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進化


 私が自我に目覚め、さらには悟りを開いてからどれぐらいが経ったのだろう?

 ついに。ついにこの森に冒険者がやって来た!


 そうそう、言っていなかったが私がいるこの森は、ものすごく濃い霧がずっと立ちこめている、よく言えば神秘的、悪く言うと不気味な森だ。

 その見かけの割に、出没するモンスターはレベル5未満という、初心者向けっぽい森だ。

 鑑定のアビリティを持っているので森の木を鑑定すると、『テフヌの森にはえている木』と表示された。

 テフヌかぁ、どこかで聞いたことがあるような……。


 いやいや、問題は冒険者だ。

 この無駄にモンスターを喰い漁る日々ともついにお別れの日が来たのだろうか?

 私の目一杯ため込んだ経験値を、彼らは人々を助けるために使ってくれるのだろうか?

 ……そうか、盗賊という線もある。

 犯罪者に手を貸すことはできないから、その辺はちゃんと見極めよう。

 せっかく鑑定もあることだし。


「――ディーノさん、本当にこっちで合ってるんですか?」

 冒険者から声が聞こえた。

 三人組で、若いのが二人、壮年というかおじさんぽいのが一人。

 ……ディーノ、かぁ。

 良い名前だなぁ。

 私が一番大好きだったBF6というゲームに出てきた、おじさん剣士もそんな名前だったんだよなぁ。

 いかにも背中で語るっぽい渋めな隻眼のおじ様で。


「ジャンの言う通りです。ディーノさん、先ほどから同じ所を往復してませんか?」

 ……ジャン!

 彼もBF6に出てくるんだよねぇ。

 ちょっとチャラ目のシーフ。

 でも実は友情に熱い男。

 個人的には、ヒロインのルーナたんに色目使ってたから要注意人物だったけど。


「……ソル、ジャン、敵だ」

 おっさん剣士が私に気づいて剣を構えた。

 えぇと、今あなたソルって言いましたよね?

 え?

 BF6に出てくる勇者三人組と同じ名前なんだけど、これって偶然だよね?

 あ、そうだ鑑定。




 ディーノ Lv.3 剣士


 Hp:130

 Mp:10




 ジャン Lv.2 シーフ


 Hp:100

 Mp:20




 ソル Lv.2 精霊魔道士


 Hp:90

 Mp:50




 ……勇者でした。

 何が決め手って、ソルの職業。

 精霊魔道士でソル。

 これはもうBF6の世界でしかない。




 BF6とは。

 とあるゲーム会社が出している定番のRPGゲームだ。

 6というからには1から最新版まである。

 6は立派なレトロゲームで、映像がかくかくしている。

 いわゆるドット絵で、出てくるキャラクターも二頭身。

 着ている服なんて色ぐらいしか分からない。

 そんな感じの、古い時代のゲームだ。


 もちろん台詞は短いし、音楽だってペーポープ―な音だ。

 でも私はこれが一番大好き。

 何がすごいって、そんなグラフィックに難のあるゲームなのに泣けるのだ!

 表情なんて、笑顔泣き顔真顔の3パターンぐらいしかないのに、その時々の場面で細かい違いがある(ように見えてくる)。

 単なる後ろ姿なのに、その人が泣いていることが分かってしまう(ストーリー的に)。


 お兄ちゃんに勧められた時、正直言って気が乗らなかった。

 私は今時の子だったので、イベントシーンで映画のような映像が流れ、もちろん音声付き、歌もついている新しいゲームが好きだった。

 でもやっていくうちに、ゲームってストーリーなんだな、と思うようになった。

 物語に入り込めれば、ペーポープーなメロディでも泣ける。

 二頭身でもヒロインのルーナたんの美しさは分かる。

 ディーノさんの後ろ姿に泣けた。

 ノーマルな方のエンディングで見る青空は、号泣する私の目には一番美しい雲のない青空に見えた。


 ちなみにレトロゲームが苦手なハルト君は未プレイ。

 リメイクが出たらやるって言ってたけど、シリ-ズ中で七番目の人気なんだよね。

 待ってたけどリメイクって話は死の直前まで聞こえてこなかった。




 その愛する勇者達が。

 レベル3以下の彼らが無謀にもレベル42の私に挑みかかってくる!


 ドンドンビシッ!


 あっ、思わず反撃したらディーノさんが瀕死になってる!

 回復!誰か回復!と思ったらディーノさんにポーションをぶっかけるジャン。

 ソルが精霊魔法(ぶっちゃけ黒魔法だ)のファイアを放ってくるが……ごめん、吸収しちゃった♡

 火と氷は吸収しちゃうんだよ~っ!


 でも彼らのこの低レベルさから見て、きっとここは最初の森。

 あ、たぶんゲーム中で”迷いの森”って描写されてた森だ。

 正式名がテフヌだったんだ。

 そういえば霧っぽい白い雲が画面の両端を覆ってたわ。

 ってことはソル君はぶっちゃけまだ雷も水も覚えていないはず。

 この世界では武器防具を使っていくうちに魔法やアビリティを覚えるからね。

 序盤は火だけだった。


「くっ、強すぎる!一度退きましょう!」

 ソル君がディーノさんに呼びかけて、傷を負ったディーノさんが頷いた。

 ご、ごめんなさいぃ、思わずカウンターしちゃったんですぅ。


「ついて来るなよなっ」

 そうしてジャンがとんずら発動。

 とんずらは、敵の行動を一瞬止めることによって確実に戦闘から逃げられるアビリティだ。

 もちろん私としても異論はない。

 むしろどうぞどうぞと言いたい。

 あの、でもそっちって来た道だよね?

 先導してたのはソル君だから、やっぱりこの森が迷いやすいのかな?




 チャラピラピラピ~ン!


 え?

 『”勇者”を撃退しました。経験値を獲得、進化します』

 効果音はレベルアップの時に何度か聞いたことがあるが、音声は初めてだ。

 見知らぬ音声が、問答無用で私の進化を決めた。

 進化しないという選択肢はないようだ。


 チャラピラピラピ~ン!


 『シュガープリンからデザートプリンセスに進化しました』

 え~と、とりあえず外見が粉砂糖がけ牛乳プリンから、ホワイトチョコレートがけ苺ミルクプリンになりました。


 ……や、やった~……?



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