ご乱心
ちょっとしんみりしちゃったけれど。
でもさ、思うんだよ。
私は、あんなに何度もプレイして泣いて笑って愛したこのゲームを現実世界として過ごせて、なおかつ大好きだった人達の幸せに貢献できるんだ。
……私、すっごくラッキーじゃない?
まぁ、最後の退場がちょっとアレかもしれないけど、大好きで大好きで幸せになって欲しいルーナを、私の力で幸せに導くことができる。
ソル君との幸せな未来を、彼女にプレゼントしてあげることができる。
……うん、二回目の人(?)生、所詮はおまけの人生だ。
誰かのために、捧げたっていいじゃないか。
「さて、行くか」
お侍さんはティラミスが気に入ったようだった。
満足そうにそう言って立ち上がり、ゆったりと大剣を背中に担ぐ。
「美味かったぜ、センセイ」
シーフは音も無くしなやかに立ち上がった。
腰に忍刀を下げて、猫のような動きで前に進んでいった。
「甘すぎないのは、良いね」
勇者である精霊魔道士は、愛する女性の動作を見守りながら微笑んだ。
「美味しかったわ、ラビーちゃん」
月の巫女である白銀の美女は、痛みをこらえた強い瞳で笑った。
大好きだから、別れが惜しい。
大好きだから、彼らの幸せのためなら何でもできる。
「ルーナ、ソルにジャン、ディーノ殿」
私は、精一杯微笑んだ。
「――大好きでござるよ」
あ、でも深刻に受け取られて色々バレると困るから、ラビーらしくフォローは入れよう。
「今後もラビーのデザート、ご贔屓に!」
あるといいな、そんな未来。
年取って、みんなでお茶をするのだ。
きっとソル君とルーナは年取っても絶世の美人さん達だろうなぁ。
ジャンは……ちょい悪爺さんだろうな。
ディーノさんは古武士!って感じだろうし。
……あると、いいな。
洞窟の最奥、大広間に、アーリマン様は鎮座(?)していた。
ちょっと祭壇っぽい。
ご神体はプカプカ浮いてるアーリマン様。
なんか雰囲気だけはものすごく強そうなんだけど、しかもキマイラ様よりは強いんだけど、やっぱりサーペント様には敵わないアーリマン様。
勇者達を視認して、カッとその一つ目が赤く光った。
「ひ、ヒィィィィ」
こ、怖いぃぃぃ。
ゲームで見るより断然迫力が違うぅぅぅ。
「うっ」
ディーノさんがよろめいた?!!
「ディーノさん?!」
よろめいたお侍さんは、すっと抜剣した。
構えた切っ先は……勇者達。
「「「ディーノさんが混乱した?!!」」」
あまりの事態に、思わず私までディーノさんって呼んじゃったよ。
「ジャン、殴るでござるよっ」
殴って正気に戻すのが鉄則。
そりゃまぁルーナのリカバーで状態異常を回復できればそれが一番いいんだけど、いかんせんちょっと遅い。
それよりは、動きの素早いジャンが殴って正気に戻した方が手っ取り早いのだ。
スイッ
ジャンの拳を、流れるような足さばきでディーノさんが躱した!!
心頭滅却夢幻流とかそんな感じの武道を思わせる動き。
さすがはお侍さん!!
シュッッ
カウンターでディーノさんの大剣が僅かな音を伴って、ジャンに振り下ろされた~!!
『いやぁ、注目の師弟対決、解説は高橋さんです』
『どうも、高橋です』
『さて高橋さん、この試合、どう分析されます?』
『試合というより殺し合いですね。殺気に勝る方が有利でしょう』
『じゃあジャン選手は不利ということになりますね~』
シャラップ!!
私の頭の中の実況中継、シャラップ!!
「くっ、ディーノさん戻ってくださいって!!」
分が悪いと飛び退いたジャン。
『殿中でござる!!泥野殿、殿中でござるぞ!!』
『…………』
『慈安殿、何をしておるのじゃ、泥野殿をお止めせよ!!』
『泥野殿、泥野殿!!』
シャラップ!!
お願いだから集中させて!!
「ルーナ、リカバーでござるよっ」
殺気に満ちてる癖に目は半眼のディーノさんが恐ろし怖い。
ルーナは既に詠唱を始めていて、叫んだ私に頷き返してくれた。
ルーナ、なんてデキる子!!
「浄化せよ、リカバー!」
気合いを入れて叫んだルーナの魔法が、ディーノさんを包み込んだ。
その時点でジャンとは何合も打ち合っていた……。
が、大丈夫、どっちも生きていた!
「……ん」
光に包まれた後のディーノさんは、一瞬だけちょっと首を傾げたけど、そのままアーリマンに向かって剣を振り始めた。
あたかも今までずっとアーリマンと戦ってました風だ。
「よくやってくれたね、ルーナ」
ホッとしたように言って、ソル君が改めてアーリマンに向かい合った。
ソル君はジャンがディーノさんを止めている間、一人でアーリマンを食い止めていたのだ。
「師匠……マジパネェ……」
呻いたシーフは、師弟対決のストレスを晴らすかのようにアーリマンに八つ当たり始めた。
……合掌。
怒り狂っていてもちゃんと盗んでいたムーンピアス、次の装備者はディーノさんにしようと思う。
読んでくださってありがとうございます!!
心頭滅却夢幻流、もしあったらゴメンナサイ。




