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迷宮再チャレンジ



 なぜ、こいつは私の服のボタンを留める手伝いを率先してやりたがるのか……。

 変態だから?

 変態だから?!

 遠い目をする私に構うことなく、シーフはいそいそとワンピースのボタンを留めてくれた。

 肌……というか、毛皮は見えないからたぶん大丈夫、とは思うけど。

 ルーナ、気の毒そうな顔をするならこの変態トメテ……。


「ずっと疑問だったけれど、ラビーがモンスターだったから、魔法の全体化でラビーまで標的化していたんだね」

 感慨深そうに、ソル君が呟いた。

 変態行為を嗜む幼馴染みのことは丸っきりスルーする方向らしい。

 私も叶うことならスルーしたいよ、ターゲットが私じゃなければね!

「いちいちラビーへの攻撃を外すのが面倒だったんだよねぇ……」

 え?

 それって私が感謝するとこ?

 なんか釈然としないんだけど……まぁでも、後半どころか最初からソル君の魔法一撃で死んでたから、やはりお礼は言うべきだろうか。


「え、えぇと……ありがとうでござる……?」

 ふと、ワンピースのボタンを留め終えたはずのジャンが固まっていることに気づいて、ほぼ真正面に見える顔を何の気なしに見やると――

「ひぃぃぃっ?」

 ――夜叉がいた。

「……ソル……」

 ゆらり、と夜叉なシーフが立ち上がった。

 ものすんごい形相がソル君に向かったおかげで視界から消えてくれたことは、何よりの僥倖だった。

「ん?」

 そしてなんだ?という顔をしてジャンを見たソル君の顔が、盛大に引きつった。


「――っなっんでそういう重要な情報を共有しないかねぇ、この色ボケ勇者っ!」

 しばかれ担当のジャンがソル君の襟首を締め上げて宙づりにするという、きわめて珍しい光景に、私だけじゃなくてディーノさんもルーナも呆然としている。

「ぐ、ぐっ……」

 ジャ、ジャン!

 ちょっと本気でソル君が苦しそうだよ?!

「それってセンセイがモンスターだって証拠だろうが?!

 何回も俺、お前に相談してたよな?!

 センセイの様子がおかしいから心配だって。

 その時になぁんでその情報、俺に寄越さないかねぇ?!

 あらかじめ分かってりゃ、センセイに”下手くそ”なんて言われずにすんだんだぞ?!」

 うわぁ。

 根に持ってるシーフがいた……。

 ……っていうか、ソル君チョーローだもん。

 ルーナのこと以外、気にするわけないじゃん。


「おい、そのぐらいにしておいてやれ」

 さすがにソル君の顔色が青から黒っぽくなってきたのでディーノさんが止めてくれた。

「そ、そうでござるよ、先を急ぐ旅でござろう?

 さっさと砂岩の迷宮に戻るでござるよ」

 裏ボスのファントム討伐で、ただでさえ冒険の旅程は遅れているのだ。

 さっさとセレネピア(最後の町)に向かわないと、ゲームでは勇者達の到着を待っていてくれたルヴナンも、現実ではそろそろ抜け出してきているかもしれないのだ。

 こんな所で暴力的な仲間割れをしている場合ではない。


「チッ」

 ジャンが舌打ちと共にソル君を離した。

 ……苦しそうに喘鳴しているソル君。

 駆け寄るルーナ。

 誰がどう見ても、悪役は夜叉顔シーフだった……。




 普段明るい人間が凶暴化すると怖いヨネ!

 迷いの森を後ろに、元いた魔法陣に戻っていってるんだけど、猛獣と同行しているような寒気がしばらく続いた。

 そんな冷気の中でも、デザートプリンセスがいた場所の宝箱までちゃんと確保した私。

 うむ。

 さすがはBF6マスター。

 この宝箱の中には、ソル君の最強防具であるサナダローブが入っているのだ!

 四大精霊入手前に開けてしまうと、ダンシングダガーとかになってしまう罠宝箱。

 返す返すもディーノさんを瀕死に追いやったあの戦いは無駄ではなかったと思う今日この頃である。


「さ、ジャンもそろそろ機嫌を直すでござるよ」

 ピリピリした空気はもうお腹いっぱいだ。

「ッチ」

 舌打つな!

「……悪かったよ、ジャン」

 さすがに大好きな幼馴染みに叱られるのは堪えるのか、それとも本気で生命の危機を感じたのか、ソル君が殊勝にジャンに謝った。

「……二度目はねぇからな」

 ……そこまで怒らなくても。

 正直、ジャンの凶暴な怒り様の方がどん引きだよ。

「あぁ。

 最初は警戒してたんだけど、そのうちそれが当たり前に見えてしまったんだ。

 なんていうか……ラビーだからしょうがないって思えて……それがいつの間にか、自然に思えてしまって」

 …………。

 私としょうがないが、イコールになってない?

 ジャンも、それ聞いてちらっと私を見て『あぁ……』っていう顔で頷かないでくれるかな?!


「……行くぞ」

 魔法陣に最も接近していたディーノさんが、私達を顎でしゃくって急かした。

 さあさあ気分を切り替えよう!

 いよいよ次は裏ボス討伐だ。

 私は応援担当だけど、勇者達には是非とも気合いを入れて頑張って欲しい。

 みんなの幸せな未来のためにね!




 眩い光が消えたと思ったら、私達は既に迷宮に戻っていた。

 浮遊感とか、意識が遠ざかる感じも何もない、超便利な魔法陣。

 これってルヴナン倒しても利用できるんだろうか?

 交易に関して画期的な道具になるけど、いつまで使えるんだろうか?!


「で、ラビー。

 これから”己の影”との戦いが待っているんだよね?」

 気を取り直したらしいソル君が聞いてきた。

 ジャンもいつものような、気を抜いた女好きチャラ男に戻っている。

 一安心だった。


「うむ。

 レベルは80ほどで、真なる力(ステータス上げ)に目覚めていない”己”との戦いでござる。

 恐らく、そう手こずることはないと思うでござるよ」

 これから、勇者達は己のイミテーションと戦うことになる。

 だがまぁ一体を除いて心配はしていない。

 そもそも一体ずつの戦いだし、レベルもステータスも下だしね。


「自分と戦えるって、なんかすげぇ楽しみだよな!」

 下手したら自分と一騎打ちやりたいと言い出しかねないジャンが、キラキラした目で言った。

 同じキラキラが、ディーノさんにも宿っている。

 さすが脳筋師弟。

「なにも盗めないでござるから、さっさと倒すでござるよ」

 私のアドバイスに、師弟は輝く目で頷いた。

 ……問題は、ルーナの影ダヨね……。




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