氷の聖域
それにしてもさっきの脳筋クライマーが登った丘だが、あそこの洞窟には封印モンスターがいるので、どっちにしてももう一度帰ってくることになる。
その時には宝箱はないけどね……。
この世界の各地には、こういう感じで四大精霊の加護入手前と入手後で行ける場所や宝箱が変わることがあるのだ。
私がいた”迷いの森”の宝箱も、四大精霊の加護入手後に開けると、それ以前に入手した物より格段にいい物が手に入る。
ポーションがエリクサーになる感じ。
ちなみにポーションを入手していると宝箱は開いたまま。
つまりエリクサーは入手できない。
だから”迷いの森”で宝箱を開けるのは厳禁なのだ。
今回の勇者達はまぁ、結果オーライだったね。
宝箱に気づいてなかったみたいだから。
さて、いよいよ氷の聖域に到着した。
巨大なカマクラ状の入り口がぽっかり開いている洞窟。
ここは地下5階まであり、全域で氷モンスターが出現し、さらにはツクヨミ戦でコンティニューはできない。
ツクヨミ様はド潔癖なお方なので全員が死ぬまで懇切丁寧に叩きのめしてくださる。
これは性格に関係なく雷と、水も同じ。
我々にセーブはできない以上、ツクヨミ戦では全力で立ち向かう必要がある。
お優しいカーリーお姉様と一緒にしては駄目なのだ……!
「まずは腹ごしらえでござるね」
午前中にシューロスを出発し、ここ、氷の聖域に到着したのがお昼過ぎ。
巨大カマクラの開口部はセーフゾーンだからここで昼食を摂るとこにした。
「湯が沸いたぞ」
たき火を素早く使って湯を沸かしたディーノさん。
キャンプとかで手慣れてる男の人って5割増しに格好良く見えるよね!
「はい、じゃあこっちにお願いしますね、ディーノさん」
ルーナたんが大きめのマグカップを取り出し、シューロスで購入した2センチ四方ぐらいの立方体をマグカップに投入し、ディーノさんの湧かしたお湯を入れてもらう。
ジャジャーン!!
具が少なめのシチューの出来上がり!
まるでフリーズ○ライみたいな簡便さである。
が、科学技術によって作られた携帯食ではない。
魔法なのだ!
どうやら料理アビリティにそういう物があるらしく、お湯をかけるだけで出来上がる携帯食がこの世界では一般的だそうだ。
もちろんそれなりに高価だし、味が美味しいかどうかは賭けだ。
でもいちいち料理なんてやってられない勇者一行や冒険者達にとってはものすごくありがたい存在である。
「ディーノさんこっちもお願いしまっす」
お皿の上に四角いキューブを乗っけたジャンがディーノさんにねだった。
ジャジャーン!
ハンバーグっぽい煮込み肉の出来上がり!
「ってジャン!それは高いから大事に食べようねってルーナたんが言ってたお肉でござるが?!」
唖然として私は叫んだ。
あれは高いのだ。
そもそもの原材料が美味しい高級肉を使っているので当たり前ではあるのだが。
「――ジャンさん……?」
冷やっとした声に、私は恐る恐るルーナたんを振り返った。
っギャーっ!と叫ぶほどではなかった。
むしろムムッと怒った顔をしているルーナたんが可愛いだけだった。
その隣でブリザーデスト発動中のソル君さえいなければ抱きしめたくなるほどだった。
「あ、悪ぃ悪ぃ。ちょっと食べてみたかったんだよな」
ジャンが何の理由にもならない言い訳をしていたので、会計担当のソル君の眼差しがどんどん冷えていく。
「ま、まずはいただこうでござるよ!冷めちゃうでござる!」
やってしまった物はしょうがない。
後でジャンを袋だたきにするなり何なりすればいいのだ。
そんなことよりまずは目の前の美味しい食事である!
「そうだよね、ごめんね?ラビーちゃん」
ルーナたんのお怒りが静まると同時にソル君の冷気も渋々ではあったが治まった。
何よりである。
食後、ジャンはソル君からねちっこいお説教を受けていたがあんまりダメージはなさそうだった。
まぁジャンは体が丈夫そうだから体罰とかやろうと思っても無理そうだよね。
むしろこっちの手とか足とかが疲れるよね。
でもソル君、君のお説教、右から左っぽいよ?
聞き流し慣れてる感じさえあるよっ!
「ソル、大丈夫だ。その分こいつが稼げばいいんだろう」
ついに出たディーノさんの最終奥義は、無駄遣いした分はモンスターを倒して稼いでこい、といういかにもジャンが好きそうな課題だった。
ものすごい嬉しそうだ。
「で、ラビー。今回も石を拾う必要があるのか?」
ディーノさんが喜んでカマクラに突進していこうとするジャンを止めながら私に聞いてきた。
「今回は必要ないでござる。
でも、宝箱は残さず探すでござる。
この聖域は地下5階まであるから見逃しちゃ駄目でござるよっ」
私の言葉に一つ頷いたディーノさんは、掴んでいたジャンの襟首を離した。
「そういうことだ。
見逃さないように気をつけろ」
「了解っすよディーノさん!」
踊るような軽やかな足取りでジャンがカマクラの中を下っていく。
私たちも後に続いた。
聖域の地上階は外と同じような気温だ。
が、風がないので思ったほどの寒さは感じない。
そして、氷でできた壁が周りを覆っている。
一番外の壁もカマクラの内部らしく氷というか雪っぽい。
でも手で撫でると氷というより鉱物の結晶のような冷たさを感じる。
つまり、手で温めても溶ける感じがしない、という。
「わっかりづれぇな」
ジャンがぼやく。
ジャンの言う通り、透明な氷の壁は向こうの景色を歪んで映している。
だがどこもかしこも白か青みがかった透明な壁だからそこに見える宝箱がどれぐらい離れた場所にあるのか分かりづらい。
透明な壁の向こうを青い狼が歩いていたりして、一瞬ビクリともしてしまう。
「あ、そこは左に行くでござるよ」
まぁ、BF6マスターである私が同伴していて迷子になることはないけどね!




