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手がかり


 ロランさんはちょっとよれっとした木綿のシャツを着ていて、全然賢者らしくない普通のおじさんだった。


 私達を客間に通してから、何やらガチャガチャとキッチンの方でやっている。

 私が覗きに行ったのは、他意はない。

 おやつ……と寂しそうに言ったディーノさんを見てられなくて、せめてお茶請けに何か用意しようと言いに行っただけなのだ。


「……あ~、アメリーは何で湯を沸かしていたんだったか……あぁ、これかな?」


 そして取り出した、大鍋。


「火は……うむ。私にはこれがあるじゃないか」


 背中だけだけど、絶対にロランさんはイイ笑顔を浮かべていたに違いない。

 すっと取り出した短杖で、鍋に向かって呪文を……唱えた~!!!


 グワッシャッ、ボコボコボコッッッ


 お湯が激しい勢いで煮えたぎる音が聞こえた。


「ふむ、湯は沸いたな。……さて、ポットはどこだったか……」


 私は止めた。

 煮えたぎる大鍋の中に直接お茶っ葉を直接放り込もうとするロランさんを止めた。

 人類のためだったと信じている。


 ……あの人、間違いなくディーノさんと同類だわ。

 ディーノさんはもっと違う方に突き抜けてるけど、同じ血の臭いがするよ……。

 もし聖騎士ブリュノまでこんな感じでぶっ飛んだ面子だったとしたら、旅の苦労が思いやられる。

 聖女アンヌさん、お疲れ様でした!

 本当に、お疲れ様でした……!!




 私達がお茶を飲んで一息つくと、ディーノさんが口を開いた。

 何となくだけど、お茶菓子のチーズケーキ(柔らかめ、小サイズ)を食べてから機嫌が良さそうに見える。


「で、文献は見つかったのか?」


 ロランさんはちょっと情けなさそうに眉を下げた。

 こんな、いかにも人畜無害そうな外見をしたおじちゃまがあんな凶行に及ぼうとするなんて、誰が想像できただろう。


「いや、やはり月にあるとしか思えないのだよ。テラに下りた彼らの足跡は、やはり100年ほど前に途切れてしまっていた。とても記憶の継承がなされるような状況ではないと、推察するのだよ」


 もどかしそうな顔をしながらも、会話の邪魔になるまいと口を噤んだソル君に対し、ジャンは遠慮なく口を突っ込んでいった。


「月?彼ら?どういうことです?できれば最初っから説明してもらいたいんすけど」


 ジャンなりに丁寧な言葉で語りかけているのは、ジャンにとっても伝説の人物だからだろう。

 何せ、賢者だ。

 生活能力皆無でも、賢者なのだから!


「話していなかったのか、ディーノ?」


 ディーノさんはちょっと苦笑した。


「変な期待を持たせるのは酷だからな」

「だが、それは今でも同じではないかね?」

「あてができた」

「ふむ……」


 ロランさんはそう言って、無精髭を右手で撫で回した。

 その後、あれっという顔をしている。

 たぶん、掌の感触から、思っていた以上に髭が生えていたことに驚いたのだろう。

 気を取り直したように彼は両手を膝に軽く置いて、話し始めた。




「古の文献を、私は調べていたのだ。アンヌの息子を殺すわけにはいかないからね。永い、永い時間ずっと文献と向き合ってきたのだが、昨年、ようやくこれはというものを見つけたのだよ」


 ルーナが息を飲むのが分かった。


「古の時代、(ルナ)から下りてきたという一族がいたらしいのだ。彼らは浄化の力に長け、テラの民と交わりながらひっそりと生き続けていたらしい。だが100年前に、最後の直系が、何か大きな災いを、禁じられた方法で祓ったらしい。その直系が使っていた物が、”月の剣”だそうだ。その技と共に、剣は砕け散ったとか。その直系は、もう一つの”月の剣”が月にあることを示唆していたようだ」


 黙り込んだ私達を見て、ロランさんは困ったように笑った。


「そういう顔は父親そっくりだね、勇者殿」


 父という言葉を聞いて、ソル君はパッと顔を上げた。


「父を、ご存じなのですか」


 ソル君は、父親のことを知らない。

 恐らく神殿も、ソル君の父親のことは把握していないだろう。

 ただ、ディーノさんとロランさんだけは知っている。

 あと、都合により私も。


「――言っていなかったのかね、ディーノ」

「聞かれなかったからな」


 ペロッと白状するディーノさんを、ソル君は恨みがましげにちらっと見て、それからロランさんと向き直った。


「私は”罪の子”です。神官だった母が、純潔を守らねばならなかった母が身ごもった罪の結晶です。だから……父親のことは聞けずにいました」


 ジャンとルーナの、非難を込めた視線がディーノさんに刺さるが、本人はしれっとしている。


「……聖騎士ブリュノ。君の父親だ。アンヌは、君に未来を残したくて旅立ったのだよ。けして、君をルヴナン封印の生け贄にしようと願ったわけではないのだ」


 ソル君は、教えられた名前を噛みしめるように、呟いた。


「聖騎士、ブリュノ……」

「君と彼はよく似ている。髪は父親譲りだね。目の色はアンヌだ。君の性格はよく知らないが、アンヌは芯が強い女性だった。ブリュノは天才だったよ。……二人とも、素晴らしい人物だった」


「アンヌは意外にちゃっかりしていたが?ブリュノはアンヌに関してはかなり心が狭かったぞ?」


 ほほう。

 ものすごくハイブリッドな感じだね。

 お父さんよりの。


「ディーノ、アンヌに関して大人げなかったのは君も同じだったろうに」


 ふぅぅ~ん?

 片想いのディーノさんと、両想いで子供まで作ったブリュノさん。

 ほほぉぉ~。


「ロラン、お前だってアンヌに頼られて満更でもなさそうだったが?」


 おぉぉぉ、もしやこれは噂に聞く逆ハーでは?!

 よくよく見ればロランさんも地味だけど、顔立ちは整ってる感じだもんね。


「あ~、それで?俺たちに”月の剣”があれば、ルヴナンを封印することなく倒せるってことでいいっすかね?”月の剣”があればソルは死なずにすむってことで?」


 若かりし前勇者達の思い出話をばっさりぶった切って、ジャンがさっくりまとめた。


「そういうことにはなるが、問題は月に行く術なのだよ」


 そして何事もなかったかのように話についてくるロランさん。

 むむっ、ただ者ではないと今初めて思ったよ!




読んでくださってありがとうございます!!


ロランさんは独身で、お昼の間だけお手伝いの女性がやって来てご飯やら掃除やら洗濯やらしてくれます。アンヌを想って独身っていうより、家庭が向いてない感じの人(笑)

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