幕間 アサシン ソル視点、ルーナ視点
吹き飛ばされるラビーを見て、ソルの顔は青ざめた。
密かに恋い慕っているルーナにラビーがまとわりつくのは正直鬱陶しいと思っていたが、どこか憎めないところがある。
それどころか命の恩人でさえある。
最弱だが。
ラビーは瓦礫と衝突した後、壊れた人形のようにタンタンッと床を跳ねて横たわった。
そのまま立ち上がらない。
「ラビーちゃんっ!!」
ルーナが走り寄っていくのを確認しながら、ソルは命の危険さえ感じてパッとジャンから距離を取った。
「おい、ジャン!」
底光りのする目をしたジャンが、恐ろしいまでの殺気を膨れあがらせて敵に向き直った。
(あ、これ死んだな)
ソルは手早く敵の冥福を祈った。
ジャンは、不思議な子供だった。
ラヴァティーから寄越されてきた子供は、他人より大人びたソルより、さらに大人びているように見えた。
幼い頃から何故か強さに固執し、孤児院の裏庭でこっそり鍛錬している所を何度も見かけた。
年頃になってソルに言い寄ってくる女性を、さり気なく誘導して自分に集め、ただ笑い合って周りを幸せな気分にさせてもいた。
ソルはそんなジャンが羨ましいと同時に密かに尊敬もしていた。
決して言わないが。
女性には優しい癖に、決まった女性と深い仲にはなろうとしない。
そんなジャンを、ソルは密かに心配もしていたのだ。
自分はいい。
自分に未来はないから、誰かと短い時間の関係を紡ごうとは思わない。
だが、ジャンには未来がある。
それなのにどうして誰の手も取らないのか。
(……まさかの変態だったとは……)
あのウサギのどこにそれほど執着しているのかは知らないが、ジャンにとってラビーは特別なようだった。
嫌われているようだが。
ソルは後ろに下がってジャンのサポートに徹しようと、杖を構えた。
次の瞬間、ヒュンッとジャンの姿が揺らめいてかき消える。
「――?!」
敵の下品な服装の女も、凄まじい威圧感を発するジャンに気圧されたようだったが、そのジャンがいきなり消えて視線を彷徨わせている。
その間も、油断なく鞭を構えている所は敵ながらさすがだったが。
「――ガハッッ?!」
突如、敵の胸元から忍刀が突き出た。
その剣を見てようやく、ジャンが敵の背後を取ったのだということが分かった。
剣はグルッとねじられ、女は口から血潮を吹いた。
そうしてジャンは剣を抜いた。
口と胸から血を流しながら女は倒れ、フっと淡く発光しながら消えていった。
「……死んだ……?」
敵のHpはまだ多かったはずだ。
一撃で倒せるはずもない、そう思うのに。
「……急所を突けばどれだけHpが残っていようが相手は死ぬ。そういうことだな」
ソルの隣に立ったディーノがそう言った。
「そんな……」
「とはいえ、急所は敵にも厚く守られているはずだ。その守りを破ったか。……うむ」
満足そうなディーノに、常識人を自認するソルは頭を抱えた。
そもそもこの師弟の訓練はおかしい。
基礎訓練からして非常識だ。
ソルは魔道士だからと手加減された訓練内容だったが、ソルはふざけるなと叫びそうになった。
(訓練・滞空っておかしすぎる。人は空を飛べないんだが?!)
あの重量感のあるディーノが滞空訓練をしながらジャンと剣戟を交わしているのを見た時、ソルは(あ、こいつらおかしいんだな)と悟ったものだ。
「……全く……」
ため息をつきつつラビーを振り返る。
ルーナの横顔が優しい白い光で照らされて、ソルのささくれた心が癒やされた。
そちらに足を踏み出した瞬間、すぐ側を突風が駆けていった。
ソルは再びため息をついた。
ルーナは青ざめてラビーに駆け寄った。
「ラビーちゃんっ、すぐ治すから!」
右肩が奇妙にねじれている。
恐らく、肩が外れていた。
ラビーは気を失っていて、うっすら白い毛が覆う可愛い顔は、端から見ても蒼白だった。
ルーナは回復魔法のケアレストを唱える。
ケアーの最上級魔法だ。
ついこの前覚えた魔法を、ラビーに注ぎ込む。
罪深いルーナの存在を、笑って肯定してくれる可愛い人。
時々、母のような眼差しでルーナを包み込むように抱きしめてくれる、大事な人。
ラビーの前ではソルでさえ、年相応の顔を見せている。
それを羨ましいと思うことはあるが、そんな顔を引き出せるラビーを何よりすごいと思う。
詠唱にはそれほどの時間を必要としなかった。
すぐに回復魔法特有の白い光がラビーを包み、ねじれた体がすっと元通りになる。
同時に真っ白な顔色も元の、うっすらピンクの健康的なものに戻っていった。
「……良かった……」
ルーナはすぐ近くで呟かれた声にビクッとなった。
振り向くと、ジャンが食い入るようにラビーを見つめ、だがすぐにホッとしたように眼差しを緩めるのを目にした。
「ジャンさん……」
ルーナが囁くと、ジャンはルーナを見ていつも通りの人なつこい顔で笑った。
「ありがとな、ルーナ」
ルーナは思わず笑い返した後、あっと叫んだ。
「敵は?!」
パッと立ち上がって振り向くと、何故か疲れた顔をしたソルがルーナに向かって歩いてくる所だった。
「――大丈夫、倒したから」
えっと思って敵がいた所を凝視すると、確かにドロップ品と思しき二つの影がそこにあるのみで、敵の姿はどこにもなかった。
「……すごい……あんなに強い人だったのに、こんなに短い時間で……ソルさんって強いですね!」
ルーナは”ソルが”倒したのだと思い込んだ。
「え?いや、そうじゃなくて――」
「そうそ、ソルは見かけによらず強いんだよな~。まぁ俺とディーノさんも手伝ったけどな」
ニヤッとジャンが笑い、ルーナは慌ててジャンとディーノに拍手を送る。
まずいものを食べたような微妙な顔をしたソルに、ルーナは見事に気づかなかった。
読んでくださってありがとうございます!!
ジャンもそうですが、ディーノさんもラビーの想像以上に強いんデス!!ただちょっとジャンが目立っちゃうだけなんデス!!




