最後の聖域
大通りをぶらぶら歩き、色んなお店を笑いながら見て歩いていたルーナとソル君は、夕暮れ時、海岸に来ていた。
なんでミバドゥ初めましての彼らがそんなデートスポットを知っているかって?
仲間のシーフが教えたからだ。
なんでも、勇者新聞には記者が自分のお薦めを掲載する場所があって、食堂やら喫茶店やらデートスポットやらをご親切にも載せてくれるらしい。
で、実は全部入手していたジャンは、その辺の事情に詳しくなったらしい。
もちろん、酒場で情報収集もしていたらしいが。
……暇人か。
鮮やかな夕焼けが、ちょっと離れて座っている二人を優しく照らしていた。
恋人ではない、でもお互いに意識し合っているんだとその距離だけで分かる絶妙さだ。
夕日は湾の右手に大きくそびえる塔から顔を覗かせていた。
塔は、石造りとはちょっと言いがたい、けれど石としか形容できない不思議な材質でできているように見えた。
驚くほど白く滑らかで、例えるなら大理石のようなものでできているような感じ。
遠目だからかもしれないけれどどこにも継ぎ目はなくて、それ自体が巨大な一枚の大理石をくり抜いて作ったかのようだった。
私とジャンは、ルーナ達を静かに見守っていた。
時々、二人はお互いの方を見やって、穏やかに話し合っているように見える。
「……なんか……いいな、こういうの」
不意にジャンがそう言った。
振り向いてジャンの顔を見ると、ジャンはソル君達の方を、微笑ましそうに見ていた。
「センセイは知ってるかどうか分からないけどさ。
……ソルは、ずっと大切な存在を作らないようにしてきたんだ。
自分には先がないからって。
……でも、いいよな、こういうの」
自分の未来を諦めていた幼馴染みが、大好きな女性を見つけた。
ジャンはそれが喜ばしいらしい。
「そりゃ、この先に繋がるのが別れだってんなら切ないけどさ。
でも、センセイがどうにかしてくれんだろ?」
不意にジャンがこちらを見下ろしてニヤッと笑った。
「まぁそれがラビーの使命でござるからねぇ」
私は余裕で躱した。
「で、そのやり方が問題なんだけどさ。
そのやり方って、吐く気ねぇ?」
ジャンが見下ろしてくる視線に、何か鋭いものが混ざった気がした。
「や、やり方って……」
「ど~うもセンセイは大事なこと内緒にしてる気がするんだよなぁ。
ソルは命を賭けてルヴナンを封印しようとしている。
そのソルを守るやり方は……本当に、誰にとっても危険がないやり方なんだろうなぁ?」
な、なんだこの酔っ払いが絡んでくるようなタチの悪さは!
「あったり前でござろうが!
……いや、確かにものすごく強い敵を倒さなきゃならないでござるが……むむ。
そういう意味では危険でござるな……」
裏ボスのファントムは、正攻法でしか倒せない難敵だ。
Hpも多いし、一撃の威力も凄まじいし。
状態異常攻撃がないのが救いだが、そんなのあんまり救いに感じない程度には強い。
「まぁ、強い敵と戦えってだけならいいけどよ」
どことなく釈然としないような顔でジャンは呟いた。
「……センセイが店開いて俺が買いに行けるならなんでもいいか」
そう言ってジャンはへら、と笑った。
「そ、そうでござるな~確か1割引きでござるよな~」
「2割引きだって!」
……おかしい……何かをジャンは勘づいているような?
何に気づいているんだろうか?
あ!
あいつはバーサーカーだからもしかしてラビーの正体がプリンだということに気づいたんではなかろうか?!
ほら、勇者達ってモンスターほいほいじゃん。
だからモンスターを嗅ぎ分ける嗅覚も鋭いとかそういう感じの!
う、疑われている?!
私はそっとジャンから距離を取った。
「――なんだよセンセイ、その不審者から離れるみたいな感じ」
「いや、不審者でござるよな?」
不審者というか、……狩人?
「冷たっ!いい加減俺にも優しくしてくれよ~!」
「はいはい、ルーナに聞こえるでござるよ」
……ないな。
あれだけ私に餌付けされたのだ。
もし万が一私がモンスターと分かっても、平気でダンジョンまでおやつをねだりに来そうだ。
「さ、明日はいよいよ最後の聖域でござる。そろそろ帰るでござるよ」
そろそろルーナ達も宿に戻ろうとするだろうしね!
さて、今日はいよいよ水の聖域である!
ミバドゥの漁師さんにお願いして、沖合にある巨大な塔に船を寄せてもらう。
遠目からは白い大理石に見えた塔だが、近づいてみるとまるで貝殻の中側でできたみたいな塔だった。
近いとどこまで高いのか、ちょっと分からなくなる。
とは言っても私は30階だと知ってるけどね!
「それじゃ、勇者様方、試練を気張ってくだせぇ!」
そう頭を下げて漁師のおじさんは去って行った。
船着き場からもうすでに材質は貝殻の内側だ。
さ、さすが自分大好きオケアノス様。
美少年な彼はソル君が大のお気に入りで、戦闘前にソル君のMpだけ回復してくれたりする。
ルーナのはしてくれないのに!
戦闘の中盤まではソル君に攻撃してこないほどのお気に入りっぷりなのだ。
そういうちょっと癖のあるショタ様だけあって、船付き場からすでに麗しい感じの耽美な美学に埋め尽くされていた。
いや、ゲームの時は気づかなかったけど!
でもそこかしこを埋めるレリーフのことごとくが半裸の美少年というのは、もうどうしていいか判断に迷う。
そしてこの場に最もそぐわないであろう侍は簡潔に言った。
「最後の聖域だ。……行くぞ」
――デスね。




