神殿
エラクレス戦よりもラビーのショッピングよりも、まずは宝箱の回収である!
ラヴァティーの街にある宝箱はたくさんある。
ゲームプレイ時には、ひゃっほうと叫びながら神殿や民家を家捜ししまくったものである。
神殿の中だけだって3個もある。
うち一つは隠し通路を通って進む小部屋にあった。
「つ、詰んだでござる?!」
ラヴァティーの神殿街にある神殿は、大きなものだけで10軒ある。
そのどれがゲーム内のあの神殿に相当するのか分からないのだ。
定石で言えばきっと一番大きな神殿がそれだと思うだろう。
だが、最大規模の神殿だけで3軒はある……!
「い、いやいや。入ってみればきっと……!――んん?」
私はそれぞれの神殿をじっくり眺め、あることに気づいた。
そう、荘厳な石造りの神殿、その木でできている扉についているマークが微妙に違う。
BF6ではいわゆる神殿は一つだった。
だがそのマークは決まっている。
目の前にある神殿のうちの一つが、そのマークのついた扉を持っていた。
「――あれでござるよ!行くでござる!」
「……かなり迷っていたね。大丈夫なのかな?」
「気づかないふりしててやれよ、ソル」
後ろで囁き交わしている若者の言葉なんて気にしてはいけない。
大きすぎるラヴァティーが全部悪いのだ。
大きくて分厚い木の扉を開けた先には、ひんやりした高い天井の聖堂があった。
素朴な花の模様のステンドグラスが天上に飾られ、そこから射し込む淡く彩られた光が床を美しく染めている。
「――綺麗だねぇ……っ」
声を潜めてルーナたんが私に囁いた。
うん、こういう場所ではあんまり大声出せなくなるよね。
そんでもって入り口入ってすぐにある受付っぽい所に、二つ折りの紙が積み上げられているのは例のアレじゃないよね?
”勇者がラヴァティーに到着”って書いてあるように見えるけど、違うよね?
「誰かに案内させるか?――おい、神殿長はおいでか?」
声を潜める私たちの気遣いを綺麗に無視してディーノさんが神殿の奥に声をかける。
当然大声だ。
並んでいるベンチに座って祈りを捧げている何人かの人がちらっとこちらを見た気がして、私は思わず小さくなった。
奥の方でひそひそ囁きあう声がして、やがて奥から小柄な女性が出てきた。
かなり年配に見えるが、腰は真っ直ぐ伸びている。
「――どなたかと思えば。勇者様方。
それにジャン。ようこそおいでくださいました。
ラヴァティーにようこそ。
……立派になりましたね、ジャン」
ラヴァティーはジャンの出身地で、ここの神殿長は一時ジャンの親代わりでもあった人だった。
とはいってもジャンがラヴァティーからソル君達のいるホルンの町に移動するまでだけど。
「お久しぶりです、神殿長様」
ジャンはくすぐったそうに笑った。
両親が盗賊仲間に殺されて、そうして孤児になった彼を引き取ってくれた神殿長。
でもジャンの才能を見出して、いずれ勇者となるソル君の元へ行かせる決意をしたのもこの人だ。
神殿長は皺だらけの顔を緩めて、それは優しい目でジャンに笑い返していた。
この神殿の勇者貯金を運んでくる間、私たちは神殿長の応接間にお邪魔して、お茶をご馳走になっていた。
「それで。ジャンは役に立っておりますでしょうか」
こういう時、代表する役目はディーノさんをおいて他にいない。
「それは無論。強いばかりではなく、彼は心も強い。
ジャンの明るさに我々も助けられています」
うん。
私やソル君では、なかなかこういうコメントはできない。
散々こき下ろした後、『でも――大事な仲間です』とかソル君なら言いそうだ。
そういうツンデレ具合も嫌いじゃないけど、この場面ではディーノさんのコメントの方が圧倒的に正しいと思う。
「それは嬉しいことを伺いました。
ジャンは……幼い頃は、それは暗い目をした子供でした。
彼のご両親のことを思えば致し方ないことなのでしょう。
ですがその彼が、こうして今では立派な青年になっている。
わたくしにとってこれ以上嬉しいことはありません。
ホルンにやって、あなた様にジャンを託して本当に良かった。
ありがとうございました、勇者様方」
皺だらけの、節ばった手を膝の上に美しく揃え、神殿長は綺麗に頭を下げた。
私なんかこういうしっかりしたお婆ちゃまに頭を下げられると、『いえ、その、どうも……』とかもごもご言うしかないのだが、さすがにディーノさんは違った。
「礼を言うのは我らの方です。
よくぞ彼を我らに寄越してくださった。
おかげで、我々はかけがえのない仲間を手に入れることができました」
ちらっとジャンを見てフっと笑う。
目で温かく包み込むような笑みに、ジャンが照れて俯くのが見えた。
何殺しだ?!
男殺し?!
息子殺し?!
ディーノさんは真の男前だねっ!
「――あぁ、見つけてきたようです。
こちらをお納めください、勇者様。
あなた方の未来に、光があらんことを」
ちゃんと宝物は3つあった。
エリクサーとセイレーンハープ、それに毒蛇の杖。
隠し通路の奥にあったのは毒蛇の杖だ。
「神殿長様。
神殿長様もどうぞお元気で」
ジャンが、いつものちょい悪っぽい態度とは全然違った、真摯な顔で神殿長に頭を下げていた。
……どういう、過去だったんだろう?
大まかな流れは知っていても、実のところジャンのエピソードはあんまりゲーム内では語られることはなかった。
柄にもないジャンの様子を見ていると、ちょっとだけそんな風に思ってしまった私だった。




