賄賂
地下3階。
私はにやける顔を抑えることができなかった。
「くくくっ、ついに、ついに手に入ったでござるっ」
ぐふぐふと笑いが止まらない。
「ちょっとそこのウサギ。気持ち悪いからやめてくれるかな」
ふはは、私の喜びを妨げるものはいない!
ソル君が冷たい目で見てきたとしても、3階の性悪な仕掛けを華麗に解いて盗賊の腕輪をゲットした私の笑いは止まらない!
これでジャンは”いいものを盗む”というアビリティを覚えられるのだから。
しかも素早さが上昇する装備効果もあるから、まさにジャンのためにあるようなアクセサリなのだ。
店で買うなら二つ先の町でしか購入できない、しかも8000ビルぐらいする高額商品が、ただ。
初見プレイヤーが大体見逃す、微かな画面の切れ目を通ってたどり着いた先にあるのが本商品。
しかも一本道ではない。
さらには囮の宝箱があって、それを先に取ろうとすると落とし穴に引っかかって最下層のツクヨミ戦に一気突入という鬼仕様。
これが笑わずにいられるものか。
「ソルさん、そんな言い方しちゃ駄目だよっ」
すかさずルーナたんがソル君をたしなめる、のだがそんなことはどうでもいいのだ。
ソル君のトゲだらけの言葉など、私を傷つけるに値しない。
「構わないでござるよルーナたん。
ソルはそういう、分かりにくい愛情表現が得意なんでござる。
モテちゃって困るぐらいでござる」
ルーナたんの隣で、ソル君が信じられないものを見るような目で私を凝視した後、頽れた。
「このクソウサギ」とかなんとか聞こえるが、聞こえないふりをしてやる私はものすごく優しい。
「ラビーちゃんって大人だねぇ!」
ルーナたんの尊敬の眼差しを頂いた。
うんうん、私は大人な女なのだ。
さすがはルーナたん、よく分かってるね!
享年23歳で、一体いつから迷いの森でモンスター躍り食いしてたのか分からないけど、精神年齢はそこそこのはずだ。
「若者には若者にしかできないことがあるでござるよ。急がないでいいでござる」
ルーナたん、その調子でピュアで綺麗な大人のお姉さんになってね!
ソル君との恋が成就したら、カップル名は”天使と悪魔”だねっ。
「……ヤバい、腹痛ぇ」
ソル君の後ろでお腹を抱えたジャンがプルプル震えていた。
ん?
お手洗い的な何か?
私が嫌な予感と共に首を傾げていると、ディーノさんに優しく頭を撫でられた。
ふふん、大人なラビーでも、素敵な渋メンさんの前では少女に戻るのさっ。
ジャンの腹痛がお手洗い的な何かではないことが判明したので再び聖域内を進む。
全く、紛らわしい男である。
ここの目玉宝箱は盗賊の腕輪とジャン専用のブラインナイフ、それにルーナたんのホワイトワンドだ。
盗賊の腕輪以外はまぁまぁ良心的な隠し場所にある。
ちょっぴり見えにくい場所にさり気なく置かれていたり、ちょっと厄介なモンスターがウジャウジャいる所にあったりするが、うちには脳筋シーフがいるのでモンスター討伐に関しては問題ないし。
ブラインナイフは文字通り、敵を時々暗闇にしてくれる。
そしてホワイトワンド!これは物理防御力を上げてくれるプロテクトという魔法を覚えてくれるほか、この短杖で殴ると味方のHpをちょびっと回復してくれるという優れものだ。
回復量が少ないのは玉に瑕だが、このBF6では戦闘に参加していないと経験値がもらえない。
そういう時に、「特に何もすることないけどとりあえず殴っとけ」みたいな使い方ができるので便利だ。
もちろんボス戦に使えるような技ではないのだが、雑魚相手には充分活躍してくれる。
「むふふん、順調でござるな~」
ジャンが手当たり次第にモンスターに喧嘩を仕掛けてくれるので、エンカウント率が半端ない。
おかげでレベルも上がっているようだ。
ラビーでは鑑定は使えないが、この辺の雑魚を一撃で倒せるようになったディーノさんを見ると感慨深いものがある。
「そろそろ最深部に進んでもいいかな?」
あれだけ刺々しいソル君も、こういったダンジョン内の攻略に関しては私の意見を重視してくれるようになった。
何よりである。
「ふむ、レベル的には問題はなさそうでござるな。
ただ問題はMpでござるねぇ。
ちょっと休憩して回復させた方がいいかもしれないでござる」
BF6内では、宿屋かテントでしか回復しなかったMpだが、現実世界では休憩すれば多少は回復してくれる。
「え?じゃあラビーちゃんっ」
ルーナたんがキラキラした目で私を見つめてくれる。
「うむ」
「っしゃ、おやつの時間だな!」
「いやいや、ジャンのは無いでござるよ?さらっと自分に都合の悪いことを忘れる癖はどうにかするでござる」
なんてったって3回抜きなのだ。まだ1回すら抜いてない。
私たちは最深部へ至る階段にそれぞれ腰を下ろしてくつろぎ始めた。
私はアイテムボックスからチョコレートプリンを取り出す。
まだこの世界でゼラチンは見つけていないので、たっぷりの卵黄と生クリームをチョコレートに混ぜ込み、低温で焼き上げた逸品だ。
濃厚でクリーミー。
しかもカカオ豆の素材がいいので、香り立つカカオの高級感が半端ない。
甘さ控えめ、カロリー高め。
これでちょっと洋酒とか入っていたら完璧だと思うのだが、この幼児に見紛われる体型では酒の購入は難しい。
何より試飲がね。
半笑いで断られるのはダメージが大きい。
自分の分も含めて4個。
ジャンのは無い。
「っセンセイ!俺が悪かった!!
もうしないからそれ食わせてくれよぉ!」
ジャンがプライドを投げ打った感じで土下座しながら私にプリンを強請ってきた。
「ジャンには体罰も説教も効かなさそうだから、これが一番いいでござるね」
しみじみと感慨にふけっていると、ジャンが哀れっぽく取引してきた。
「センセイ~、今度うまい酒奢るからさぁ。
次の、神殿総本部があるラヴァティーでさ、知る人ぞ知る蜂蜜酒奢るからさぁ」
……蜂蜜酒。
なんとも甘そうで美味しそうな響き。
「なんなら果実酒のうまい酒場にも連れてってやるからさぁ」
なんと!
さすがは女性受けが良いジャン。
女性好みの酒場を押さえているとはさすがである。
「……ラビウサでも飲酒は――」
「できる!ラヴァティーはそういうとこ緩いから!」
それでいいのか大都会。
いや、大都会だからいいのか。
「……しょうがないでござるなぁ。今回だけでござるよ」
私はジャンにプリンを渡した。
これは正当な取引である!




