第7話-2・〜漆黒の為の鎮魂曲(レクイエム)
今回はしばらくお留守だったあいつの登場です!!
意識が遠退く。口を塞がれた時、何か薬の匂いしたもの……。ダメ、このままじゃ。でももう……耐えられない。ごめんなさい。ごめんなさい、皆。
私ダメかもしれない。
その頃――ある薄暗い森の中で……。
「ちょっとォ! 冗談じゃないわよーっ!!」
そう。存在を忘れられていたティーティは一人で空を切り、ある者を探していた。
「私が小さいからって皆で馬鹿にしないでよねっ! どうせ小さいから利用価値ないとか思って捕まえなかったんでしょー!? 本当は可愛い女の子にもセクシーなお姉様にもなれるんだから! まぁどっちかっつーと綺麗なお姉さんになるんだけど! てかここどこなのっ!?」
「池だけど?」
「ぎゃあァァァっ! でっ出た、お化けェェェっ!!」
「多分、捕まらなかったのはティーティが小さいから皆、気付かなかったんだよ。つかティーティも入らない? 気持ちいいよ」
「く……クロウ!」
ティーティは桃色の瞳をぱちくりさせて、その場で浮遊する。
「そうそう俺だよ。まだ足もちゃんと2本ついてるよ、ほら。思うんだけど妖精もお化けに近くね?」
そこには足を交互に上げて足をアピールしているクロウがいた。
「なんでそんなトコにあんたがいんのよ! てか誰が池につかるのさっ!?」
「え、俺じゃん?」
自分を指差しながら楽しげそうに答えたクロウにはさすがにティーティも呆れて、首を振った。
「……何してるの?」
「水浴び。俺、綺麗好きだから。てかさ久しぶりじゃん、ティーティ。俺は君の人間バージョンの方が好きだけど。年の割にはさ、ほら結構可愛げも色気もあるしね」
クロウは手で胸板と臀部にわざといやらしく半円を描き、Sカーブを作る。
「やらしいなぁ、もう! だいたい驚かさないでよね?」
「いや、勝手に驚いてるのそっちだけだし」
ティーティはソバージュがかった長い緑色の髪を体の前にやり、恥ずかしさを隠す為、髪で顔を隠した。
「ねぇ」
「何っ!?」
「変身しないの?」
「しない! てか今は変身とかいいのよ、聞いて! 皆が捕まっちゃったの!」
ティーティはクロウの濡れた黒髪を引っ張り、乱暴に振る。
「へぇ。そりゃ大変だ」
「助けて! レイラもアリシアもサブも、フツキまで軍に捕まっちゃったんだよ!? 頼みはクロウしかいないの、お願い。逃げないで」
「ジャイロがどっかにいるでしょ? あの子の方がそういう救出とか得意そうだしさ」
相変わらずクロウはにやりと笑ったままで、手に水を掬っては自分の腕に垂らす。
「ねぇ、私達は青薔薇姫を護る唯一無二のパーティーなんだよ?」
髪を全身で振るティーティの朝顔の洋服は水でべちょべちょに濡れて、ずっしりと重そうに重力で引っ張られる。
「ずっとずっと古来から青薔薇姫を護る為に私達は生まれ変わっても生まれ変わっても存在してる。そして出会っているの。今までも、きっとこれからも切っても切り離せない仲間達」
「……」
「世界の為に青薔薇姫を死なせてはいけないのよ、語り継がなきゃいけない歴史がまだ残っているの」
「わかってる……」
「じゃあ助けてよ! 仲間じゃん! 私じゃ……私だけじゃどうにも出来ないんだよぉっ」
ティーティの目からまるで雀が落としたような涙が頬をころころと転がった。
「あーあ。ごめんって! 泣かないで、ティーティ」
クロウはいつも通りの笑いを浮かべて小指の爪を使い、ティーティの涙を拭った。
「だっ……だってぇ〜」
「ごめんね。俺って臆病で、痛がりで、弱いから逃げてばっかりなんだ。怖いから逃げる事しか出来ない。本当に嫌になるくらいヘタレ野郎なんだよ」
「クロウは弱くなんかないよ……、ヘタレ野郎なんかじゃない」
「ありがと、ティーティ。……んじゃ気が向いたら行こっかな」
「ほんと?」
「ほんと」
「クロウ、だいすきっ」
ティーティはクロウの額にちょっとキスするとくるりと前に一回転した。がワンピースの裾がめくれて、きゃっと短い悲鳴をあげ、慌ててスカートを押さえる。
クロウはそんなティーティを可愛らしく思って優しく笑い、水からザバッと上がった。
「ひゃっ!」
思わずティーティはクロウの裸を想像して手で目を塞ぐ。
「あは。ズボンもパンツも履いてるよ? 上は裸だけどね。あれだよ、あれ。セミヌードってやつ」
「そっそんなの分かってるもん!」とティーティは頬を膨らまして赤面し、小さな顔が真ん丸の梅干しのようになった。
「じゃあ私先に行くから! また後でね。頑張ろ」
「オッケー」
ティーティは朝顔のワンピースをふわりと翻すと、光る蛍のように瞬く間に消えてしまった。
「痛いのやなんだけどな……」
クロウは上着を肩にかけて青薔薇のついた黒いシルクハットを指でくるくると回す。
「第一、あんなに頼まれちゃ仕方ないし〜。てか妖精と言えど女の子に泣かれたら断れないじゃん」
水で濡れた頭を何回か振ると、長い前髪を手のひらで掻き上げた。
「俺も皆の事、何だかんだ言っても大事だし、フツキお嬢様意外と可愛いし。ああいうミステリアスだけど護ってあげたくなる子好きなんだよね、俺」
クロウは黒いタートルネックを着ると裸足のまま、草むらの中へ歩いていく。がふと森の中で空を見上げた。
「木で何にも見えないや、何にも」
俺さ、本当にまじで怖いんだ。
ねぇ、知ってる?
俺は飲み込まれるんだよ。
深い深い漆黒の闇に
飲まれ飲まれて
体の中から
クチャクチャ音たてて
蝕まれる。
それはきっともうすぐ。
一度、飲み込まれたら
脱出なんて不可能。
でもそれは
もう俺の後ろに。
俺はクロウ。
漆黒達の王だから――。
クロウにはレイラと変わってブランクを感じさせない活躍を期待しましょう!