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ラビーは成人


 慌てて最初の町(カティア)に、ルーナたんを抱えて駆け込む勇者達。

 私はプリンのまま、ルーナたんが地上に降りてきた機械に近づいた。

 半透明の、あまり飛行能力のなさそうな球体。

 半分以上、地にめり込んでいる。


 実はロケット並みの能力があることを私は知っている。

 ルーナたんが出た後、開いていた扉は閉じていた。

 おかげで綺麗な半透明の球体が卵みたいに見えた。

 周りを窺って、モンスターの気配がないことを確認すると、私はラビーになってその球体に木の葉や枝をかけて覆い隠した。

 後で必要になるからだ。

 まぁ、ゲーム中ではそんな小細工無しでも無事にここにあったが、私の気分の問題だ。

 これは絶対に無事でいてもらわないと困るので。


 さて、やることも終わった。

 次は町に入ろうと思う。

 ストーカー?

 だって憧れの英雄がそこにいるんだよ?

 そりゃストーカーにもなる!




 再びプリンに戻り、町の壁ギリギリまで近づいてから亜人化する。

 ささっとまだまだストックしている皮のワンピースを短くしてから身に纏う。

 町に入ったらもう少し体に合った服を買って着ることにしよう。

 あるかどうか、分からないけど。

 あるとしたら……子供服、かな……。


「お?珍しいな、ラビウサ族か?ここ20年ぐらい見てないけど、元気にしてたか?」

 町の入り口で門番をしているらしき壮年よりちょっとお爺ちゃんよりの男性が、そう言って私に声をかけてくれた。

 ……いたんだ、ラビウサ族!

 そりゃそうだよねぇ、なんてったってBFシリーズだもんねぇ。

 正直、この世界のラビウサ族に知り合いはいないけど、モンスターと間違われるよりは断然マシなので文句は言うまい。


「うむ、拙者には顔見知りの同族はおらぬが、まぁ元気にしておる」

 変に知り合いとか聞かれると困るので天涯孤独設定に決めた。

「お、そりゃ悪いこと聞いちまったなぁ。大災害前まではちょくちょく見かけたんだが」

「構わん。ところで町に入る手続きは入り用でござるか?」

「モンスターが入ってこないように見張るだけだからな。入っていいぞ」


 うん、確かにプレイしてる時も身分証明は求められなかったけど、それでいいのか?

 治安とか、大丈夫なんだろうか?


「かたじけない」

 重々しく目礼して門をくぐる。

 お爺ちゃん未満な男性の、笑いをこらえる口元は気にしない。

 だって私だって笑うと思う。

 女子ウケするぬいぐるみ的なキャラが侍言葉。

 そりゃ違和感半端ないけど、でもこれがBFのテンプレだからね!

 



 カティアの町はゲーム内では中程度の町だったが、実際に入ってみるとなかなか大きな町だった。

 大通りが一本ドーンとあって、両脇に賑やかな商店がいっぱい並んでいる。

 ゲーム内では買えなかったが、今なら売っている果物とか買えそうだ。

 ……BF6の果物?なにそれ萌える!是非とも食べねば。


「あらあら可愛いお嬢ちゃん、ポムの実はどうだい?今は旬だから安いよ!」

 明らかにお上りさんな様子がバレバレだったのか、商店が並んでいる一角に入った瞬間におばちゃんに声をかけられた。

 ポムの実、というのはリンゴに似ている。

 赤くて艶々していて美味しそうだ。

 ん?果実?

 もしかしてラビーでも使えるデザート作成のアビリティでなんか作れるかも。

 それを売ったらお金儲けとかできるんじゃなかろうか?


「うむ、一つ……いや、三つほど頂きたい」

 頷いてそう言うと、おばちゃんは

「可愛いのに変わった喋り方だねぇ。そういうの、最近のちっちゃい子の間では流行っているのかい?」

と言った。

 ちっちゃいですと?

「無礼でござる!これはラビウサ族伝統の喋り方でござる!」

 プンプン怒っているのに、なぜかおばちゃんは小さい子をあやすような声でこうのたまった。

「そうかい、悪かったねぇ。お詫びに一個余分に付けてあげようねぇ。全部で3ビル。どうだい?」

 ……私は実利を取った。大人だもん。そのくらいの自制心はあるのだ。

「……頂こう。3ビル。これで良いでござるか?」

「毎度あり!」


 おばちゃんの笑顔は暖かいが、なんとなくもの悲しくなった私は短いうさ耳をしおしお垂れさせながらポムの実を受け取った。

 いいんだ。

 これでアビリティの実験するんだもん。あ、でもその前に一個食べよう。


「お嬢ちゃん、こっちのレザンも旬だよっ!うまいよっ!」

 斜め向こうのおじちゃんが声をかけてきた。

「うむ。二つ頂こうではないか」

「お嬢ちゃん、このポワールもうまいよっ!安くしとくよっ」

「うむ、ではそれは三つ頂こう」

 ……人間って慣れだね。

 生温かい笑いをこらえる対応にもすぐに慣れた。

 一瞬、もうこの喋り方やめちゃおうかなぁと思ったけど、キャラをぶれさせてはいけないと思うのだ。


 買った果物をアイテムボックスに入れ、とりあえず宿屋を目指す。

 できれば勇者達と同じ宿屋がいいなぁと思っていたら、この町に宿屋は一軒だけだった。

 そういう意味では中規模な町なのかもしれない。




「おやいらっしゃい、お嬢ちゃん。一人かい?お父ちゃんかお母ちゃんは?」

 宿屋に来たら女将にそう聞かれた。

「っ無礼でござる!ラビーは成人でござる。立派なレディなのでござるぞ?」

 精一杯つるぺったんな胸を張って威嚇したが、女将さんの反応からするとあまり成功してはいない様子。

 くっ、ぬいぐるみが凄んだって効かないから?


「おやまぁそうかい?それならいいけど……泊まりかい?

 食事込みなら50ビル、泊まりだけなら40ビルだよ」

「……50ビルで頼むでござる……」

「あいよっ」

 なんだろう、この敗北感。


 ごめんね、これまでのラビウサ達。

 君達がこんな、愛玩物を見るような目に苦しんできたなんて知らなかったよ……。

 君達は立派なレディにジェントルマンだったのにね。

 癒やし要員として一家に一人欲しい~!なんて思ったりして、ホントごめん。

 私は再び、しおしおと耳を垂れさせた。




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