリーの手首に巻き付いた。刹那、他の羽虫達もまばゆい光を出してセシリーに絡み付いていく。

「きゃあっ」

「ティーティ! 危ない!」

「セシリー! てめぇらッ」

 ロジャーは口から血を垂らしたまま、大剣を掲げ、物凄い勢いでこちらに突進してくる。

 私はいきなりの事態に対応しきれず、本を開けて魔法を出しているティーティをぎゅっと抱き締めた。

 カキン、と金属同士が擦れ合った音が耳に響く。

「ざけんなって」

 目の前には錆びた諸刃を持つ紺色の髪の男の子。

「こいつらに手ェ出すなよ。じゃねぇとお前の女殺すぞ」

「くっ……、クソガキが」

「ガキで結構」

 ジャイロはそう言うとロジャーを嘲笑う。

 でもまだ一匹……。私の予想は的中しそうだった。怪物が地が割れそうなくらいの咆哮をあげると両袖から幾本もの蔓が矢の如く向かってくる。

「くそ」

 ジャイロはロジャーの剣を凪ぎ払い、蔓を刃で叩きつけてちぎった。

「死にさらせェェェ!」

 自由の効くロジャーは大剣を横に振り、私達を横から切ろうと走ってきた。

 切られる、そう思った瞬間に何かが舞い降りてきた。

「そんな単純で一方通行な攻撃、私達には通用しないよ」

 ギラギラ光る刃は朱色のエナメルのピンヒールの色が反射して明るい彩りを演出している。そして刃渡り25センチくらいの刃の上に鍛えられた美しい脚ですくっと立ち、ウェーブがかった金髪を手で払っているアリシアがいた。

「あんな量のポーンを送り付けてくるなんてひどいじゃない」

「くっ!」

 ロジャーはとっさに大剣を振るがそれと同時にアリシアはひらりと宙に飛び上がり、縦と横に数回回転するとロジャー目がけて足を伸ばした。

「うぁぁぁ!」

 手首をピンヒールで思い切り蹴られ、大剣が擦りながら地面を滑っていった。

「ほらほら、よそ見してると首の骨圧()し折っちゃうよ!?」

 アリシアはまるで人が変わったように手や足で攻撃を繰り返す。ロジャーもなかなかのスピードで対応してるのだけれどアリシアに押され気味だ。

「ほらぁッ!」

 アリシアは僅かな隙にロジャーの腕を抱え込むと訳分からない方向に回してロジャーを地面に投げ付けた。

「ぐふっ!」

 ロジャーは苦しそうに呻き、口から血を出し、何度も何度もむせる。

「サブリナ!」

「OK」

 どこからともなくサブリナがやって来てホラ貝や真珠や鎖が沢山ついたステッキをくるりと一回転させた。するとステッキの先から光るリボンのような物が出てきてロジャーを完全に拘束し、縛り上げてしまった。

「サブリナ! 早く!」

 そう叫んだジャイロは完全に蔓と悪戦苦闘していて跳ね返すのに必死だった。が時は既に遅く、ジャイロ

がよそ見をしている間に数本の蔓がこちらに向かってきてティーティの魔法書を凪ぎ払った。

「書が!!」

 ティーティがそう叫んだと同時にセシリーの拘束が解け、セシリーはにやりと笑った。

「撤収よ、お疲れ様」

 バサリと書が何かにぶつかった音がした。

「いけないなぁ」

「待ちなさい、お前達」

 いつも安心感を覚えるこの声を待っていたのかもしれない――。

「クロウ! レイラ!」

 クロウはティーティの重そうな書を片手で持ち、レイラは腕を組んで私の方を睨んでいた。

「飛び出す貴方が悪いんですからね、青薔薇」

「だから敬語止めてってば」

「無理、癖ですから」

 そうレイラは腰から二本の金色のダガーを抜き取ると、くるくると回した。

「久しぶりですね。いや、久しぶりでもないですか」

「もうすっかりお元気そうで」

「そりゃどうも」

 レイラは笑うといつの間にかセシリーの後ろへ回っていてダガーでセシリーを切り付ける。間一髪の所でセシリーは避けて、なんとかマントが裂かれるレベルで留まった。身に危険を感じたのかセシリーは後ろへ飛躍すると魔方陣を描き始め、呪文を唱えた。

「早いわね。さすが紅の豹と呼ばれるだけあるわ」

「僕は今、かなりムカついているんで注意して下さいよ」

 レイラは指と指の間にナイフを挟み、セシリーに投げ付けた。セシリーは長いマントをひらりとはためかせてナイフを防ぐ。

「遅い」

 ザスッと一瞬だけ鈍い音が響き、まるで時が止まったかのように辺りが静まり返った。

 ハラリと黒い布と日光に透けそうな細いものがダガーの刺さった部分から落ちた。

 (はた)から見るとレイラは木にセシリーを押しつけている恋人のようだが……違った。

 マントの切れ端とセシリーの淡い桜色の髪が落ちて、セシリーの顔が(あらわ)になった。

 セシリーは同い年くらいで目はスカイブルーに近い澄んだ青色、白い肌で短い前髪の下の額には何やら幾何学的な紋が彫られていた。頬からはレイラがダガーの先で切ったのか一筋の血が流れていた。

「楽しかったわ。また逢いましょ」

 セシリーはそう言って右手だけで印を組むとレイラに向かって、ではなくアリシアに向かって何か光るものを放った。

「アリシア!!」

 レイラのその一言でアリシアは少し避けたが避け切れず、左肩を光線が擦った。ぱたりとアリシアは倒れ、痛そうな顔をし、小さく呻いた。

「アリシア、しっかりして下さい!」

 すぐに駆け付けたレイラはアリシアの頭と背中を支えて左腕の具合を見た。

「ごめんっ……、油断してた。バカね、私」

「喋らなくていいから」

「じゃあね〜、青薔薇姫様。残念ね、オレンジ色の従者さん」

 セシリーはそう言うと魔方陣を浮かべ、仲間達と共に去ってしまった。

「アリシア、しっかり!」

「う……」

「!!」

 私達がその時見たのは、衝撃的で一瞬の吐き気がした――。


どうでしたか?次回はある人の故郷へ向かっちゃいます!

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