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第8話-3・〜記憶の欠片(かけら)

わわわ、更新が遅れ気味でごめんなさぁぁいっ(◎-◎;)でもケータイは復活したんでまた頑張りますからっ!

「なんだ……?」

 いくつもの台風のような風の塊が吹き暴れて、木の葉は逃げ惑い、動物達は悲鳴をあげる。風の中に強い魔力を感じた。

 少女はと言うと怯えて彼の腰にしがみついている。腰を握る彼女の手はふるふると震え、目は固くきゅっと瞑られていた。

「あのっ……!」

「貴方方は娜夜竹の……」

 やってきたのは皆、違う色の着物を着た娜夜竹の使い数人。娜夜竹は彼ら、彼女らを弟子として、また使いとして行動を共にしている時が多かった。

「この嵐を止める事が出来るのは貴方だけなのです! 娜夜竹様から水晶を授かった貴方だけなのです!」

「わかっています、私が……」

 彼は固い固い拳を作り、使い達を見つめた。

「私達はここを出来るだけ護ります。ですから貴方様はお先に」

「しかし貴方達がっ……」 彼は自分がこの場から去り、彼らにそれを任せると彼らの命が散ってしまう気がした。

「いいのです、さぁ貴方も行って下さいな」

 使いの女はぽんと少女の背中を押した。

「皆で娜夜竹様を信じましょう」

 風は吹き荒れて、着物を乱し、砂埃を立てて、視界を悪くする。行方も知らぬこの旅の終わりを掻き消すように。

「一緒に行こうか」

 彼は少女をひょいと抱き上げると、娜夜竹から預かった水晶を持ち、その魔力を使って空を駆けた。

「生まれ変わったらまたお会いしましょうね」という彼らの言葉に後押しされながら。

 どんどん風に近寄る。目指すは風の目。きっとそこには何かが待っているはずだ。

 地上では大人は我が生きようと押し合いへし合いし、子供を蹴飛ばす。蹴られた子供はただ泣き叫び、飛ばされないように木にしがみついている。

 風の塊はどんどん進み、馬を、花を、家を飛ばしていき、ありとあらゆるモノを潰しにかかった。

 彼は少女が怪我をしないように、抱き抱えて風を追い掛ける。

「!」

 その時、彼は思わず目を見張った。なぜなら目の前を一人の子供が吹き飛び、風の中へ吸い込まれていったのだから。

 その子供は少年。そう、あの時に娜夜竹を護ると誓ったあの少年。

「見るな」

 そう言い、彼は胸板に少女の顔を押しあてたが、遅かった。

「い……いっ、いやぁぁぁ!」

 少女は泣き叫び、頭を彼の胸板に何度もぶつける。もはや冷静さを失って、少女は彼の体を叩き、暴れたくる。彼は危うく少女を落としかけたくらいだ。

 このままではいけない、この子を護らなければ。

「聞け」

「私にっ、私にっ助けてって! 言ったんだよぉっ、助けてって!」

 少女の髪は風と動きで振り乱れ、顔は紅潮し、怯えきっていた。

「いいか、私はあの風を止めなければいけない。娜夜竹との約束だ。私はここを護る役目がある。だからお前はこの水晶を持って待っておけ」

 彼は急降下して地に降り立ち、足をつけた。そこは薔薇園でここの薔薇の木達は柔軟にしなり、何とか生き延びていた。

 丈夫なこの木の下にいればこの子は助かるかもしれない。彼はそう思い、少女を赤い薔薇の木の根元に降ろしました。

「何があってもこの水晶を手放すな。必ずお前を護ってくれるから」

「いやぁっ!」

「すぐだか――」

「いやだぁっ! 私、お兄ちゃんと一緒にいる!」

 少女は言う事を聞こうとしない。少女の目は涙のシェルターがかかり、充血し、腫れている。

「確かにまだ小さなお前にこんな事言うのは酷だ。だが娜夜竹の願いを果たすにはお前が生きてくれなければならないんだ、だからここで待ってろ」

 彼は少女の頭を撫でて、水晶を握らせました。そして再びふわりと舞い上がり、少女を見つめました。

「私、お兄ちゃんの事ずっとずっと待ってるからね」「あぁ、生きろよ」

 彼は風の暴れる大空へ駆けていきました。

「お兄ちゃん……、娜夜竹様……」




 彼は水晶を少女に渡したので、僅かな魔力しか残っていませんでした。が、ここを護る為には一人でも生きた人間がいて世界を立て直せる状況を作らなければならない。自分が死んでもあの子なら何とかしてくれるはずだ。

 すると風がふと止まった。そこに小さな風が集まり、風速と威勢を増す。まるで誘き寄せるかのように。

「神よ! 貴方様の仕業ですね? お止めになって下さい。さもなくばこやつを処分してみせましょう」

 自分は全てを懸けてここを護る、そう決めた。残りの魔力で何としても。

 一方、風は納まる素振りは見せず、ゆっくりとこちらに向かってきた。

 彼は身体中の魔力を溢れたたせて、目を瞑りその場で静止する。

 世界を創った魔物としての、ニンゲンの愛を分かり、分かち合った者のプライドとして。

「娜夜竹……、さよなら」

 彼の体は一瞬、狐火のように輝き、風の中へ呑まれていった。

 風の中心は回りに屋根の一部や馬、木、子供、間違いでなければ娜夜竹の使いなども数人飛んでいたりしたが、前と比べると比較的穏やかで、いつの間にか彼は浮遊していました。

「あぁ……、きっと終われるんだな」

 彼はそう思った。娜夜竹は予測していたのだろうか、この嵐を。神の悪戯を。いや、そんなはずはない。それなら娜夜竹はここを見捨てたり――。

 睡魔が彼に襲い掛かり、頭がぐらりと傾き、瞼が閉まっていく。

「眠い……」

 やっと眠れるのだ、良かった。これで良かった。私は何も間違ってなどいない。

 彼は自分の体温が徐々に、少しずつだが低くなるのを感じた。指先は動かなくなり、パキッと音がしてひび割れ、そこから僅かに残った魔力と血液が、夢と愛が零れ落ちる。

「娜夜竹……」

 体が【無】に落ち、還っていく。痛みと苦しみの波中で意識を失いかけた時、最後に聞こえた気がした。


「させないわ」と。


「――ここは」

「大丈夫?」

 彼の目に飛び込んできたのは、彼が愛して止まなかった彼女の変わり果てた姿でした。

「娜夜竹! その姿、何故……!」

 それはそいつが望んだからだ。

「神!」

 姿はうっすらとしか見えなかったが、神に間違いなかった。神は表情一つ変えず、じっとこちらを見つめている。

「あぁ、ごめんなさい! 嵐は私、そして私は甘かったのよ……!」

 娜夜竹の体はまるで壊れかけのガラス細工のようにひび割れ、肌は青白色。ただ目からは透明な涙の雫を流した。

「あの水晶は貴方が持っているとてっきり……!」

 彼が少女に渡してしまった水晶にはこの嵐を納める事の出来る力が込められていたのです。

「私……あの人と契約をしたんです」




 私は魔術衣を纏い、貴方には秘密で祈祷を始めました。

 神と話をする為に。


 そなたは誰だ? なかなか力のある魔術師のようだが。

「娜夜竹と申します。ある魔物から世界崩壊の話を聞きました」


 あぁ、奴か。あいつはいつまでたっても実行しない。……これが世界の為だというのに。

「神様、お待ち下さい! どうしてですか? なぜそのような事を――」


 黙れ! 全てはニンゲンが悪いのだ。そなたは知っているか? あいつがどのような思いで世界を創造して、眠りにつけないかを!


「それはっ……」


 そなた一人が努力しても……世界は広すぎるのだ。そなたの気持ちは分かるがニンゲンは罪を犯し過ぎたんだよ。

「じゃあ、せめて私に出来る事を教えて下さい! このままじゃ彼が死んじゃうんです! 貴方だって用が終われば彼を殺すつもりなんでしょ!? それは嫌、優しい彼を見捨てないで……。優しい彼は皆から愛されてます! 彼だって今は世界崩壊なんて望んでないはずです!」


 泣くんじゃない、女魔術師。それは自我ではないか? ニンゲン達の勝手な考えだ。

「お願い! 私は他の人とは違って魔術師。何かできることありませんか? 何でもしますから……」


 例え、魂が犯されてもそう言えるか? 例え誰かに裏切られても。

「……言えます!」




「私は貴方の代わりに……。貴方に死んでほしくなかったの。本当は自分の魔力でね、皆を傷つける前に……死のうと思った」

 娜夜竹は目から水晶のような色の大きな粒の涙を落とす。

「でも、自制心が無くなっちゃったんです。だんだんコントロール出来なくなって……。最悪、貴方に殺してもらおうとあの水晶渡したのに貴方……」

「すまん……。でもどうし――」

 彼は耳元で何かが砕ける音を聞き、ふと横目で娜夜竹を見た。しかしそれは自分の上に乗っている娜夜竹の腕に一気にヒビが入った時の音だった。

「娜夜竹!」

 娜夜竹は彼の唇に自分のひび割れた指をそっと当てた。

「いいの。私、後悔なんかしてませんわ。自分で選んだ道ですもの」

 だんだん柔らかくなる娜夜竹の笑みとは裏腹に娜夜竹の体は壊れていく。しかし、それと同時に風も緩まり、彼の体が温かくなり生気が帯びてくる。

「うっ……」

「娜夜竹! しっかりしろ!」

 娜夜竹の体は前に傾き、どさりと彼の上に乗しかかっる。

「い……いのよ。もう私を離して……」

「出来るか、そんな事! 頼むからしっかりしてくれよ!」

 娜夜竹はぶるっと小さく身震いをさせると、荒い呼吸を繰り返す。


 諦めろ、魔物よ。さぁ、天に帰るぞ。

「貴方だったのですね……、彼女を騙したのは」


 何を言う、騙してなどいない。この魔術師は自らそれを望んだのだ。

「許せない……! こいつは何の罪も無いのに!」

 彼は神が許せなかった。そして感じました、これを終わらさなければいけないと。世界を創ったモノの権利は創造と破壊。何もかもなくなってしまった今、全てを白紙に――。

「元に戻しましょう、神よ。私は貴方を恨みます」


 何をする!?

「もう戻れない……」

 彼が差し出した手の上には血が一滴垂れた一輪の青薔薇。そしてその中へ天と海との青が吸い込まれていく。

「私が出来る最後の事」

 青に満ちた青薔薇の色は薄く見開かれた娜夜竹の瞳の中へ溶け込んでいく。

「娜夜竹……」

 彼は分かっていた。娜夜竹がもう危ないという事くらい。どれだけ嘆いても、悲しんでも、怨んでも、これだけは変えられない宿命だという事を。だからこそ、最後に最高の贈り物を。

「愛している、娜夜竹」

 娜夜竹は少し笑うと、静かに息を引き取った。

「最後に……ありがとう。皆、ありがとう」

 全ての物から色が去り、それぞれの色が娜夜竹の使い達とあの少女へ溶け込んでいく。そして……。


 止めないか! 魔物よ! 何をする気だ! 今のお前が私にかなうわけないであろう! 私に背けばどうなるか知っているはずだ!

「それでも、だ」

 彼は銃を神に向ける。

「私は貴方を許せない。どんな罪に問われても、どんな罰を与えられようと……」

 天空で銃声が鳴り響き、地上へ一人の男が落ちていった。


 あいつは……本当に馬鹿な奴だ。

 神は胸と口から血を流し、呟いた。


 何千年も、何億年も、拭い去られない罪を犯したな……。あいつはこれから何度も地獄へ落ちて苦しむのだろう。世界を荒らし、世界に罰を与える魔物へ成り下がるのだから。

 神はふと娜夜竹を見つめる。薄く見開かれた瞳は何よりも深く、優しく、艶やかな青色。そんな彼女の手にはいつの間にか色とりどりの薔薇達が握られていた。


 あいつの事はお前に任せたぞ、――青薔薇姫。


次話からフツキ達の会話になります♪また見てやって下さいネ!

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