ツクヨミ戦
さて、おやつも食べたことだしツクヨミ戦に関しての指導を行いたいと思う。
だがその前に勇者達の作戦を聞きたい。
「さて、氷の精霊王様との戦いではどのように戦うつもりでござる?」
ディーノさんが湧かしてくれたお湯でお茶を煎れ、そのコップを両手で抱え込みながらそう聞いてみた。
勇者達は顔を見合わせ、何やら目配せしている。
「はいじゃあソル」
とりあえず一番しっかりしているソル君を指名してみた。
ディーノさんはアレだからね。
ほら、ギャップ萌え的な感じのアレだから。
「基本的には火との戦いと同じだろう?
ルーナがベールでジャンがアクセル、私とディーノさんは弱点属性攻撃で。
つまり今回は火属性で攻撃する。それでいいんじゃないかな?」
ふむふむ、まぁ悪くは無い。
「ちなみに、今までに獲得したアビリティを使う予定はないでござるか?」
詳しく言うと、ルーナたんのプロテクトとディーノさんのディフェンスブレイクなのだが。
プロテクトは魔法攻撃の多い精霊王戦ではあまり使わないかと思いきや、けっこうキレのある蹴りが飛んできたりするのであった方がいいのだ。
「え、えぇと……プロテクト、をルーナにかけてもらう……?」
ふむ。
ソル君はルーナたんの事に関しては記憶に残しやすい。
が、ルーナたん以外に弱い、というところかな。
どんだけチョーローなのかね君は。
その装備を手に入れる度にちゃんと説明してたのに!
まぁ確かにちょっと興奮気味に早口で喋ってたかもしれないけど。
「そのプロテクトの効果は覚えてるでござるよな?」
確認のため問いかけるとジャンが、
「物理防御を上げるんだろ?基本だよ基本。ソルだってそれくらい知ってるって」
と笑っていた。
ちなみにやつはまだプリンを大事そうに食べている。
さすがのディーノさんだって食べ終えてるというのに。
「――まぁ、ジャンが覚えてるくらいならソルも大丈夫でござるね。
そう、ルーナたんにはベールの他にプロテクトもかけてもらうでござる。
ベールはディーノさん優先、プロテクトはルーナたん優先で。
後はケアーの合間に足りない所を補う感じでお願いするでござる。
ディーノさんは敵の物理防御力を下げるディフェンスブレイクを放った後、魔法剣・火で攻撃し続けるでござるよ」
私はいったん言葉を切ってルーナたんとディーノさんを見つめた。
二人ともしっかりした顔で頷いている。
うむうむ、よろしく頼むよ。
「ソルは、まずは火の精霊女王様を召喚して召喚魔法をぶっ放すでござる。
で、後はファイアで削るでござる。
もし死にそうな仲間がいたらポーション役を頼むでござる。
でもその際は――」
「ルーナに声をかけるんだね。
分かっているよ」
うむうむ。
この戦闘の主戦力はカーリーお姉様だからね。
カーリーお姉様さえぶっ放せばあとはちまちま削れるはずである。
「で、ジャン。
アクセルやって後は戦い続けるのがお主の使命でござるが……盗むな。いいでござるね?」
なぜか精霊王達は盗むをやるとブチ切れなさってしまうのだ。
他のBFシリーズでは召喚獣からわりといい物が盗めたりするから理不尽ではあるが、恐らくそういったプレイヤーに対する開発者様の罠なんだろうと思う。
「センセイ、ちなみに盗んだら氷の精霊王も必殺技ぶっ放してくるのか?」
「当たり前でござる。
火の精霊女王様より容赦ないから、たぶんジャンでも死ぬと思うでござるよ」
「どんな必殺技?!」
ジャンがキラッキラした目で見つめてきた。
その手にはチョコレートプリン。
「……死にたいなら一人で試すでござる」
ツクヨミ様が放つクリスタル・レイン。
掌サイズの氷塊がどごどご降ってくる容赦ない豪雨を体験したければお一人様でどうぞ、だ。
私は勇者一行の背中に叫んだ。
「ここから応援してるでござる!頑張るでござるよ!」
ラビーは弱いからね。
あくまで応援団として頑張る所存だ。
「うん、頑張るね、ラビーちゃんっ」
可愛く拳を握るルーナたん。
「そこまでいくといっそ清々しいよな、センセイ」
呆れたように笑うジャン。
「まぁ精々応援よろしく」
強がっているけどちょっぴり不安そうなソル君。
まぁみんなの命を預かってるからこればっかりはしょうがないだろうねぇ。
一つ頷くだけのディーノさん。
……ツクヨミ様は容赦ないから、いざとなったらプリンになって戦闘に乱入しようかなぁ、と思う私だった。
氷の聖域最深部。
青い透明な玉座に、淡い光が集まる。
眩しさを覚えるほどでもない優しい光が途切れたその先に、一人の麗人が腰掛けていた。
まるでずっと前から座っていたようにごく自然に、優雅に。
ソル君を美貌と称した私だが、ツクヨミ様を見ていると美貌の定義がおかしくなる。
完璧な美貌なのに、見た端から忘れていきそうな儚い存在感。
平安時代の狩衣のような衣装に身を包み、ぞっとするほど黒く長い髪はしどけなく解かれたまま。
『災いの根源よ、何をしに参った』
男とも、女とも判別のつかない声で、ツクヨミ様がルーナたんを睨めつけた。
ゆらり、と立ち上がるその姿はどこか華奢で痛々しく。
練り絹の白い衣を纏い、その上に何重も薄い上着を重ねている。
まるで湖に張った、ごく薄い氷のような繊細な狩衣。
「――どういう意味です、精霊王よ」
一度見たら忘れられない類いの美貌がツクヨミ様に相対した。
恋に狂っている青年は、恋する女性に対する誹謗を許さない。
『生まれ出でることすら許されぬ、罪の子よ。
せめて我が優しき闇に誘おうぞ』
そうして問答無用にツクヨミ様はブリザーダーを放った……!
プルプルプリンに変身して、影から勇者達を見守っている私は、そりゃもうハラハラドキドキである。
ツクヨミ様の言葉に呆気にとられて勇者達はツクヨミ様に先制攻撃を許してしまっている。
ル、ルーナたんっ、焦らなくていいからベールだよっ!
ソル君は……あぁ、あいつは大丈夫だ。
ブチ切れてカーリーお姉様を喚び出し始めている。
ジャンとディーノさんも……うん、大丈夫だね。
ちょっと驚いた様子だったけど、今はもう戦闘に没頭している。
そしてみんなの平均レベルは25。
まぁこれだけあれば勝てるだろう。
ルーナたん。
ルーナたんは悪くないからね。
ツクヨミ様も分かってるから。
ただの八つ当たりだから。
だから、そんな泣きそうな顔しなくても、大丈夫なんだよ。




