ウサギみたいに可愛い
おばちゃんと階段を降りながら、私は頼んでみることにした。
「もし良かったら、他に勇者貯金をしている方を紹介して欲しいでござるよ」
私の脳内での宝箱マップは完璧だ。
だが、せっかく人様が好意で貯金してくださっているものを取り立てに行くのはちょっとご遠慮したい。
むしろ町の広場に突っ立っているから持ってきてもらいたい。
「あぁ、確かに全員が全員貯金してるわけでもないからねぇ。
大災害で男手をなくして余裕がない所は、そういうのはしてないだろうしねぇ」
おばちゃんがしんみりしたように呟いた。
そっかぁ、20年前の大災害はそれほどの脅威だったんだね……。
ソル君のお母さんが命を賭けてでも封印するしかないほど、この世界は追い込まれていたんだね……。
――月の民め。
いや、ルーナたんは除くけど!!
「じゃあ、私が声をかけるから、勇者様方はもうちょっとうちでゆっくりしていってくれるかい?
汚い所で悪いけどさ」
「ものすごい綺麗で可愛いお宅でござるっ!
光栄でござるよぅっ!」
木材とレンガが絶妙に組み合わさった、乙女心をキュンキュンくすぐる素敵なお家だ。
しばらくのんびり過ごせるなんてきっとルーナたんも喜んでくれる!
「じゃあ私はこのまま出かけるから、お嬢ちゃんは留守番しといてくれるかい?」
「了解でござるっ!」
……ん?
見ず知らずのラビウサに、留守番を託してもいいものなのか、おばちゃん……っ?!
どことなく腑に落ちない気分を抱えながら客間の扉を開こうとして、私は手を止めた。
慎重に、うっすら扉を開いてこっそり中を覗く。
「――だって変だと思うの。
どうしてソルさんはラビーちゃんのことをウサギって呼ぶの?
何だかラビーちゃんと仲が悪いみたい」
ル、ルーナたんが私のためにソル君にお説教中だった!
なんていい子!
ソル君と険悪な雰囲気になってもニコニコしてるから、単に邪悪な空気に気づかないピュアな子だと思ってた!
実は気づいてたんだ。
そっかぁ、それでもそれ以上険悪な雰囲気にならないようにニコニコしててくれたんだね。
な、なんていい子なのルーナたんっ!
私は扉をもう少し開いて中を覗き込む。
私の目にはルーナたんの背中と、困惑顔のソル君、面白そうな顔をしたジャンに通常運転に平常心なお顔のディーノさんが映っている。
あ!ソル君が私に気づいた!
おおぅ、人間ってあんな一瞬でコロッと目の色が変わるんだね。
穏やかな困惑の色から忌々しい色に一瞬で変わったよ。
でも、どう答えるのかな?
『あいつは動物並みだから』とかそんな感じ?
そういうのをルーナたん向けのソフトな言い回しにするのかな?
「――っウサギみたいに可愛いでしょう?だから、ついそう呼んでしまうんですよ」
「「ぶはっ!」」
私とジャンは、その返事に吹いた。
「あ、ラビーちゃんっ」
ルーナたんが私に気づいたので私は笑いをかみ殺しながら部屋に入っていった。
「そ、っそれは光栄でござる、なっ!」
かみ殺しきれない笑いがお腹をくすぐる。
「セ、センセイの良さが、っついにソルにもっ――」
ジャンは笑いすぎて言葉になっていない。
「良かったな、ラビー」
いやディーノさん、今の雰囲気は絶対そういう良い感じのことじゃないと思うよ?
ディーノさんは細かいことにこだわらないいかにもな武人だからそう見えるのかもしれないけど、むしろ私とソル君の仲はさらに悪化したと思うよ?
まぁ頭なでなでは気持ちいいのでそういう判断でもいいけど。
「ルーナたん、ラビーは呼ばれ方にはこだわらない大人なレディなので気にしないでいいでござるよ。
ところで、勇者貯金ってご存じでござるか?」
無表情なソル君の醸し出す雰囲気が怖かったから話題を変えたんじゃない。
あんな若造の脅しには屈しない、大人なラビーなのだ。
まぁ怖いっていうより気の毒にはなった。
正直。
「勇者貯金?」
笑い転げるジャンと、ブリザーデスト放出中のソル君は話にならなかったがディーノさんは食いついてくれた。
そうか、ディーノさんも知らなかったんだね?
「町の方が勇者のためにお金や物を貯めていてくださったそうでござる。
この民家のおばちゃんが、他の方にも提出を呼びかけてくださっているでござるよ」
「そうか……ありがたい話だな」
ディーノさんが、頬に入った縦皺をふっと緩ませて笑いかけてくれた。
「そ、そうでござるねっ」
私の返事が上ずってしまう。
ヤバい、ディーノさんが格好良すぎて動悸がする。
あ~、やっぱりディーノさんは渋カッコい~!
「”勇者”ってすごいね、ラビーちゃんっ」
ソル君を尊敬の眼差しで見つめてルーナたんはそう言った。
「そうでござるねっ。
……そうされるに相応しい、大らかで格好良くて強い男にならないと恥ずかしいでござるなぁ……?」
ルーナたんの眼差しに気を良くしているらしいソル君に釘を刺してみた。
ブリザーデスト!
ふっ、やっぱりソル君にはまだ早いようだ。




