ルーナの決意
荒いドット絵で描かれた二人の男女が、くっつき合う。
固い抱擁を交わしているのだと、ファンの心には明確に映る動きだ。
聖域の手前、白い壁に映る、金と銀の男女。
『……しなないで……』
ルーナの言葉にソル君は、
『…………』
と沈黙しか返せない。
そして!
ファンの心には分かるのだ!
沈黙の代わりにギュッと抱きしめる腕に、さらに力が籠もったことを。
燃え上がる夕日。
二人の穏やかなデートを彩った、温かい夕日とは違う、どこか禍々しく濃い夕日。
ファンには分かるのだよ、同じオレンジと赤の色合いでも違うことが!
ルーナ~ッ!
ルーナは今、決意してしまったんだ。
どんなことをしてでも、恋する人を死なせはしないって。
それは、記憶を完全に取り戻していない彼女が、それでも無意識下で覚えていた情報によるものかもしれない。
”何かを”犠牲にすれば、ソル君を助けられるという確信が、ルーナには芽生えているのかもしれなかった。
だからルーナは、思いを告げることを諦めた。
そもそも告げられる資格がないと思っていた彼女だけれど、ルーナは今日、ようやく覚悟を決めたんだ。
愛する人と、幸せになれない未来を、受け入れると。
これまでは、ルーナの猶予期間だった。
思いは告げない、でも側にいることに幸せを感じる。
そのことを自分に許してきた。
きっと隠している本心では、自分の思いを受け入れて欲しいと思ってたんじゃないかな。
それは恋する人間なら、ごく普通のことではあるのだけれど。
でもルーナは、今、自分の未来を諦めた。
諦めて、恋する人のために捧げようと決めた。
ルーナ~ッ!
私は、記憶に残る名シーンを思い出してドードーと涙を流した。
「セ、センセイ、今度はどした?!」
いきなり体育座りになってボタボタ泣き始めた私を、エロシーフ改めオカアサマがギョッとしたように覗き込んできた。
「じ、人生は無常でござるよぉ……っ」
「意味分かんねぇ?!」
「無常だな」
「ディーノさんも、適当に相槌うつのやめましょう?!」
私は涙で濡れた目をディーノさんに合わせて、お互いこっくりと頷いた。
「おいこら、今、何が通じたんだよ?!」
いや、私もよく分かんないけど。
「……今日はおやつ抜きだったな……」
遠い目で呟くディーノさん。
「「そっち?!」」
思わず異口同音になってしまった。
うぅむ、ディーノさんは相変わらず読めない……。
夕日の半分が海に顔を沈める頃、ようやくルーナとソル君は帰ってきた。
あぁぁ、ルーナの目が泣いた後で腫れぼったいぃぃ……。
ソル君は……こっちもお通夜に行ってたみたいに沈痛な顔だ。
……あのさぁソル君。
見てないけど、もしゲーム通りの行動してたなら、すでに思いは伝えないって原則から外れてるからね?
ルーナは分かってないかもしれないけど、アレって特別な人だって示しちゃってる行動だからね?
固く抱きしめ合うなんてさ。
言葉に出さなきゃオッケーってわけじゃないんだからね?!
「皆、揃ったな」
一人通常運転のディーノさんが、何事もなかったかのように頷いた。
「町に戻ったら、皆に会わせたい人間がいる。ついて来い」
ふむふむ、今からロランさんイベントですな。
……濃いな、今日。
トレジャーなプリンを倒す島で一夜を明かし、そこから今までアテ嬢を倒したり、死にかけたり、ショタジジイを倒したりでノンストップだった。
この後、夕食をロランさんと一緒に摂りながらの会談があるわけだ。
なんてゆうか……盛りだくさんだね。
「さ、行くぞ」
そりゃまぁしょうがないか。
ほっとくとこのままソル君生け贄コースだもんね。
ゲームですらそこはカバーできてたんだから、最低限そこは無事に通過することにしようか!
待っててくれた漁師のおじちゃんは無事に私達をミバドゥまで送り届けてくれた。
先導するディーノさんの後を小走りで追いかけつつ……小走りなのはコンパスの違いだ。
だって人間の子供サイズのラビウサだもん。
種族的に短足なのは仕方ないと思うのだ。
とにかく、小走りで追いかけつつたどり着いた先は、町外れの一軒家だった。
飾り気のない、漆喰作りの一軒家。
地味で若干薄汚れているのは、男の一人暮らしだから致し方ないとも言える。
「ここだ」
そう言ったディーノさんは、ゴンゴン!と結構な音量のノックをした。
「――そう、うるさくせずとも、聞こえるよ」
ややあって顔を覗かせた、無精髭の目立つ中年のロランさんはそう、苦笑した。
「気づかないことが多いだろう」
「集中してる時は、そうかもしれないがね。だが、この数日中に君達が来ることは分かっていたのだ。注意もするとは思わないかね」
穏やかにディーノさんとやり合いながら、
「さ、お入りなさい」
と私達を招き入れてくれた。
聖女アンヌ、聖騎士ブリュノ、賢者ロラン、聖剣士ディーノ。
20年前にルヴナンから世界を救った英雄達。
その生き残りが、ここにいた。




