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第7話-7・〜姫らしくあれるなら

今回はフツキメインのアリシアサブメインでお送りいたします☆

 目が痛い。煌めく閃光は世界を切り裂き、闇と聖を引き裂いた。一瞬にして、敵は光に呑まれ、断末魔の叫び声をあげる。

 まるで私にはいやだ、いやだというように聞こえた叫びも虚しく、だんだんと声は小さくなりついに元の人間の姿――ただし、もはや原型は留めていない軍人の遺体の姿になった。その上にアリシアが落ちるように倒れ込む。

「っ……」

「アリシア!」

「ジャイロっ……。来てくれたのね」

「喋んなくていいから。捕まれよ」

「あ……ありがと」

「ほら、せーの」

 ジャイロはアリシアを介抱すると、ちらりとこちらを見た。

 ジャイロと呼ばれるその子は、きっとレイラやクロウよりは年下。もしかすると私より下かもしれない。目はまるで全てのモノに警告するかのような黄色だけど、彼は右目を眼帯で覆っていた。

 髪は黒に近い濃紺。手には錆びかけた汚い刀が握られていて服もレイラやクロウと違い、袖や裾は(ほころ)びている。上着として使っているであろうはだけて、片腕が顕になった着物は灰色で唯一分かるのは青い花の模様と巻いているベルト二本。中のTシャツは裾が裂け、短パンも汚かった。つまり姫の従者だとは思えない様だってこと。

「あんたが青薔薇?」

「……多分」

「多分〜!?」

「あなたこそ従者……なの?」

 私は思わず尋ねる。こんな事言うのは失礼だって分かってるわ。だって服とか物凄く(すす)や土がついていてレイラやクロウとはあまりにも大違いなんだもの。――しかもかなり偉そうだし。

「何だ、その目は。俺もあんたの従者だよ。――名前」

「え?」

「な・ま・え」

 名前、だけ言われて誰がわかる?

「フツキです。そっちこそ名前を聞くなら先におっしゃったらどうなんですか?」

 私はぷいとそっぽを向き、思わず言い返す。そりゃペコペコしろとは言わないけれど、礼儀は知っておくに越したことないでしょ。どこが従者なんだか。もちろん、私が姫なんだって威張りもしないけどさ。

「偉そうな姫だな、おい。ジャイロだよ、ジャイロ!」

 なんだ、こいつは!!

 思わずしかめっ面をして睨んだ。

「ジャイロ! お子ちゃまじゃないんだから。早くしましょ。フツキ姫様も」

「えぇ」

 ジャイロもむすっとした顔になり、軽く私を睨む。むかついたけど私はアリシアの反対側を支えた。勿論、私も動けるような状況では無かった。でもアリシアはまだ足に力が入らないようだったし私が頑張る番なのだ、と体に鞭を打った。「姫様……」

「大丈夫。行こう、アリシア」

「ありがとう。あ……待って、行きたい所があるの。連れていって」

「おい。今は……」

「いいの。行って」

 ジャイロも少し戸惑ったようだったけれど、あまりにもアリシアの表情が真剣だったから私達はアリシアの言う事に従う事にした。「この黒いのの跡を辿っていってくれない? そんなに離れてはいないから」

「わかったわ」

「掴まってろよ」

 私達は弱ったアリシアを支え、薄暗く、長い廊下をゆっくりと歩き始めた。右も左も部屋、部屋、部屋。冷たく、重い鎧を(まと)った扉の兵士達が私達の周りに立ちはだかる。足元には黒いカタマリ。まるで地雷のようで踏んではいけないという気分になる。

 そんな中、ずっと3人の足音が不協和音のように響き渡っていて、更に不気味さを際立たせていた。

「ここ。開けて」

 ジャイロはドアノブに手を掛けて、一気に扉を開ける。

 つん、と鼻に付くような匂いとやけに感じる熱気を覚えた。

 暗闇の中に一歩足を踏み入れると水溜まりにはまったようにぴしゃっと液体が跳ねる。そして一面には少し湿気た数多の黒いカタマリ。

「ありがとう。一度離して」

 アリシアはするりと私達の腕を抜け、よろよろと力なく歩くと、壁に手を伸ばして、パチリと電気をつけた。

 塗装された金属性の棚は液体――恐らく、床に粉々に砕けている試薬瓶の中身でべちょべちょに濡れている。微妙なへこみ具合や塗装の落ち具合から薬品で溶けた部分もあるよう。

 アリシアは床の試薬などお構い無しに部屋の中へとずんずん進み、床に落ちた一つの瓶に手を伸ばした。

 そしてそれを、そのままポケットに突っ込むと、また新たに綺麗な瓶を取ってポケットに突っ込んだ。

「アリシア……?」

「私ね、芝居して何とかあの牢屋から脱出したんですよ。そして私を連れた一人の軍人は興味本位で私をここに連れ込んだ」

 そう言うと、アリシアは一本のひび割れた注射を拾い上げた。

「彼は注射を打とうとしたわ。――危険を感じた私は体術で何とか対抗したんだけど、武器無しで軍人相手じゃ負けそうになったんです」

 次にアリシアは足元に落ちた黒いカタマリを眺め、足で軽くこん、とつついた。

「咄嗟に思いついたのは、とりあえずこの注射を彼に打ってみようって事だった。それがこんな悲劇を生むだなんて考えてなかった。もちろん、注射器の中身によって彼が死ぬ事も覚悟したわ。でも違った、彼は変貌した……! 醜い、理性を失ったバケモノへ!」

 アリシアは少し顔を歪ませると、目から大粒の涙をたくさん落とした。そして子供のように手で涙を拭き、顔を覆い泣いた。

 ジャイロは無言なまま、不慣れな手つきでアリシアの肩を抱く。

「アリシア……。アリシアは悪くないよ」

 私も思わずアリシアに寄り添って、背中に手を回す。

 彼女は従者、心優しいお姫様。本当は私を護る為などに闘うなど出来ないはずなのに。だって本当は姫だったのだから。

 でも私も……姫であろうが無かろうが、皆と居たいし支えたいの。

「泣かないで、アリシア。私を護ってくれてありがとう」

「姫様……」

「次は私が護ってあげるから」

 そう言うと私はアリシアを思いっきり抱き締めた。多分、背中越しのアリシアは驚いた顔をしている。

 自分で言って恥ずかしかったけどそんなのいい。感謝の気持ちを伝えたかったの。

 するとアリシアは泣き顔でくすっと笑い、私を抱き締めた。いつものように可愛らしく、ぎゅっと。

「姫様は私と違って姫らしく強いのですね」

「いいえ。私はアリシアと違って闘えないもの。強くない」

 やっと私に涙目の可愛らしい笑顔を見せてくれる。

「姫様、大好き。――さすが私達の青薔薇姫様」



 私が青薔薇姫と皆が言い、強くなるなら私は優しく誇り高い【貴方達の青薔薇】でいるから。



「見ーつけた」

 カツンと何かが床を叩く音がして、水浸しの床をつかつか歩く音がした。

 私が求めたこの声は――。

「クロウっ!」

 いつもより優しい笑みを浮かべた事と怪しい大きな鎌を構えていた事以外はいつも通りのクロウだった。 思わずクロウの方へ駆け出す。

 あれ……? クロウの顔が段々白黒になってきた。しかもクロウの顔がちょっと驚いてる。

 慌てて駆け出すクロウ。そして私の体は重力に負けていく。クロウのとこへ行きたいのに体は我儘。言う事を聞かない。

 貧血を感じて、意識の薄くなる中、私はクロウが耳元で優しく、よく頑張ったね、って言った気がした――。


うーん、クロウは見事、イイ所だけ持っていきましたね〜。まぁ今まで色々、目立たなかったしいっか(笑)ジャイロなんかごめんね〜

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