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誘惑の歌


 私は勇者達の後ろから叫びかけた。

「いいでござるかっ!

 まずジャンが”盗む”で、次にルーナたんが”誘惑の歌”をして、それからディーノ殿が”ビル投げ”で、最後にソルが”水魔法”の全体化でござるよっ」

 ちなみにソル君の精霊魔法・水は、工房区の宝箱に入っていたクラウディスタッフで覚えられる魔法だ。

 これから雷の聖域に向かう勇者のためにあるような杖。

 ガンガン使ってウォーターをウォータラーに進化させたら、セト戦もかなり楽になることだろう。


 ちなみにラヴァティーから雷の聖域に至る街道でも、水弱点の敵が多い。

 これはアレだ。開発者様(神様)の、『水属性の攻撃手段を持ってないなら今が引き返すチャンスだよ』というありがたいメッセージだと思う。

 クラウディスタッフはラヴァティーの武器屋でも売ってたしね。

 ……3500ビルで。


「おっし、行くか!」

 戦闘になると生き生きするジャン。

 なんかもう、目の色が違う気がする。

 戦闘狂だよね。

 目の前に現われたのは、サンダープリンが3体。

 お仲間だ。


「よっと」

 サンダープリンがビタンビタンと触手を板状に伸ばして攻撃してくるが、ジャンはそれを華麗に躱して盗むを成功させていた。

 う~む、ジャンの回避率って高いよなぁ。

 やっぱりステータス値はなかなか優秀だ。


 まぁこういうのってゲーム的なステータス値だけじゃなくて、ディーノさんとの朝練で培った動体視力とか、筋肉の効率的な動きとかが関係してくるのかもしれないけど。

 ふむふむ、そういう意味ではやはりソル君を朝練に参加させたのは正解かもしれない。

 確かソル君の回避率はゲーム中では高くなかった。

 Hpも高くないから、この回避率を上げればこの先の冒険がさらに楽になることだろう。

 

 ……そういう意味ではルーナたんも鍛えたい所だけど……いや。

 腹筋が割れたルーナたんは見たくないから現状維持で。

 少なくともアビリティ無駄打ち戦法でステータスは上がるし。


「~~♪」

 ジャンの攻撃に間髪入れず、ルーナたんが歌い出した。

 ”誘惑の歌”を。

「――――っっっっっっ!?」

 ヤバいよ!

 モンスターですら誘惑する調べを、目を伏せがちにしながらハープをつま弾くルーナたんが歌う。

 その声はどこまでも透明で、それでいて艶やかで美しい。

 少し離れた所にいる私ですら頭がくらっとなった。

 感情があるんだかないんだか分からないモンスターですら魅了する、ということは人間なんてひとたまりもない、ということではあるまいか?!

 私は慌てて勇者達を見た。


「――っしっかりするでござるよっっ!」

 ソル君は蹲り、ジャンは頭を抱えている。

 ディーノさんですら残っている右目を左手で押さえていた。

 私は慌てて茶色いワンピース破らないように縮小型プリンに変化し、遠距離でも届くように長く伸ばした触手から、ビュビュッと糖弾を吐きかけた。

 そしてすぐにラビーに戻る。

 ちなみに縮小型プリンは、イベントをこっそり盗み聞くために私が開発したものだ。

 ルーナたんが眠っている夜中にこっそり練習していた。

 まさかこういうことで役に立つとは。


「……あ、あぁ」

 呻きながら立ち上がる勇者達。

「ソル!ウォーターでござる!

 全体化で!」

 ソル君をけしかけて、みんなが正気に戻る前に糖弾で彩られて崩れかけのサンダープリンを退治してもらい、証拠隠滅してもらう。

 ――いやぁ、危なかった危なかった。




「ご、ごめんなさいっ、みんな!

 大丈夫?ごめんなさい……っ」

 ルーナたんがおろおろして謝ってくる。

 勇者達はそれぞれ座り込んで今さっきの反省会だ。


「センセイ、こんな威力じゃ武器として使えねぇぞ?」

「で、ござるよねぇ……」

 う~ん、なぜだ……。

「あれは歌う武器ではなかっただろう?

 弾くだけだったはずだ」

 え?


「え?」

 ルーナたんも首を傾げる。

「アンヌも使ったことがあったが、確か奏でるだけだったぞ?」

 え?誘惑の”歌”なのに?


「あ……」

 ルーナたんが何かに思い当たったように声を上げた。

「そ、そいえばアビリティを発動させた時は指だけが動いてたの……でも、”歌”だから何か歌わなきゃなって……」

「ラビーが悪いですね」

 ソル君がばっさりまとめてくれた。


「事故でござるっ!

 ラビーだって”誘惑の歌”ってアビリティしか知らなかったでござるよっ!」

 ハープの音色とルーナたんのピュアなのに艶っぽい声が合わさると人間でもすぐに戦闘不能になるなんて、誰が想像できただろうか!

 いや、できはしないっ!


「はははっ、思わず俺もギュッとなったしなぁ」

 ギュッ?

 心を掴まれた、的な感じのギュッ?

 ルーナたんと二人で首を傾げていると、ソル君がジャンを撤収していった。

 ジャンの鳩尾にゴツンッと拳を食い込ませ、呻くジャンの襟首を掴んで向こうに引っ張っていったのだ。

 なんかさぁ、もうソル君に朝練いらなくない?

 充分じゃない?


「――放っといてやれ。

 まだ若い」

「……意味不明でござるよディーノ殿……」

「ジャンさん……だ、大丈夫かなぁ?」

「それは大丈夫でござろう。

 殺そうとしても、死んだふりして蘇ってきそうでござるよ。

 そんで『疲れた~、おやつ~』とか言いそうでござる」


 私の言葉に、顔色が悪かったルーナたんはクスクス笑い出した。

 う~ん、さすが月の巫女はすごい。

 魔道具の威力を増大させてるんだろうか?

 さすがは100年に一人と言われた才能の持ち主だねぇ、ルーナたん!




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