変態
若者のよく分からないリアクションは置いておいて、わたくしラビーも今日から勇者一行の一員である。
ということで、私はこれまで常々疑問に思っていたことを解決しようと思う。
「ディーノ殿、民家を訪問しても良いでござる?」
そうだ。
ずっと気になっていた、民家の宝箱だ!
あれを取ると窃盗になるのかどうなのか、一度は挑戦せずにはいられない!
「?あぁ、構わんが?」
よっし!
「ルーナたん行くでござるっ」
ルーナたんの手を引っ張って走り始めた。
「あっ、おいセンセイっ――」
スッテーン!
ここ雪国だった……固く踏みしめられた雪ってむちゃくちゃ滑りやすいんだね……転けるギリギリでルーナたんの手を振りほどけて良かったよ。
頑張った、私!
ボールのようにコロコロ転がった私をジャンが抱き上げて、服に付いた雪を払い落としてくれる。
「うむ。苦しゅうない」
しゃがみ込んで私の雪を振り払う顔はやっぱりただのちょい悪イケメンだった。
つまらん。
「う~ん、そろそろこういう反応にも慣れてきたなぁ」
そう言いつつ、ジャンの手がさわさわと私の体に触れてくる。
正確には、手とかスカートの裾から出た足とか。
しかもさわっと触れた後、妙にしつこく何度も毛並みに沿って撫でてくる。
え?
セクハラ?
モフってるだけかもしれないけど、私としてはセクハラ認定だ。
ってちょっと!
太ももまで触ってくるんじゃないっ!
「っ気安く触るなでござるっ!」
思いっきりジャンプして跳び蹴りしてやった。
……着地に失敗して転けた。元凶が爆笑していた。
「……後3回、ジャンにはおやつ無し」
「はははっ――っはぁぁ?!横暴だ!」
ジャンよ、君が意外に甘党だということはバレている。
精々苦しむが良い。
「……ジャンさん、それって駄目だと思う」
ジャンによる、私へのセクハラをルーナたんが断罪した。
「ついにここまで来たか……変態」
冷静に蔑んだ目で見てくるソル君。
「エラクレスと同レベルだな」
でもたぶん一番ヘコんだのは、ディーノさんのこの言葉なんじゃないかと思う。
おお、雪道にめり込みそうな勢いだ。
意外に貞操観念がグループ内で統一されていて、何よりである。
勇者の乱交パーティなんてごめんだからね。
まずはハイポーションが入っている予定の民家にお邪魔することにした。
「――っ違うっ!下心なんてなかったんだ!
なんとなくちょっと柔らかそうだなぁって思ったらついつい手が伸びただけでっ!」
後ろで声を潜めつつ弁解するセクハラ男はまるっと無視する。
いや、ラビーはぬいぐるみっぽいけどあくまで亜人だからね?
亜人のレディだからね?
人権とか女性としての尊厳があるんだからね?
「うわぁっ、可愛いお家だねぇっ!」
問題の民家の前に立つと、いかにも北欧な可愛いたたずまいに乙女心が刺激される。
ルーナたんも同意見らしい。
それにしてもルーナたんのこのリアクションは、敢えてやってるのか天然なのか。
いや、でもちらっとジャンを見る目が結構冷たい。
ルーナたんは優しい寛容な子だから、ルーナたんであのレベルということは、普通の女子からしたら氷のように冷たい眼差しという換算になると思う。
「そ、そうでござるねっ」
で、でもルーナたん、過剰に反応したけど所詮はラビウサだからね?
もしルーナたんの素肌をああいった感じで撫で回されたら私はプリンに戻って食い殺す自信があるけど、あくまでぬいぐるみっぽいラビウサだからね?!
だからお願い、そんな怖いお顔にならないでっ!
「ウサギに欲情とか、本気で変態だな、お前」
ぅおいソル君っ!
あり得ないことをさらっと真顔で呟くのヤメテ!
男の欲情システムはよく分からないけど、やっぱりツルペッタンにはない優雅な曲線とかが重要な要素じゃないのかね?!
例えばルーナたんの、意外にあるお胸とか!
「してない!欲情とか!ソルてめぇ、涼しい顔で非難してんじゃねぇよ!お前だってこの前ルーナの――」
ガコンッッッッ!!
すんごい音と共にジャンの頭が雪道に沈んだ。
犯人はもちろんソル君。
い、意外に戦士向け?
「……い、生きてるでござるか~……?」
「気にするな。意外にしぶとい」
そうは言うけどディーノさん、ジャンの生死を気にするべきか、ソル君がこっそりルーナたんの何かで何をしていたのかを気にするべきか私には分からないよ。
っていうかどっちも気になるよっ!?
「??私の?なぁに?」
「二人ともまだ若い。許してやれ」
ディーノさぁぁんっ!
なんか色々説明できてないよぅぅぅっっ!
……ルーナたん、先に民家に入ってようか。
〈その後、男だけになった勇者達は〉
「あれだけ女性に囲まれても涼しい顔してると思ってたら、まさかあんなウサギが趣味だったとはね」
「そりゃ~どれだけお嬢サマ方に囲まれてもなびかないわけだよなぁ、あんな美少女でないと食指が動かないなんてよぉ。……むっつり」
「変態」
口汚く罵り合う若者に、ディーノが声をかけた。
「青春とはそういうものだ」
きっとソルが睨む。
「なに、ちょっとカッコ良さげに話を纏めようとしてるんですか、ディーノさん!」
「責任を取るなら文句はない」
「あ、ディーノさん、希望があれば嫁にもらいますんで」
ジャンが軽く主張した。
あまりに軽すぎて、ペットとして飼う、と同義ではないかと思われるほどだった。
というか、ソルはそう受け取った。
「ペットじゃないんだよ?
いや、むしろペットの方が可愛いかもしれないけど」
「??嫁つったろ?」
ジャンとソルは見つめ合った。
「――欲情は――」
「してない!俺は成熟した女性が好みだ!」
「でも嫁には?」
「もらう」
再び男達は見つめ合った。
「……理解不能だよ……」
「そうか?でも欲情したって物理的に無理だろ?」
欲情しない相手を嫁にもらうという考え方が分からないソルは、だがしかし口を閉じた。
どれだけ聞いた所で理解できないだろうという予感がしたからだった。
〈その頃女性達は〉
「なんか今、ゾクッと寒気がしたでござるっ!」
「え?!大丈夫、ラビーちゃんっ?!」
「おやまぁ風邪かい?ゆっくりお茶でも飲んで暖まっていきな~」
こうして二人はその民家のおばちゃんにお茶をご馳走になるのだった。




