祝福のベール
私以外の封印モンスターが倒される、そのことに対してたぶんすっかり物語の終盤にいる気分だったんだけど、ディーノさんのご乱心を見て目が覚めた。
私がしっかりしてないと、まだまだこの勇者パーティ、余裕で危ないよ?!
ということに。
うんうん、私がしっかりしなきゃね!
まだ月にも行ってないし。
月のモンスターは、Hpに対する割合ダメージを放ってくる敵が多いから、いくらレベルが高くてもけっこう嫌な相手なんだよね。
しかもそこのボスは、防具の防御力を無視した攻撃をしてくるので、素の防御力を上げてないとキツい敵なのだ。
まぁステータス上げはばっちりしてるから、大丈夫だとは思うんだけど。
無事にアーリマン様を倒し、ドロップされた封印の鍵も回収、ムーンピアスは既にディーノさんが装着済みという完璧な布陣でも油断を怠らない私がすごい。
うんうん、さすが保護者だよねっ。
「で、これからどうする?最後の封印モンスターを倒しに行くのか?」
……ディーノさんが言うと、なんかこう、重みが違うよね。
「いやいや、その前にシューロスに寄って、それからカティアに向かうでござるよ。最後の封印モンスターは、後回しで構わないでござる。……最弱でござるからな」
「……弱いのか……」
ディーノさんお願い、そんな切なそうに言わないで。
強いなんて嘘、ラビーつけない。
「楽勝のがいいじゃないっすか、ディーノさん」
ジャンのコメントがしんみりしてるのは、アレだと思う。
たぶん、強敵という名の師匠戦がそうとう堪えたんだと思う。
今までディーノさんは、混乱の状態異常には幸か不幸かかかってなかったのだ。
というのも、そこまで状態異常をかけてくる敵相手にのんびり戦ってなかったということもある。
だって私がいるからね。
状態異常の厄介な雑魚敵は瞬殺指令を後ろから出していたのだ。
無難な敵だけ、ステータス上げの肥やしにしている。
で、ディーノさんはこれまで、暗闇にかかっても気配で探知して当てていた。
沈黙?
ディーノさんはなんなら一日沈黙状態でも支障はないタイプの人だ。
毒はルーナやアクセサリがあったし。
石化も、じわじわ石化してる間に瞬殺。
麻痺という概念はこのBF6にはないし。
ということで、これほどひどい状態異常の被害に遭うのは、実は勇者達は初めてだったのだ。
……どっちが最悪だったんだろう?
混乱するディーノさんとジャン。
私はジャンを見上げた。
「ん?なんだ?センセイ」
『殿中でござる!慈安殿をお止めせよ!!』
フラッと現われる浪人。剣をスパッと一閃。
『ガハァァッッ』
……合掌。
殿中でござった。
「……うむ」
止めるだけなら、ジャンはディーノさんが止めてくれそうだ。
ただし、無傷とはいかないかもしれない。
「強く生きるでござるよ」
正確には、ディーノさんに袈裟斬りにされても生き延びるぐらいに強く生きろ、だけど。
「センセイの憐憫が怖い?!!」
うむ。
頑張れ、ジャン。
さて、私達は敢えて雪の町シューロスを目指している。
なぜなら、月に行く前に唯一あいつとエンカウントできる場所だからだ。
「おい!お前ら!!」
彼は、シューロスの街の入り口に立っていた。
雪にまみれて、ちょっぴり雪だるまみたいだった。
あ、西洋型の方ね。雪が三段になってる方。
「お、無事だったのかよ、エラクレス」
そのお腹に巻いてるのは、もしやブラックベルトでは?!
黒光りする金属でできたベルトで、装備者の攻撃力を激増してくれるアクセサリだ。
防具みたいだけど、ゲームでの扱いはアクセサリなのだ!!
……う~ん、でもエラクレスの姿的に、あんまり格好良くないな……。
ベルトっていうより、三段腹って感じで。
「お前ら、ちゃんと俺のこと待ってるんだな!!」
エラクレスの言葉に、私達は顔を見合わせた。
そもそもゲームでは、このエラクレスエンカウントは二言くらいしか言葉を交わさないのだ。
『これでもくれてやる!がんばれよ』
みたいな。
待ってる?
「俺が強くなるの、待ってるんだろ?!だから、わざわざミバドゥから引き返してきたんだろ?……悪ぃな、もうちょっと鍛えなきゃならないんだ。これでもやるから、もうちょっとその辺で時間でも潰しといてくれよっ」
そう言ってやつが投げてきた物は……
ジャジャ~ン!!
祝福のベール~!!
ルーナの、”歩くとMp回復”という、すんばらしい効果を持つ防具なのだ!!
何気に魔法防御も高い。
「…………」
ソル君。
別にソレ、花嫁のベールじゃないから。
装備品だから、装備品。
「ちゃんと神殿にも話通しといたからな!お前らが、事情があってまだルヴナンと戦えないんだってこと。そのうち勇者新聞にも載るからよ!」
おおっ!?
実は、使える子?
感動してエラクレスを見ると、なぜかばっちり目が合った。
「――っだから……だから封印前夜は俺と種付けセッ――」
ドガアァァァッッッン!!
思いっきり右腕を振り抜いた、ジャン。
妙に清々しい顔でこちらを振り向いた。
「さ、行くか」
お、おう?
「ルーナも、さぁ行こうか」
「う、うん?」
あ、あのさ、あいつ、死んでない……?
あ、ピクピクって動いてる。
……むしろ痙攣してる?
「若さも時には毒だな」
おおう、ディーノさんが吐き捨てた。
「いや、別にラビウサと人間では――」
人間と亜人の違いを改めて説明しようとしたのだが。
「センセイ」
妙に重々しくジャンに声を掛けられて私はピョンッと耳を跳ねさせた。
なんだ……殺気じゃないのになんか反論できない空気感をかもし出している……?!
こうして私は、気づくとジャンの威圧に負けていた。
初めてジャンに敗北したと気づいたのは、だいぶ経ってからだった。
くそう、なんだこの敗北感はっ。
読んでくださってありがとうございます!!
エラクレスはこういう奴です。




