表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/105

最期の空


 翌朝、砂岩の迷宮入り口の尖塔に入った。

 朝日が射し込んで、砂岩の表面に浮かび上がる結晶がキラキラ輝いて眩しい。

 魔法陣は、光を浴びてぼうっと淡く照り返していた。

 カティアに至るための、深紅の魔法陣に向かう。

 ゲームでは、乗った瞬間に起動していた魔法陣だったが、現実ではどういった起動方法になるのだろう?


「よし、では一斉に乗るよ」

 ソル君のかけ声によって、皆一緒に魔法陣に乗った。

 魔法陣自体はけっこう大きいので、4人プラスラビウサ一人が乗っても狭さは感じない。

「ん?なんも反応しねぇ――」

と言いかけたジャンを遮るように、透明な混じりっけのない深紅の光が魔法陣の文字から放たれた。

 文字は円状になって照り輝く。

 眩しさに思わず目を閉じると、さっと光が消えた。


「――え?」

 消えた光を追うように目を開くと、そこはカティア近郊の丘の上だった。

 ラビウサの背に対しては高い木々が周りを覆う、カティアと迷いの森を繋ぐ線上の、ちょうど真ん中に当たる部分にある小高い丘。

 私達は、そこに立っていた。




 ラビウサの足でも、迷いの森までは歩いて10分ほどだろう。

 そして森の入り口からあの袋小路に至るまでに、長くて10分。

「――ははは……」

 私は空を仰いだ。

 今日も、いい天気だ。

 そういえば、前世で死んだ時も晴れだった。

 なんとなく、『怖くないよ』と世界が宥めてくれているような気分に、勝手になった。

 もう一度、しっかりと空を見上げて晴れ渡る空を目に焼きつけておく。


「……さ、行くでござるよ」

 ラビーとして、最後のガイドだ。

 迷いの森は、四大精霊の加護を得た後では宝箱が変わる。

 その変化した宝箱も洩らさずゲットさせる。

 私は攻略担当であるラビーだ。

 ラビーの仕事を、最期までちゃんとやり遂げる。

 大丈夫だ、大好きな人達が、幸せになれるんだから。




「ここのモンスターってこんなに弱かったんだなぁ……」

 しみじみとジャンが呟いた。

 感慨深そうにディーノさんが頷いていた。

「綺麗な森ね、ラビーちゃん」

 ここ(迷いの森)に来るのは初めてだったルーナが、あちこち見回しながらそう言った。

「あぁ、幻想的な森だろう?」

 ソル君が、ちょっと自慢気にそう応えた。


「あ、そこ宝箱でござる」

 驚いたことに勇者達はほとんど全ての宝箱をスルーしていた。

 ま、結果オーライだ。

 貴重なアイテムをゲットできたのだから。

 袋小路以外の宝箱を全て入手した後、ついにその時がやって来た。


「――あ、ここ来たことあるよな?

 俺たちが全然敵わなくて、ディーノさんが死にかけたやつ。

 ……やっぱりあのプリンが最後の封印モンスターだったのか?」

「そうでござる」  

 声が震えないように、ゆっくり息を吸って吐いた。

「プリンを倒さないと、本物の月の剣は手に入らないでござる。

 月の剣がなければ、ルーナかソルが死ぬでござる。

 もしくは、テラが滅びるでござる。

 だから。

 だから、絶対に倒すでござるよ」

 

 じっと勇者達を見つめる。

 男性陣は、敵の気配を探りながらも真摯な顔で頷いた。

 ルーナは……。

「ラビーちゃん……?」

 私の異常に、気づいたみたいだった。

「これまで、楽しかったでござるよ」

 買ってもらった、大切なワンピースを脱いで地面に落とす。

「ラビーちゃん?!」

 ごめんね、ルーナ。




「――……センセイ……」

「……嘘だろう、ラビー……」

「っ……!」

「ラビーちゃんっ!」

 立ち尽くす勇者達に、何か言葉をかけてあげたい。

 でも、プリンの体では話せない。

 だから、せめて正気に戻そうと攻撃を仕掛けた。


「――センセイっ!」

 最強勇者達は、へっぽこプリンの攻撃なんて簡単に避けてしまった。

 ルーナでさえ、思考や感情とは全く別の本能で避けてみせた。

 頼り甲斐のある勇者に育ってくれたものだ。

「やめてっ、やめて!」

 ルーナが泣き始めた。

 冷徹なはずのソル君が、全然攻撃してこない。

 へなちょこのチョーロー勇者め!


「――ラビー」

 そんな若者を尻目に、ディーノさんが私に向かって歩いてきた。

 今のディーノさんなら、たぶん2撃で()れるんじゃないかな。

 それなのにディーノさんは、刀の鍔に手をかけたまま、抜こうとしない。

 さっさと攻撃してきてよ!そういう気持ちを込めて攻撃するのに、私の攻撃は全然当たらない。


「――ディーノさん、俺がやります」

 ディーノさんとやり合っていたら――一方的に私が攻撃して、ディーノさんが避けるだけの攻防だったけれど――ジャンが何かをルーナに囁いて、それから私に向き直った。

「ジャン」

「いいから!

 俺に、任せてください。

 センセイのことなんで。

 誰にも、任せたくはないんで」

 

 イヤだな、と思った。

 あれだけ変態的な求愛行動をしてきた相手が、私を殺そうと向かってくる。

 ディーノさんならなんていうか、潔く諦められたんだけど、これまでの経緯が経緯だ。

 ジャンに、殺されるのはなんだかイヤだった。

 ……でも。

 たぶん、やつはイヤな役目を負おうとしてるんじゃないのかな。

 優しい男だってのは、知ってるから。


「――センセイ。

 ちょっとだけ痛いの、ごめんな」

 ヒュンッとジャンがかき消えた。


 ズシュゥッッ!


 私のプリンの体に、ジャンの拳がめり込んだ。

 激痛が、私を襲った。

 イヤだな。

 優しいから、絶対に後でヘコむじゃん。

 イヤだな。

 イヤな役目させてごめんって、謝ることもできないなんて――





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ