内緒と嘘
お一方に評価していただきました!
ありがとうございました!!
沈黙が多い中、帰ってきたラヴァティーの街。
私達は疲れを取るために、夕方まで部屋で休憩することにした。
その宿屋の一室で、私とルーナは向き合っていた。
もちろん私たちの仲は清いものだからそういう雰囲気ではない。
ベッドに腰掛けたルーナが、隣に座っている私の両手をそっと取った。
少しひんやりとした滑らかな両手が、私の手を優しく握る。
……いやいや、だから妖しい関係じゃないったら!
「ラビーちゃんお願い、ソルさんには内緒にしてて」
ルーナの言動も大概、紛らわしいな?!
分かってるよ、天然だって!
「え、え~と、何をでござるか?」
北欧系プラチナブロンド美女・ベッドの上・隣同士・両手握り合い。
このコンボにどう対応しろと。
「……私が、記憶を取り戻したってことを」
キリッとした顔でルーナが私に告げた。
「――えっ?」
私の驚愕の声に、ルーナも釣られて声を上げた。
「えっ?」
あの粘着系勇者のソル君(頭脳・肉体労働兼務)が、ソル・ザ・チョーローが、愛してやまない女性の変化に気づかないとでも?
恐らくどんなに巧みな演技でも騙せないと思うけど、明らかに雰囲気の違う、喋り言葉ですら変わってしまったルーナの変化に気づかないわけがない。
「えっ?もしかしてもう、気づいて――?!」
美女の涙目・上目遣い。
プリンってさ、無性だと思うんだよ。
だったらさ、別にラビーを女性型にしなくても良かったんじゃない?
……私の脳裏で、百合を持った女神がそう囁いた。
…………。
…………。
…………。
いやいやいやいや!
ライバルはあのソル君だよ?!
友情に毛が生えた程度の私に太刀打ちできる相手ではない!
下手すれば闇に葬られてしまう……!!
「――いやいや、ソルは鋭い所があるでござるからね~、今は大丈夫でも、そのうち気づいちゃうかもしれないでござるよね~」
だから気をつけようね、ぐらいの軽い気持ちで言った言葉に、ルーナは顔を青ざめさせた。
「っ!……やっぱり、距離を置いた方がいいわよね……」
距離を、置く?
ルーナがソル君から遠ざかる、だと?!!
「それは!それはお薦めしないでござるよ!!変に今までと違う行動を取った方が怪しまれるでござるからな!?」
ルーナによそよそしくされたソル君を想像すると、私の方が顔面蒼白になった。
絶対に八つ当たりされる。
しかも特有の感覚で私が事情を知ってると察知して、拷問にかけられる!!
「だ、だいたい、どうして隠すんでござるか?別に喋っても……あ~、いや、今はやっぱりやめといた方が……」
ルーナは月の民でした!
その月の民は、本来自分が浄化すべきだった魔物をこの地へポイ捨てにした元凶でした、テへ。
い、言えないわ!!
ルーナ的に言えるわけないわ!!
「――思い出せないの」
苦悩する私に、ルーナはぽつりと呟いた。
「ここに――」
そう言ってルーナは自分の豊満な胸の間に拳を埋めた。
……埋まったよ、見事に。
だ、ダメだ、今はルーナの話を真面目に聞かなきゃダメだ!!
「ここに、いるの。アレがテラに放たれていたと聞いた記憶を思い出した時、強く思った記憶が、ここにあるの。私ならアレを消せる。そう、強く思ったの。でも、そのやり方を思い出せないの。だから、思い出して、ソルさん達の役に立てるのが分かるまでは、言いたくないの。……憎まれるのは、それからでもいいかなぁって」
「……ルーナのせいじゃないでござるよ」
ルーナを月から追いやった人間達こそが負うべき責めだ。
彼女はゆっくりと首を振った。
「ううん、私達のせいだもの。……本当は、ちゃんと言うべきだって分かっているわ。でも、もう少し……思い出すまで、もう少しでいいから……」
ルーナは顔を伏せてしまった。
「ソルだって、馬鹿じゃないでござるよ。誰が一番悪くて、誰がただの被害者かなんてちゃんと分かってくれるでござるよ」
はっ、ソル君のフォローをしてしまった……!!
いやでも、正直ソル君がルーナを月の民だからって厭う未来は全く想像できないんだよね。
いや、それを口実に押し倒す未来は、可能性の一つとしては浮かんだけども。
「……ラビーちゃんは、優しいのね。……ねぇ、どうして”知って”いるのか、聞いてもいい?」
「は?え?あ、あうぅぅ」
一瞬、何のことかと思ったが、ついに聞かれてしまったあの件だとすぐに分かった。
なぜ、誰も知らないルーナの正体を初めから”知って”いたのか。
「――ルーナに、嘘はつきたくないでござるよ。だから……」
「ふふっ、じゃあ内緒?」
ベッドの上に横座りになって、ルーナはいたずらっぽく笑った。
あうぅぅ、大人可愛い……!!
「ごめん、でござる」
「いつか、教えてくれる?」
小首を傾げて、流れるプラチナブロンドをそっと耳にかき上げるルーナ。
いつか。
もし話せるとしたら、ルーナとソル君がラブラブハッピーエンドになった後のことだ。
でも、その頃には私はいない。
それまでに、話せる内容ではない、と思う。
「うん、いつか」
だから私はへラッと情けなく笑って、ルーナに”嘘”をついた。
ルーナは……優しい目で、笑い返してくれた。
その夜の食事は、何故かジャンが先導して宿屋ではない、ラヴァティーの街中の食堂に行くことになった。
ルーナは、ルーナたんの時より控えめな笑顔で、でも幸せそうに笑っている。
今だけの幸せだって思って、笑ってる。
で、ソル君はそんなルーナをこっそり、気遣わしげに見てる。
時々私に飛んでくる視線が突き刺さるように痛い。
「ラビーに八つ当たりしないで欲しいでござるよ……」
なんかこう、皮膚が物理的にイタい。
「恋は盲目だからなぁ。……センセイは?女同士の秘密、喋る気にならねぇ?」
「ルーナとの秘密は死んでも守るでござるよ!」
ソル君への気配りかどうかは知らないが、友情の証の内緒事をばらすような私ではない!!
「……じゃあ、センセイだけの秘密は?」
それまでより低められた囁き声に、私の全身の毛が逆立った。
殺気?!!殺気を感じる!!
「――変態は去れ!!でござるよっ!!」
慌ててディーノさんに駆け寄って、太ももにしがみついた。
そのままぶら下がる。
私の体重を物ともせずにそのまま歩き続けるディーノさん。
が、ちょっと歩きにくかったのか、ヒョイッと抱き上げられて縦抱っこされた。
いわゆる、お子様抱っこ。
「ジャン、嫌われるぞ」
ズンッと重いディーノさんの声に、ジャンは肩を竦めてみせた。
や~いや~い、怒られてやんの!
……それにしても、ジャンは私の、”どの”秘密に反応したんだろうなぁ?
う~ん、脳筋は直感で動くから、よく分かんないわ。
読んでくださってありがとうございます!!
こ、これでラヴァティー編終了です!!




