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無人の月


 私の、BF6への愛は深い。


 だから、これまで『ゲームより美しい』と思ったことはそんなになかった気がする。

 カクカクのドット絵の世界でも、私の想像力の中ではものすごい美しい世界だったし、実際に暮らしてみてもなんかこう……『ゲームより』って思うことは少なかったように思う。

 もちろん、ゲームと違うって考えたことは多かったけどね。

 そりゃまぁ現実に生きてる人間がいるわけだし。


 でも。

 これだけは認めようではないか。

 

 月の世界は、ゲームよりもずっと美しい、と!!




 ルーナがポッド君を操縦……というか指示を出してポッド君が勝手に連れてきてくれた月の世界は、滑らかな白い大樹で覆われていた。

 真っ白い中にも樹肌がうっすら模様を浮かび上がらせていて、真っ白なのにうっすら模様の透け出る綾織りの世界だった。

 樹肌だけではなくて生い茂る葉まで真っ白だ。

 枯れてるわけではないのは、その艶々した瑞々しい存在感からも明らかだった。


 その真っ白な大樹同士を、青く透明な石でできた人工的な道が随所を繋いでいる。

 中央に最も大きな大樹があり、その周りを様々な大きさの大樹が取り囲んでいる。

 そしてそれらを繋ぐ、青い透明な通路。

 ドーム状じゃなくて、腰までの手すりがある通路だ。


 大樹の中には洞があり、その中を部屋として利用している。

 洞の中を仕切るのは青い石で、ルーナの記憶にあった青はこれだと思う。

 青い柱、青い家具。

 仕切りの壁だけは曇り加工でもされているのか青白く濁っている。


 青と、白の世界。

 まるで死人の世界、そう思うのは理由があった。

 人影がないからだ。




「誰も、いない……?」


 不審げに呟いたソル君の言葉は、みんなの心を代弁していた。


「そんなはず……」


 そう言いながら歩き始めるルーナ。

 私達が立っているのは、脱出ポッドの発着場である。

 最も大きい大樹がずっと向こうにそびえ立つのが見える程度には遠い。

 ここから青く透明な通路はほとんど一本しか通じていない。

 それが一直線に向かっているのが、最大の大樹から3本手前にある、背の高い樹木だ。

 そこから通路を使えば、最大の大樹に向かえるんだろうと思える。


 そしてそのどこにも、人影は見当たらない。


「な、センセイ。……知ってる?」


 こそっとジャンに耳打ちされた。

 ……”知って”る。

 月の現状も、これからルーナが何を見るのか、勇者達が”何”と戦わなきゃいけないのかってことも。

 私は目を伏せた。

 時々、自分がとんでもない卑怯者になってる気がする。

 みんなが初めて出会い、苦悩の果てに掴んだ答えを私は初めから知ってる。

 苦しませるぐらいなら、初めから全部答えを示した方が、もしかしたらずっと親切なんじゃないか、とも。


 私はギュッと両手を握りしめた。


「――知らない。で、ござる」


 卑怯だろうがなんだろうが、私はここまでそういう方法で勇者達とつき合ってきた。

 たぶん、半端な覚悟でこれまでの路線を変えることが、一番しちゃいけないことなんだと思う。

 教えるなら初めから全部。

 教えないできたのなら、どんなにしんどくても最後まで貫くべきだ。

 私が決めた、その瞬間まで。


「――悪ぃ」


 謝ってくるジャンがなんだかおかしい。

 ジャンが謝る必要は、どこにもないんだから。


「大丈夫。ちゃんと、幸せにする、でござる」


 どんなに後ろめたく思ってたとしても、みんなを幸せにしたいっていう私の決意は本物だから。




 割合攻撃をかましてくるモンスター相手に、だが勇者達は余裕で躱して先に進んでいた。

 ルーナは回復魔法が最上位の全体化まで使えるようにもなっていた。

 ソル君も、水以外は最上位の魔法を使えるようになってる。

 たぶん水ももうすぐだ。


 誰もいない。

 だ~れもいない、月の世界をルーナは進んでいく。

 不安そうに揺れる目を、意志の力で抑えながら進んでいく。

 その先に、私は希望を与えてあげられない。

 大丈夫だよって、言ってあげられない。

 だから目を、合わせられない。


「これは……」


 発着場からたどり着いた、背の高い大樹の洞で、ルーナは手紙を見つけた。

 手紙というより、手記を。


 手記には、乱れた筆致でルーナ追放の下りが書いてあった。

 そこから滲む、怒りや憎しみ。

 ゲームでは見られなかった乱れてうねるような筆致は、私達に強く訴えていた。


 瞋恚や、憎悪を。


「……ローライト、お兄様……」


 ルーナが震える声で吐き出した。

 手記にはルーナへの狂おしいまでの思いさえ書き綴られていた。

 そしてそれを奪われた男の、決意も。


「……なんてこと……!」


 月の民の言葉はテラの民の言葉とは書き方においてやや異なる。

 アルファベットが違う感じ。

 だから読み取れないソル君は焦った顔をしていた。


「どうしたんだ、ルーナ?何が書いてあったんだ……!?」


 ルーナは力なく首を振った。


「お兄様は……お兄様は、月に淀んで溜まった魔を取り込みました。自ら魔物になって、月の民に復讐を企んだのです……!」


 ローライトは、ここ()でのボスなんだ……。




読んでくださってありがとうございます!!

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