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(拳で)祓う


 扉の向こうで、とてつもない轟音や爆破音が聞こえている。

 中規模な地震ぐらいの揺れも感じる。

 私は扉の向こうで行われているだろう激戦を想像してブルブル震えていた――なんてことはなくて、さっさと隧道を戻り、尖塔の頂上部からコロシアム部分を見下ろしていた。

 特等席である。


「ふ、ふぉぉぉ、これが人外の戦い……っ!」

 レトロなRPGゲームであるBF6には、当然ながらアクション戦はない。

 戦うというコマンドを押せば剣を振るい、魔法を唱えれば魔法が放たれる。

 それらは基本的に躱されることなく敵に当たる。


 しかし、ここは現実世界だった。

 強大な敵に自らの攻撃をクリティカルに当てるためには、宙を舞ったり敵の巨大な体を足がかりにするなどの人外戦が必要になってくるのだった。

 ソファーに座ってピコピコ指を動かしているような戦いではとうてい届かない、高度な筋肉と瞬間的な判断による戦闘が、私の真下では繰り広げられている。

 私が思うことは一つ。

 

「……勇者に転生してなくて、ホントに良かった~……」

 アレは、無理。

 どれだけレベルを上げようが、あんな人外な動きは私には無理だ。

 せいぜい安全な戦闘前にちょこっとバフかけることぐらいしかできる気がしない。

 そもそも効いたのだろうか、私の”声援”。

 もし『戦闘前のバフ無効』とかが決まりだったら、尻尾の振り損なのだが。

 ……尻尾と、あと私のレディとしての自尊心が無駄になるっていうか。


「――あっ、最終形態になった……!」

 ゲーム画面では体表面が黒くモヤモヤしていた描写だったが、なるほど溶岩を纏っていたらしい。

「……っ!

 これじゃ体を足場にできないよっ。

 あ、ディーノさんっ!」

 誰も聞いていないのをいいことに、トーコの喋り方に戻してみた。

 我ながらものすごい違和感だった。

 慣れとは恐ろしい。


 もう少しで倒せるのにボスの猛反撃に苦しむ勇者達の姿が、眼下に映る。

 何もできないし、助けられるような力もない。

「~~~~っ!」

 私はぐっと両手を握った。

「――神様仏様晴人様!

 どうかどうか、なんとかしてくださいっ!」

 


 ――みぃつけた――



 さわ……と、生温かい風が通り抜けていった。

「……ん?」

 風とともにどこかで聞いたことのあるような声が通り過ぎていった、ような気がした。

 私は首を動かして周りを確認した。

「……んん?」

 誰もいない。

 聞き間違いだったのかと、改めてコロシアムを見下ろした。

 尖塔を足場にしてから、サクラメントを隠れ蓑にしてのジャンの五月雨斬り。


「やった!……か、な……?」

 息を飲んで見つめていると、悪魔は苦悶の声を上げながら体をよじり始めた。

 溶岩を纏った細く巨大な腕が、うっすら消え始めていく。

「よっしゃぁぁっ!」

 裏ボスであるファントムを、ついに勇者達が倒した!

 これでもう、真のハッピーエンド間違いなしである!


 私は勢いよく立ち上がって……カクン、というか、コテン、と床に倒れた。


 あれ……?


 声に出してあれ、と言ったはずなのに、口からはなんの声も洩れなかった。

 あれ……?


「センセイ!」

 あれ……?

 床に倒れた私に、誰かが近づいて来て私の頭の近くでグシャッと拳を握りしめた。

「……あれ?」

 あ、声が出た。

「センセイ、大丈夫か?」

 目の前には、息を切らしたシーフが立っていた。

 さてはこいつ、窓から入ってきたな?


「う、うん。あれ……?

 さっきの、なんだったでござろうか?」

 いきなり体の自由が奪われたって感じの違和感だった。

「さあ?

 ファントムとかいう凶悪な悪魔の残留思念とかじゃねえ?」

 ほほう。

 …………。


「そ、それってものすごく危ないでござろうがっ?!」

「いや、祓っといたからダイジョーブ」

 シーフが親指を突き立てて、胡散臭いイイ笑顔をしてきた。

「説得力皆無でござる?!」

 そもそもシーフが祓うとかいうけどさ、さっきのグシャッていう音の感じからして握りつぶした感が満載だよ?!

 祓うっていう言葉の清浄なイメージを返せ!


「まぁまぁ。

 ほら、ソル達も月の剣を手に入れたみたいだしさ、これでいよいよ結婚できるよな!」

 眼下を覗くと、ソル君とルーナが深い青にきらめく剣を手にしたところだった。

 おお、あれが本物の月の剣。

 遠目にもレプリカより簡素で、それなのに静かな威厳を放っているように見える。


「……はぁ~、まだ嫁には早いと思うんでござるけどねぇ……」

 ルーナはまだうら若き乙女だ。

 あんな粘着質チョーローに持ってかれなくても、無限の未来が彼女を待っているというのに。

「いや、嫁はセンセ――」

「ジャンッ!」

 超えの響き渡るコロシアムから、ディーノさんの声が飛んできた。

 さすがはあれだけの人外戦をこなすだけはある腹筋である。


「――……っす。

 なんでしょーか、ディーノさん!」

 叫び返したジャンに、ディーノさんが遥か下方からクドクドと、やれ片付けがどうのとか一人だけ何してるんだとか抜け駆けするなとか語っていた。

 ディーノさん、あんなに喋れるんだ……。




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