第8話-2〜serious memories
うわぁぁぁ!まさかの約1ヶ月放棄申し訳ございませんでした!普段、通学時間に書いてるんですがケータイの電池がパーになって……。てわけで次からは頑張ります!
遥か昔、僕達の棲むこの世界【ラウリナトス】は森羅万象、全ての物が白かったそうなんです。白……というより無、なんですね。 しかし、神から遣わされたあるひと魔物がこの世界に降り立った時、彼は踏み締めた場所から物を色付けて彩り豊かな世界に変えたのだと。それはそれは強力な魔力を使って――。
そうして彼は皆が望む平和で穏やかな自然を作り上げました。
これが今の【ラウリナトス】の始まり。
そこからニンゲンが支配し始めたこの世界は汚れ、醜くなっていった。疲れた彼は眠りにつこうとしていたが、そんなわけにはいかなくなったんですよ。
彼は怒った。炎の赤、太陽の橙、闇の黒、草木の緑、花の紫、月星の黄、そして天と海の青、の調和を狂わせたニンゲン達に。
そして神も考えたんですよ。このままではいけない、と。世界の危険を感じた神は魔物の彼をニンゲンの姿に化けさせ、世界を壊せという命令を下した。もちろん彼も決意をしました。己が朽ち果てたとしても、残り僅かな魔力全てを使いきっても命令を成し遂げるとね。
ニンゲンと変化した彼は視察の為に閑かで静かで色鮮やかな薔薇園にいました。
それはそれは夢の世界のような薔薇園だったそうで。しかし当てもなくやって来てしまった彼はただ途方に暮れ、佇むしかなかった。その時です。
「そこにいるのは誰?」という声が聞こえたので振り向くとそこには美しい女性がいました。
「お前は……?」
「娜夜竹よ、見かけない方ね。誰?」
風貌からすると娜夜竹は魔術師でした。ただ魔術師にしては珍しく、髪や目は黒く、肌が黄がかっている極東の国出身の者だったんです。
「名もない者だ」
「名前が無いの?」
娜夜竹は悲しそうに目を細めた。彼も返す言葉が無くなる。
「……ともかく、私達の村へようこそ!」
彼は次第に、村人を、中でも特に娜夜竹を深く愛し始めた。恋人達の愛というよりは娜夜竹をニンゲンとして愛したんです。例えそれが魔物を退治する魔術師であっても。
だがまるで嘲笑うかのように彼の体には限界が近づいていた。もう人間の姿を保つのは厳しく、魔物の姿でも命の危険があったんです。そして世界崩壊までのタイムリミットも。
彼は迷った。娜夜竹に直、起こす事や己の事を話すべきか。でも娜夜竹には迷惑をかけたくなかった。
「最近、顔色が悪いわ。どうかしたの?」
「いや、何もない」
「ならいいけど……。何かあったらいつでも私におっしゃって」
「……娜夜竹」
「何ですか?」
「お前は今の世界をどう思う?」
にっこりと笑い、娜夜竹はいつも持ち歩いていた水晶の玉を撫でた。
「確かに世界は醜い争いごとや欲望で埋め尽くされていますわね。でも愛は無くなっていない。それだけで充分でありませんこと?」「……お前らしいな」
彼は笑った。心では迷いが渦巻いた。世界の崩壊か、娜夜竹の愛か。神の命令に逆らうべきなのか。何を選べばいいのか彼はもう訳が分からなくなっていた。「何も話して下さらないのね、貴方って人は」
「……?」
「貴方は何者? 私、気付いてました。貴方が人間ではないって。魔術師が分からない訳ないじゃない」
「娜夜竹……」
彼は初めての恐怖を覚えました。自分の正体がばれる事や、またそれによって娜夜竹に殺されてしまうかもしれないと。
沈黙が続き、二人ともじっと見つめ合った。
「言わなくていいわ。貴方は優しい人だもの、退治など出来ないわ」
「娜夜竹、私が怖いか? 醜く汚らわしいか?」
「いいえ」
その時の娜夜竹は冷静に見えた。
二人の間を冷たい風が通り抜けて、娜夜竹の芳香がうずまく。
「自然や人を愛せるモノには生きる資格がある、護り護られる資格がある。そうでしょう?」
「娜夜竹、私は」
オマエタチヲ、コロサナケレバナラナイ……。
「貴方は一体?」
「私は世界の創造主、神の遣い」
彼は意を決し、娜夜竹に全てを話した。
ラウリナトスの創造や、神、そして今のニンゲン達の行いとその報いについて。
「これは私達のエゴだけれど崩壊を遅らせる事は出来ないの? もう既に手遅れなの?」
「分からない。私にだってもう分からないんだ。どうすればいいんだ……! うっ、ゲホッ!!」
「魔力が急激に下がってるわ! 私に掴まって。横になりましょ」
娜夜竹は彼を横にし、震える彼の拳をそっと両手で包み込んだ。
「私が力になるわ。さぁ……こっちへ」
そうして娜夜竹は彼を【魔力が必要なニンゲン】にしてしまったのです。
「調子はいかが?」
「だいぶいい。どこに行っていた?」
「祈祷よ。私、遠征に行かなければいけないの。しばらく帰って来れなさそうな危険なやつ。だから」
「そうか……。大丈夫か?」
「えぇ、貴方こそ調子がいいならこれからはこれをお持ちになって」
これというのは娜夜竹が常に持ち歩いていた水晶だった。
「無理だ」
「なぜ?」
余りにきっぱり断る彼に娜夜竹は吸い込まれそうな真っ黒な目を大きく見開けた。
「それはいつもお前が大切に持っている水晶だろ」
「そうよ、でもこれからは貴方の物。貰ってちょうだい」
彼は断固として言い切る娜夜竹に異変を感じたが、真剣な娜夜竹の願いを断るのは無礼だと思い、しぶしぶ受け取る事にしました。「分かった」
「無くしたりしちゃ嫌よ」 悪戯っぽく言う娜夜竹に彼は笑ったのでした。
「じゃあ行ってくるわね」「気を付けて」
「娜夜竹様ッ」
娜夜竹の遠征を知った子供達が何人かこちらに駆けてきた。
「なんでえんせいの事、言ってくれなかったの?」
「ごめんなさいね」
娜夜竹はしゃがみこんで子供達の頭を撫で、涙を拭った。
「皆に心配かけたくなかったのよ、ごめんね」
「えんせい、頑張って」
一人の少女が娜夜竹に赤い薔薇を差し出した。
「え?」
「早くもどってきて」
次は小さい少年が橙の薔薇を差し出す。
そうやって子供達は次々と黄や紫、黒、最後には青の薔薇を娜夜竹に渡しました。
「ありがとう、皆……」
娜夜竹は目に涙を溜めて、一輪ずつ受け取った。
「すごいわ、あの薔薇園から黒や青のまで見つけてくるなんて」
「娜夜竹様のために頑張ったんだよ! 娜夜竹様に似合うとおもうんだっ」
子供達は皆、泥だらけの顔を緩ませた。すると一人の少女が何かに気付いたように彼の元へ駆けた。
「はい、これお兄ちゃんの」
少女は彼に一輪の青薔薇を差し出した。
「あの薔薇園は娜夜竹様とお兄ちゃんが出会った所だもん、おそろいがぴったりよ。ね、娜夜竹様」
「こらっ! からかわないで!」
娜夜竹は顔を真っ赤に染めて子供達に叱る。でもすぐに優しく微笑むとこう言いました。
「皆、私は長い間戻れないかもしれないの。でもね、私はいつでも皆の事を愛してるし、何かあったら護るからね」
「僕も娜夜竹様に何かあったら護るよ!」
一人の少年が手を精一杯伸ばしてそう叫ぶ。周りの皆は声を上げて笑った。
「ありがとう。皆、大好きよ。さぁ、そろそろお帰りなさい」
子供達は手を振りながら去って行きました。
とうとう彼は娜夜竹が明らかにおかしい事を確信した。
「そろそろ行きますわね」 娜夜竹は踵を返すとすたすたと歩き始めた。
「娜夜竹!」
彼は娜夜竹の細い手首を掴みました。娜夜竹をこのまま行かせてしまうと帰ってこない気がした。
「? どうかなさったの?」
「娜夜竹、お前」
「私が留守の間は、ここを頼みましたよ。あの水晶には魔力が籠もってるからそれを使って。私が戻るまで世界崩壊なんてしないでね。じゃなきゃ会えなくなっちゃうわ」
娜夜竹の手はふるふると震え、今にも壊れそうだった。
「分かっている。娜夜竹、どこに行く?」
「これが私の決意なの。分かって」
娜夜竹は彼の手を優しく、でも強く弾き、腕を彼の首に巻き付けるとそっと優しい口付けをした。
彼は一瞬、娜夜竹がした事が分からなかった。ただ娜夜竹が普段はそんな事をしないのと、ニンゲンの何かの挨拶なのだとは分かったけれど。
「娜……」
「貴方を愛しているって証拠よ」
彼が娜夜竹を抱擁する前に娜夜竹は腕を解き、すっと後ろに下がった。
「さよなら……、私の愛しい人」
娜夜竹は悲しい笑みを彼に見せると一瞬で去ってしまった――。
娜夜竹がいなくなって10日か20日か、日が経った。空は曇り、重たく雲と風が渦巻いていた。
いっこうに帰ってくる気配のない娜夜竹。一方、彼は娜夜竹が最後に見せた笑みと優しい口付けが忘れられず、彼女が残した水晶を撫でるしかなかった。
何か出来る事といえば、この水晶を持ち、ここを護り、健康に暮らす事だったのだから。
その時だった。まるで何かが切れそうな勢いの女性の金切り声が聞こえたのは。
「?」
何が起きているのかなんて分からなかった。ただ天上には曇天。そして心ごと吹き飛ばしてしまいそうな風が竜になって暴れた。
「お兄ちゃんっ」
それは数日前、娜夜竹に薔薇を渡したあの少女だった。
「助けてっ、嵐が! 花が! 皆が!」
この時の彼はまだ何が起きるか、想像も出来ていなかった――。
やっと記憶の話が出てきましたね、はい。いつも読んで下さる方々、ありがとうございます。こんな我儘な藤咲ですが、よろしくおねがいします。