最期の空
翌朝、砂岩の迷宮入り口の尖塔に入った。
朝日が射し込んで、砂岩の表面に浮かび上がる結晶がキラキラ輝いて眩しい。
魔法陣は、光を浴びてぼうっと淡く照り返していた。
カティアに至るための、深紅の魔法陣に向かう。
ゲームでは、乗った瞬間に起動していた魔法陣だったが、現実ではどういった起動方法になるのだろう?
「よし、では一斉に乗るよ」
ソル君のかけ声によって、皆一緒に魔法陣に乗った。
魔法陣自体はけっこう大きいので、4人プラスラビウサ一人が乗っても狭さは感じない。
「ん?なんも反応しねぇ――」
と言いかけたジャンを遮るように、透明な混じりっけのない深紅の光が魔法陣の文字から放たれた。
文字は円状になって照り輝く。
眩しさに思わず目を閉じると、さっと光が消えた。
「――え?」
消えた光を追うように目を開くと、そこはカティア近郊の丘の上だった。
ラビウサの背に対しては高い木々が周りを覆う、カティアと迷いの森を繋ぐ線上の、ちょうど真ん中に当たる部分にある小高い丘。
私達は、そこに立っていた。
ラビウサの足でも、迷いの森までは歩いて10分ほどだろう。
そして森の入り口からあの袋小路に至るまでに、長くて10分。
「――ははは……」
私は空を仰いだ。
今日も、いい天気だ。
そういえば、前世で死んだ時も晴れだった。
なんとなく、『怖くないよ』と世界が宥めてくれているような気分に、勝手になった。
もう一度、しっかりと空を見上げて晴れ渡る空を目に焼きつけておく。
「……さ、行くでござるよ」
ラビーとして、最後のガイドだ。
迷いの森は、四大精霊の加護を得た後では宝箱が変わる。
その変化した宝箱も洩らさずゲットさせる。
私は攻略担当であるラビーだ。
ラビーの仕事を、最期までちゃんとやり遂げる。
大丈夫だ、大好きな人達が、幸せになれるんだから。
「ここのモンスターってこんなに弱かったんだなぁ……」
しみじみとジャンが呟いた。
感慨深そうにディーノさんが頷いていた。
「綺麗な森ね、ラビーちゃん」
ここに来るのは初めてだったルーナが、あちこち見回しながらそう言った。
「あぁ、幻想的な森だろう?」
ソル君が、ちょっと自慢気にそう応えた。
「あ、そこ宝箱でござる」
驚いたことに勇者達はほとんど全ての宝箱をスルーしていた。
ま、結果オーライだ。
貴重なアイテムをゲットできたのだから。
袋小路以外の宝箱を全て入手した後、ついにその時がやって来た。
「――あ、ここ来たことあるよな?
俺たちが全然敵わなくて、ディーノさんが死にかけたやつ。
……やっぱりあのプリンが最後の封印モンスターだったのか?」
「そうでござる」
声が震えないように、ゆっくり息を吸って吐いた。
「プリンを倒さないと、本物の月の剣は手に入らないでござる。
月の剣がなければ、ルーナかソルが死ぬでござる。
もしくは、テラが滅びるでござる。
だから。
だから、絶対に倒すでござるよ」
じっと勇者達を見つめる。
男性陣は、敵の気配を探りながらも真摯な顔で頷いた。
ルーナは……。
「ラビーちゃん……?」
私の異常に、気づいたみたいだった。
「これまで、楽しかったでござるよ」
買ってもらった、大切なワンピースを脱いで地面に落とす。
「ラビーちゃん?!」
ごめんね、ルーナ。
「――……センセイ……」
「……嘘だろう、ラビー……」
「っ……!」
「ラビーちゃんっ!」
立ち尽くす勇者達に、何か言葉をかけてあげたい。
でも、プリンの体では話せない。
だから、せめて正気に戻そうと攻撃を仕掛けた。
「――センセイっ!」
最強勇者達は、へっぽこプリンの攻撃なんて簡単に避けてしまった。
ルーナでさえ、思考や感情とは全く別の本能で避けてみせた。
頼り甲斐のある勇者に育ってくれたものだ。
「やめてっ、やめて!」
ルーナが泣き始めた。
冷徹なはずのソル君が、全然攻撃してこない。
へなちょこのチョーロー勇者め!
「――ラビー」
そんな若者を尻目に、ディーノさんが私に向かって歩いてきた。
今のディーノさんなら、たぶん2撃で殺れるんじゃないかな。
それなのにディーノさんは、刀の鍔に手をかけたまま、抜こうとしない。
さっさと攻撃してきてよ!そういう気持ちを込めて攻撃するのに、私の攻撃は全然当たらない。
「――ディーノさん、俺がやります」
ディーノさんとやり合っていたら――一方的に私が攻撃して、ディーノさんが避けるだけの攻防だったけれど――ジャンが何かをルーナに囁いて、それから私に向き直った。
「ジャン」
「いいから!
俺に、任せてください。
センセイのことなんで。
誰にも、任せたくはないんで」
イヤだな、と思った。
あれだけ変態的な求愛行動をしてきた相手が、私を殺そうと向かってくる。
ディーノさんならなんていうか、潔く諦められたんだけど、これまでの経緯が経緯だ。
ジャンに、殺されるのはなんだかイヤだった。
……でも。
たぶん、やつはイヤな役目を負おうとしてるんじゃないのかな。
優しい男だってのは、知ってるから。
「――センセイ。
ちょっとだけ痛いの、ごめんな」
ヒュンッとジャンがかき消えた。
ズシュゥッッ!
私のプリンの体に、ジャンの拳がめり込んだ。
激痛が、私を襲った。
イヤだな。
優しいから、絶対に後でヘコむじゃん。
イヤだな。
イヤな役目させてごめんって、謝ることもできないなんて――




