美女とビスチェ
私は前世の頃から二日酔いになったことがない。
別に酒豪でも何でもなく、ビールでも一杯飲めば顔が赤くなるのに、なぜか二日酔いには縁がなかった。
……アレかもしれないが。
あの、「そんなに顔赤いんだからもう飲むのやめなよ」という無慈悲なストップをかけられていたせいかもしれないが。
ちなみに前世の私の限界は、ワイン半ボトルだ。
それ以上飲もうとすると、体がアルコールを拒否しているのか、一気に飲む気が失せてくるのだ。
あと、眠くなる。
こういった体質はラビウサになったラビーにも受け継がれていた。
翌朝の目覚めはすっきりしていて、むしろ同室のルーナたんの方がいつもよりぼんやりした顔で朝の挨拶をしてきたぐらいだった。
「おはよう~、ラビーちゃん」
ほんのちょっぴり瞼もむくんでいる。
でもそんなの全く関係しない美貌が可愛い。
美女が油断しきった顔をしてるのってなんというかこう……心をくすぐるよね!
「おはようでござる、ルーナたん。
……ささ、今日はこれを着るでござるよ!」
私はルーナたんと同室であることを深く感謝した。
早速のオーロラビスチェ!
ノースリーブの胴着に、黒レースのスカート!
色白で髪の色素も薄い北欧系美女がセクシーな黒いビスチェを照れながら身につけるという、至上の眼福を得ている!
「ルーナたん大人っぽくて綺麗でござるよっ!」
こう、解いた髪をかき上げて欲しい。
切実に。
「本当?こういう大人っぽい下着って緊張するねっ」
セクシー下着を纏いながら無邪気な笑顔。
ソル君やジャンには決して見せてはならない姿だろう。
ディーノさんも危ないかもしれない。
「すっごく似合うでござるが、決して男には見せてはならないでござるよ?!
襲われて頭から食べられちゃうでござるからね!」
キリッとした顔で注意したのだが、ルーナたんは口元に可愛く手を当ててクスクス笑うだけだった。
おのれ、無防備ヒロインめ、私が守るしかないようだな?!
「この上にサテンのローブを着ればいいの?
このスカートのせいで下が膨らんじゃうんだけど……」
実際に藍色のサテンのローブを羽織ってみると、確かにスカート部分が若干膨らんで見える。
でもそれがイイ。
ちょっと中世の奥方が着るドレスみたいで。
ちらっと胸元から覗く黒色もイイ!
「似合うでござるよっ!ものすごく似合うでござるよぅっ!」
ピョンピョン跳ねながら絶賛した。
これはラビーとお揃いのシックな茶色いワンピースよりこちらの方が絶対に似合う。
断言できる。
これから、とあるストーカーが献上してくれるダイヤモンドネックレスをつければさらに完璧になるはずである!
惜しむらくは、指輪がガーネットリングしかないことだろうか……。
サファイアリングがあれば……う~ん、まだまだ先なんだよなぁ……。
「そ、そうかな」
ルーナたんが照れたように笑った。
ちょっと赤くなった頬が本気で可愛い。
「し、至福でござるぅぅ」
「――ラビーちゃんも新しい服買おうねっ」
ん?
なんでそうなるの、ルーナたん。
ルーナたんを見た男性陣はなかなかものすごかった。
ジャンは遠慮なくルーナたんを褒め称えていたんだけど、ソル君がちょっと尋常じゃないぐらいに面白かった。
ソワソワうろうろ歩き回り、何か言いかけては慌てたように口を閉じる。
冷たいばかりの美貌の男が繰り返す奇行に、最初はニヤニヤ笑っていた私だったが、余りに続くのでうんざりしてしまった。
それに周りの目が痛い。
朝の食堂イコール宿泊客いっぱいだからね。
勇者新聞に変な記事でも載せられたらどうする気なんだろう、ソル君は。
ディーノさんは格好良く一言でルーナたんへの賛辞をまとめていた。
うん、カッコいい。
「――あのね、せっかく大きな街だから、ラビーちゃんの服も買ってあげたいの」
朝食後のお茶を飲んでいるとルーナたんがそう切り出した。
「や、別にラビーは服は――」
「お、いいな。着替えとか全然してないもんな、センセイ」
「う、うるさいでござるよジャン!
別に不潔にはしてないでござろうがっ」
夜中にこっそりプリンになって、魔法を使って洗濯していたなんて知られるわけにはいかない。
ちなみにルーナたんのも私が洗濯している。
プリンセスに洗濯なんてさせられないのである。
「まぁ安いのなら」
ソル君が、高価な物は誰が買うか、と言う目で私を見ながらそう言った。
「っ馬鹿にするなでござる!そのぐらいのお金はお菓子売りで稼いでいるでござるよっ」
私は自立したラビウサなのだ。
勇者達に養ってもらうつもりはない。
「あ~、なんだったら俺が奢る――」
「――そんな余剰金があったのかい、ジャン?それはいいことを聞いた」
ジャンが何やら墓穴を掘っていた。
どうやら今日は宝箱回収と、私の服の購入になりそうだ。
「……まぁいいでござるが。でも、午後は開けとくでござるよ」
午後にはストーカーからの予約が入っているからね。
「何かあったか?」
首を傾げるディーノさんに、私は純真そうな笑顔で答えた。
「そんな気がするだけでござるよぅ」
2回目のエラクレス戦。
ルーナたん完璧コーデのためにも、勇者達には頑張ってもらうことにしよう。




