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過去の夢と疑惑 (三人称)


『ま~た6やってんの?』

 トーコは後ろから声をかけられて、気まずそうに振り向いた。

 握りしめた旧型のコントローラーの一時停止ボタンを、ちゃっかり押している。

 今からイベントが始まるタイミングだったからだ。


『え、え~と……ほら、半年に一回はやりたくなるじゃん?』

 出てもいない冷や汗を拭う仕草をしながら言い訳をしてみる。

『や、別に責めてはないけど。

 でも、飽きないなぁと思って』

 ハルトはそう言って、穏やかに笑った。

『う。……だってハルト君だって延々13やってるじゃん』

『だから責めてないって!』

 トーコは頬を膨らませて見せた。


『だってさ~。この前、ユミちゃんにちょっと変だよって言われたもん』

 しょげるトーコの頭を、ハルトはわりと力強く撫でた。

『そりゃしょうがないって。

 ゲーマーはそういうもんだ!』

 爽やかイケメンにしか見えないハルトに太鼓判を押され、トーコはへへへっと笑った。


『にしてもさ、せっかく最強にまで育てたのにまた一からって、怠くない?』

『ん~、確かに6も、13みたいに”強くてニューゲーム”があれば良かったんだけどねぇ……』

 BF6は、一周目が終わると自動的に、それまで影も形もなかったラビウサが登場してきて、”ふういんモンスターは たおしたでござる? きょうりょくな てきを たおせば、 もうひとつの エンディングが みられるかも しれないで ござるよ!”とのメッセージを伝えてくれるのだ。


 もちろん、もう一つのエンディングを見た後でだって自動的に流れるメッセージだった。

 いい加減なラビウサがやるから許せる、手抜き仕事ではあった。

 そしてリセットしてまた初めからプレイし直すしかないのだ。

 ……一から。


 トーコは立ち上がって、お茶とおやつを取るためにキッチンに移動した。

 トーコの借りている部屋はワンルームで、居間とキッチンは筒抜けの構造だった。

 我が家のようにちゃぶ台でくつろいでいるハルトは、キッチンに立つトーコに向かって話し続けた。

『イベント見たいだけなら、弱くてもいいから進めればいいのに』

『だって弱いディーノさんとか、見たくないんだよ~!』

 ヤカンに水を注ぎながらトーコは力説した。


『ディーノさんが攻撃してるのに一撃で死なない雑魚が許せないんだよっ!』

『レベル制限プレイとかすれば面白いのに』

『ギリギリの戦いより、”ふはは、このゴミクズ共がっ!”って笑いながら脳筋戦法で叩きつぶすやり方の方が好み』

『……うん、まぁ知ってるけど』

 レベル1でタイムアタックをするのが好みであるハルトは黙した。

 誰しも、好みのプレイスタイルはある。


 お茶を飲みながら、二人はとりとめのないことを話したり、ただ黙ってぼ~っとしたりして時を過ごしていた。

 恋人、というよりはどことなく友達という感覚も抜けきらないこの油断しきった関係が、トーコは好きだった。

『……あのさ』

 だが、今日のハルトはどこか落ち着かないようで、少しそわそわしていた。

『ん~?』

 一時停止していたBF6を再開しながら、トーコは生返事をした。

 おりしも操作プレイヤーのソル君が、お金持ちのお嬢様から唇を奪われるというシーンだった。


『あのさ、俺たち、もうそろそろつき合って2年じゃん?』

『ん~、そうだね~』

 ”だいすきなんですっ ゆうしゃさまっ”

 その言葉がモニターに映された。

『だからさ、俺たちそろそろ――』

 ”ぶちゅっ!”


『っぎゃ~!ぶちゅっ!だって!ぶちゅって効果音、すごいよね?!』

 このイベントを見る度にハルトに言っていることを、今回もまたトーコは叫んだ。

『”ぶ”で、”ちゅっ!”だよ?!なんか相当、密着度が高そうなキスだよね?!』

『――……ウン、ソウだね……』

 ハルトは項垂れた。

 そして、やはり環境が悪いのだと判断した。


『あのさ、トーコ』

『ん~?』

 再びの生返事にもめげずにハルトはトーコをデートに誘った。

『あのさ、今度うまい飯食いに行かない?イタリアンとかさ』

 イタリアン、と聞いてトーコは吹き出した。

『イタリアンっ!ハルト君がイタリアンとか、似合いすぎてウケるっ!』

 律儀にコントローラーを置き、一時停止にしてトーコは頷いた。

『い、いいよ?イタリアン……イタリアン……ぶふっ』

 ツボにはまったらしく、笑い転げるトーコを複雑な顔で見ながら、それでもハルトは幸せそうに笑った。


 二人がその店に出かける日は、来なかったけれど。




「……う~……イタリアン……ウケる……」

 寝ぼけるラビーを、ルーナは優しく揺り動かした。

「ラビーちゃん、もう朝だよ?起きて?」

 北欧美女に優しく揺り起こされて、ラビーはへらへら笑った。

「う~、なんて至福の朝でござる~」

 ルーナは首を傾げつつ同意した。

「?うん、すごく天気のいい朝だよ?ね、ラビーちゃん、ご飯食べよう?」

 ラビーはにやけながら”ヒロイン”の側にいる幸運に感謝した。




 一方の男部屋では。

「……センセイがおかしい」

 汗をシャワーで流したジャンは、まだ濡れた髪を光らせながら厳かに言った。

 ちなみに今日の朝練は既に終了している。

 心なしかソルがぐったりしている。


「……そうだな」

 ディーノが同意したので、若者達は驚愕の眼差しでディーノを見つめた。

 まさかあのおやつしか考えていなさそうなディーノさんが同意するなんて……!という眼差しを華麗にスルーして、ディーノは呟いた。


「……似ているな」

 恐る恐る、ジャンが尋ねた。

「似てるって……えぇと、誰に?」

 これでデザートの名前を出されたらどうしよう、と密かに思っていたジャンは、ディーノの返事を聞いて瞬時に真顔に戻った。

「少し前までのルーナと、ソルにだ」

 

 ジャンが、両者の共通点に思い至るのは早かった。

 もちろん、どこかで彼自身がそう思っていたからこその着想ではあった。

「……なんかを、覚悟してるっすよね……」

「そうだな」

 頷く侍とシーフに、ソルは微妙な顔をした。


「そうかな?」

 いつも通り、ルーナにまとわりついてソルとの仲を邪魔しようとする小癪なウサギに、ソルの視線は冷たかった。

「そうだよ。ソルはセンセイに冷たいから気づかないんだって」

「……甘い物が嫌いなお前には、分からん」

 

 若者達は、見つめ合った。

 心は一つだった。

((それって関係ないよな?!(じゃん?!))

と。



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