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晩餐 デザート


 正直に言おう。

 料理は美味しかった。

 でも雰囲気が最悪だった。


「ソル様の目は吸い込まれそうやわぁ。

 素敵……」

 果敢にもブリザーダー放出中のソル君に、そりゃもう甘い声で話しかけるディアーヌお嬢様。

「…………」

 返事ぐらいしろよソル君。

 コイツ、総スルーする気だ……!

 一見にこやかに見守るカンテ氏だけど、愛娘の発言をソル君がことごとくスルーするという暴挙に出ているため、細められている目の奥が鋭く光り始めている。


「あ、あの~、このお屋敷は見事でござるね!」

 勇者貯金のために私は頑張った。

「おお、お分かりかな?

 うちは特に庭に凝っててなぁ――」

 耐えろラビー。

 このにこやかな表情筋を保ち続けるのだ。


「そ、それほど見事なお屋敷なら、もしかして勇者貯金も――」

 ていうかさ、これってディーノさんの仕事じゃない?

 なんで私がこんなに頑張っちゃってるんだっけ?

 ……おお!

 イベント時にしか入れない、期間限定の勇者貯金って知ってるのは私だけだった……!


「ございますとも!

 そうそう、集めさせて来ましょうなぁ」

「拙者も!

 拙者も集めるお手伝いをするでござる!」

 ここには宝箱だけではなく、話しかけて正解を答えることで入手できるお金もあるのだ。

 守銭奴ソル君のためにもぜひ入手せねばなるまい。


「おや、ですがデザートがまだですがなぁ」

「後で!

 後で頂くので取って置いて欲しいでござる!」

 このままギスギスした空気の中で食事を続けても美味しくないし、イベントが始まる前に宝箱の回収を済ませておきたいからね。


「そういうことでしたら……誰ぞ!

 ウサギ殿を案内して差し上げぇな」

 ウサギじゃなくてラビウサ……まぁいいや。

 ご厚意に従って退席するさ。

 ルーナたん、後は任せたよ!

 ソル君が言語道断に無礼になる前にピュアな空気で止めてあげてね!

 私はルーナたんに目配せして、ザ・執事のおじちゃまの後に従った。

 



 さすが執事のおじちゃまはこのお屋敷に詳しかった。

 ついでに言うなら宝箱の場所も正確に把握していた。

 発見されたアイテムや装備品を片っ端から私のアイテムボックスに入れていく。

 むふふ、ミスリルアーマー……むふふ、アダマンベスト……たぁのしぃぃなぁぁぁっっ♪

 さて、めぼしいものは全て回収した。

 残るは遠雷の指輪とクイズだ。

 クイズの正解は、『…………』、『いいえ』、『いいえ』、『はい』の順番だ。


「最後はこの部屋でござるね?」

 執事さんと頷き合って、何やら立派そうな扉を開ける。

「……?!奥様?!」

 え、えぇぇぇ~……奥様ってことはカンテ氏の奥さんってことでは?

 つまり、旦那さんは勇者達と夕食中という状況だよね?

 今抱き合っているのは明らかに旦那さんじゃないよね?

 奥様はさり気なく抱き合っている男性から体を離すと、その男性もさり気なく部屋から出て行った。

 私たちとは違う扉から。


「どうしたの?

 この部屋になんの用があるの?」

 奥様、ものすごく落ち着いています。

 どうしましょう、不倫ですか?

 現場を目撃した私は消されるってアレですか?!


「――勇者様方に勇者貯金をお渡ししようと存じまして」

 執事のおじちゃまは一呼吸で落ち着きを取り戻した。

 さすが、ザ・執事!!

「……そう。

 で、そこのウサギさん。

 何かご覧になりまして?」

「…………」

 この場合、クイズか否かに関わらず、こういう返事しかできないと思うよ。


「お口がないの?

 何かご覧になった?」

「いいえ」

 いや、この脅迫的な雰囲気の中でこれ以外に答えられることってないと思うよ。


「本当に?

 何かおかしなものでもご覧になったのではないの?」

「いいえ」

 この奥様、ディアーヌお嬢様のお母さんだけあって年齢不詳の迫力美人なんだよ。

 すっと表情消した顔で詰問されるから泣きそうになるんだよ。


「あら、そう。

 何もご覧にならなかったのねぇ」

「はい」

 だからもう帰りたい……いや、でも遠雷の指輪は欲しいのよ!!


「ふふ、良い子ねぇ……」

 奥様はニコッと艶っぽく笑うと、私に近づいてこっそり小袋に入った硬貨を渡してくれた。

 ゲーム通りなら5000ビル。

 や、やった~……。

 奥様はゆったりした歩調でそのままこの部屋から出て行った。

 こ、怖かったよぅ。


「――さて、残りの勇者貯金はあちらになります」

 執事さぁん、この恐怖と毎日戦ってるんだね!

 やっぱり私に執事は無理だよ。

 コスプレで充分だよ!

 私は無事に遠雷の指輪を入手して、ヨロヨロしながら夕食の席に戻っていった。



 

 戻っていった私を迎えたのは、なんとも言えない渋そうな顔をした勇者達だった。

 彼らの前にはデザートのお皿。

 どのお皿も、一口囓った後があるだけで放置されている。

 甘党のディーノさんまで残しているなんて珍しい。


「お帰りラビーちゃんっ。

 お疲れ様」

 ねぎらってくれるルーナたんが眩しい。

「おお、ちょうどデザートが来たところです。

 ささ、どうぞ」

「あ、ありがたくちょうだいするでござる……」

 どうしよう、カンテ氏の顔がまともに見れない。

 私は誤魔化すように小さなフォークを握って、目の前のチーズケーキっぽい物体を突き刺した。


「――っっっ?!」

 あ、あま~~~い!

 甘さが暴力的に感じるほど、脳天に突き抜ける勢いで甘い!

 これまでのお料理はどれも美味しかっただけに驚きだ。


「うまいでしょう?

 わしはシェフのこのケーキが好きでしてなぁ」

 ケーキに謝れ。

 い、いやいや。

 言っちゃダメだそんなこと。


「と、とても濃厚な甘さでござるねぇ……」

 濃厚というか、攻撃的というか。

「さすがウサギ殿。

 良さをご存じですなぁ。

 ささ、もっとどうぞ」


 ――食べたさ。

 泣きながら食べたさ。

 美味しすぎて泣いてると勘違いされてお代わりまで持ってこられそうになったけど、それでも一皿のノルマは果たしたさ。


 ……まさかこの世(テラ)に、糖弾かけスライムより激甘い物があったなんて驚きだ。

 もっと驚きなのは、それをにこやかに食べきるディアーヌお嬢様だ。

 ど、どうしよう。

 もしかしてこのケーキを食べれば豊胸になれるのかも……いや、前世ならともかくラビウサでそれはないわ。

 私は潔く諦めた。

 このお屋敷、濃すぎてもう二度と来たくないな……。




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