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ローライトの愛


 ルーナと私は友情を確かめ合った後、その部屋を出ることにした。

 目的地は、中心部にある立派な大樹。

 そうなんだよ。

 お察しの通り、そこはいわゆる玉座の間で、そこに魔物になったローライトが待ってるんだ。

 大好きで愛するルーナ――エーリエルを妻にするために。

 でもね、もう、ローライトは人ではなくなっている。

 だからなんていうかその……アレだよ。

 天国で一緒になろうねって感じの、アレにね、結論づけちゃうんだよ……。


 私はそっとソル君を振り向いた。

 女性である私にすらメラメラ嫉妬しちゃうチョーローで粘着質なソル君がローライトと対面。

 ……ゲームでは。

 ゲームではさ、そりゃもうルーナの慟哭が可哀想で痛々しくて泣けたもんだった。

 あのイベントでの主役は、間違いなくルーナだった。


『どうして……!!どうしてこんなことに……!!』

 そう言ってカクカクのキャラ顔があっさりした泣き顔に歪んでいた。

 私の脳内ではものすごい量の情報が補完され、真珠のような涙をポロポロ流し、跪いて嘆く美しいルーナの映像が映っていた。

 んが。

 ここにはゲームでは空気だったソル・ザ・チョーローがいる。

 ……ルーナが嘆く暇もないほど一瞬でローライト(ボス)を殺しちゃったら、どうしよう……。




 中心部に繋がる通路は、そこだけキラキラ輝く青い石でできていた。

 それまでの通路は透明な青い石だったんだけど、ここのはなんか、サファイアとかそんな貴石で出来てるんじゃないかというほど眩しく煌めいていた。

 その通路を渡って大樹に向かう。

 それまでは時々現われて瞬殺されていたモンスターも、不気味なほど出てこない。

 ……いや、うん分かってるよ。

 玉座の大樹、なんかもわわわ~んと不気味なオーラが漂ってるもん。


「センセイ、これから先の戦闘って、なんか助言ってある?」

 もう少しで大樹、という所でジャンがそう言った。

「あ~……基本的には今までと同じなんでござるが、ベールやプロテクトはかけても意味ないでござるからアクセルのみでござるね。弱点は特になくて、でも氷は吸収するでござるから氷以外の属性で倒すでござるよ」

 なんとジャンは速度上昇のアクセルを、上位魔法のアクセラーに進化させていた。

 これで一回唱えたら全員にアクセルできるのだ。

 全体化って素晴らしい。


「ラビーちゃん……」

 ルーナが不安そうな顔で私を振り返った。

 あうぅ~……こういう時、なんて言えばいいのか……。

 大丈夫だよ、なんて言えない。

 いくらソル君が瞬殺しようとしても、きっとルーナは泣くだろう。

 ずっと心の支えにしていた、家族みたいに大事にしていた人が魔物になって、『いっしょに しのう』なんて言って襲いかかってくるんだから。


 ローライトを止めないと、いけない。

 でも、そういう決断をさせた自分をこそ、優しいルーナは責めるんじゃないかなぁ……。

「ラビー、何も言わなくていい。ルーナ、君は私が守るから」

 ちょっとウルウルした目で見ていると、ソル君がそう言ってフォローしてくれた。

 ……うん。

 チョーローだけど、ソル君のそういう所は信頼してる。

 ホント、ルーナの体だけじゃなくて心も守ってあげて欲しい。

 絶対よろしく!




 玉座の大樹に入ると、そこは天井のものすごく高いホールみたいになっていた。

 50メートル……は言い過ぎだけど、20メートルぐらい奥に玉座らしき重厚な椅子がある。

 誰も座っていない……ように見える。

 フラ、とルーナが歩を進めた。


「――お兄様!ローライトお兄様!そこにいるのでしょう?どうして……どうしてこんなこと……」

 空しく響くかと思われた、ルーナの叫び。

 痛々しく反響する声を飲み込むように、ソイツは嗤った。

『エーリエル』

 嗤いながら、ドロッと果実が熟して腐り落ちたような甘い声で、ソイツはルーナの名前を呼んだ。

 闇が凝るように玉座を覆い、魔物の姿を取った。

『待っていたよ、エリィ』

 ルーナと同じ白銀の髪を持つケダモノが、そううっそりと嗤った。




 ローライトだったソレは、白銀の髪を持つバイコーンだった。

 ユニコーンの角が2本になったもので、たてがみは白銀なのに体毛は漆黒。

 その2本角も真っ黒だ。

 そして……目が。

 濃すぎて黒にしか見えない緑色の目が、淀んでいる。

 どす黒く淀んだ、狂気を湛えた目だった。


「……お兄様……?」

 ルーナが、きつく両手を握りしめて掠れた声で呼びかけた。

『愛しい私のエリィ。戻ってくるのを、待っていたよ』

 声までも、狂気が渦巻いたようにねっとりと暗い。

 甘くて暗くて、苦くて重い声だ。

「どうして!どうして皆にあんなことを?!どうして皆が、殺されなければならなかったのです?!」

『罪は、罪。実行した罪。無知ゆえの罪。支持した罪。罪は重い。贖われなければ』

 謳うようにバイコーンは声を響かせた。

 心なしか胸を張るその仕草は、月の民全員(・・)を殺戮した功績を、誇ってでもいるかのようだった。


「無知は罪ではありません!少なくとも、殺されるような罪では……!!」

 小さい子供まで殺されている。

 ルーナは、そのことを知っていた。

『エーリエル、私の花嫁』

 ローライトに、ルーナの嘆きは届かない。

 ……とっくに、心まで魔物になってるんだ、と思う。

永久(とわ)の絆を、ここに。さぁ、共に逝こう』

 ルーナを見ているようで全く見ていないローライトに、ソル君がついに……というか、ようやくキレた。

 恐らくはソル君なりに遠慮していたのかもしれない。

 ……違うかもしれない。

 怒りが突き抜けすぎて言葉も出なかった、のかも。


「黙りなさい、殺人狂が」

 言葉をさ、吐き捨てるって表現があるじゃん。

 まさにそんな感じで、口にした言葉をローライトに向かって投げ捨てたような語調だった。

「ルーナを泣かせた罪は、さて、どう贖ってもらいましょうか……」

 もう、()るって結論しかなさそうだよね、ソル君。

「ま、それ以前に、自分の罪を贖うべきだよなぁ」

 なんだろう、ジャンがものすごく真っ当なことを言ってる気がするけど?

「……もう、楽にしてやろう」

 ディーノさん?

 嫁を守りたい気持ちは分かるけど、ソル君と並ぶ殺気を出すのはやめよう?!


『エリィ、さぁこっちにおいで』

 男達のコメントまるっと無視して、ローライトがルーナを呼んだ。

 ……でも、あんな薄暗い声で呼ばれても絶対に誰も行かないと思う。

「――……行きません」

 ルーナは、ついに涙に濡れた顔を上げた。

「行きません。ここで、あなたを、止めます」

 すーっと、ルーナの頬を新しい涙が伝った。

 でも、ルーナはもう嘆いていない。

 強い決意を宿してローライトと対峙していた。

『エリィ……エリィ、エーリエル!エーリエル!!』

 耳が割れるほどの声で叫びながら、ローライトの目がカッと燃え立った。

『ミトメナイ、ユルサナイ!!ツミヲ、アガナエ!!!』

 絶叫と共に、ローライトが襲いかかってきた。




 このローライト戦は、ゲームでは普通の戦闘音楽が流れない。

 ピーポーパーではあるけれど、どこかレクイエムのような静かな曲が流れる中を戦わないといけない。

 ルーナがね。

 泣いてるんだよ。

 ずっと泣きながら、強い目で戦ってる。


 アレは、きっとルーナがローライトに捧げる鎮魂歌だったんだろうな。

 戦いながら、鎮魂の思いを込めていた。

 相手をやっつけたい、倒したいっていうんじゃなくて、止めたい。

 苦しみを止めたくて、ルーナは戦ってる。

 だから、鎮魂歌なんだろうね……。

 どうして、こんなこと。

 ルーナを愛してるんなら、そんなことさせないでよ。

 私に、そんなことを言う権利はないのかもしれないけどさ。

 でも、ローライトの愛は、ちょっとひどい。

 改めて、そう思った。





読んでくださってありがとうございます!!


……瞬殺させるかどうか、ちょっと悩みました~。

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