蜂蜜酒
ラヴァティーの街は大きい。
南北に走る大通りが、城壁に囲まれたこの町の出入り口と繋がっている。
つまり、街の外から出入りするには、南北どちらかの門をくぐらないと入れないというわけだ。
大通りは東西にもある。
この大通りで区画分けされた4つが、どうやら大まかに商業区とか神殿街とかに区分されるようだ。
……ゲーム内ではこんな設定なかったんだよ!
そりゃまぁ城壁はあった。
でも普通の神殿より大きくて2階建ての神殿が一軒だけだったはずの”神殿街”が、それこそ大きい神殿なら10軒はあり、小さい祠みたいなのまで含めれば何十軒あるのか分からないほどいっぱいあるなんてさ!
商業区もすごい。
服、武器防具屋、アクセサリー屋、飲食店、食料品店などの店が何軒もある。
間違いなく迷子になるレベルだ。
残りは居住区と工房区だ。
居住区に宿屋もあり、工房区では武器防具だけではなく、装飾品としてのアクセサリーも加工されている。
「ふほぉぉぉぉっっ」
石畳にレンガという、いかにもな町並みではあるのだが、驚くことに街の中央にものすごく高い塔が建っている。
鉛筆の先みたいに尖っていて、あれでは誰も住めないし入れないんじゃないだろうかと思っていたら、元々この街に住んでいたジャンから、
「あぁ、あれは避雷針だから」
という返事が返ってきた。
「避雷針?!そんなに雷が落ちるんでござるか?!」
「そりゃまぁ、雷の聖域にも近いからな」
この広い街並みに避雷針が一つだけって、逆に大丈夫なんだろうか?
いやいや、きっと雷の精霊王・セト様がその辺は調節してくれているに違いない。
筋肉マッチョな狼顔のセト様は、まさしく兄貴と呼ぶに相応しいお方。
兄貴だけあって、無駄に雷を落とすこともなさそうだ。
「とりあえず宿取ってから商業区に案内するな」
出身だけあって地理はばっちりのようだ。
「じゃあその間、ラビーはお菓子でも売ることにするでござる」
自分の路銀は自分で稼ぐ。
だってモンスター倒せないからね!
「ん?センセイ、蜂蜜酒飲まねぇの?うまい店、ちゃんと調べといたぜ?」
私はうさ耳をピンッと立てた。
「――うむ。案内を頼むでござる」
お菓子の材料にもなるかもしれないしね!
思えば、私も武器防具屋に同行して良かった。
「それは買わなくていいでござるよっ!」
この街にある宝箱を網羅している私には、不要な装備品がいっぱいあるのである。
「じゃあどれを買えばいいんだい?ダメだけじゃなくて買っていい物を教えてくれるかな」
にっこり笑うソル君の目が険しい。
「だからオーロラビスチェとマジカルワンドを買えって言ってるでござるっ」
「そんなの下着じゃないかっ」
私たちは睨み合った。
オーロラビスチェは、フワッフワの黒レースでできたスカート部分こそあるが、まぁ実態は下着である。
ノースリーブだしね。
黒地にうっすら入った線がカラフルで可愛い。
でも遠目に見るとただのセクシーな黒いビスチェ。
「フードと同じで上に何か着ればいいでござろう!?」
「そんないかがわしい下着なんてルーナには似合わないだろう?!」
「ソルの好みなんて聞いてないでござるよっ!」
オーロラビスチェは戦闘不能から復活させるリバースを覚えられるのだ。
どんなに小っ恥ずかしいとしても着て覚えてもらわねばならない!
「――……あの、いいの。着るから。
だから、その……あんまり大声で喧嘩しないで?ね?」
ルーナたんに恥ずかしそうに注意され、私たちはハッと周りを見た。
他の冒険者風のお客さんからチラチラ見られていた。
こんな中で下着下着と連呼していたわけだ。
「ソルのせいでござる」
「ウサギのせいだろう?!」
小声でやり合いつつ、ルーナたんの赤い頬を見て深く反省した私たちだった。
無事に(?)装備品を購入して私たちは食堂にやって来た。
これまでの町の食堂は、ザ・食堂って感じだったけど、ラヴァティーの食堂はちょっと違う。
食堂っていうよりレストランって感じだ。
まぁ味がどうかは分からないが、外観は段違いにお洒落だった。
ジャンがメモを見ながら案内してくれた店は、レンガ造りの壁に蔦を這わせた、お洒落可愛いお店だった。
ここで出されるのが蜂蜜酒、というのは納得できるが、明らかに男性だけでは入りにくそうな店構えだ。
特にディーノさん。
まず背が高いから居心地悪そう。
でもごめん、ディーノさん。
久しぶりのお酒の誘惑には勝てない!
「可愛いお店だねぇ!」
ご機嫌なルーナたんの隣に座ってうふうふ笑い合う。
「ルーナたんはお酒は飲めるでござる?」
「えぇと、分からないけど、たぶん」
う~ん、ゲーム内でルーナたんのお酒エピソードはなかったから分からないけど……酔っ払ったルーナたんも可愛いだろうけど、でもソル君のストップが出そうだから控えめに飲んでもらおう。
「じゃあまずは、かんぱ~い!でござるっ」
華奢なグラスに注がれた蜂蜜酒を、勇者達も呷る。
……けっこう違和感があるけどまぁそんなことはどうでもいい。
お酒!
何年ぶりかのお酒だ!
「あ、ま~いっ」
「ござるぅっ」
甘いのにくどくない。
濃厚なのに後に残らない。
癖のある蜂蜜の風味が、酒精のおかげでいい感じにやわらいでいる。
ヤバい、これものすごい飲みやすいよ!
ルーナたんが飲み過ぎないように気をつけなきゃ……!
「――お~い、センセイ大丈夫か?」
私は忘れていた。
人間の体に比べてラビーの体は小さい。
つまり、同じ量を飲んでもラビーにとっては人間の倍以上飲んでいるということになるのだ。
飲みやすさとルーナたんへの気配りでうっかり飲み過ぎた私は、宿屋へ向かう帰り道をジャンにおんぶされるという屈辱に耐える羽目になったのだった。




