表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/105

前世


 改めましてこんにちは。

 転生したらなぜかつるつる滑らかお肌のモンスターになっていた、高橋トーコです。


 グチャッ、バキッ、ベチョッ!


 転生するまでモンスターなんて倒すだけの存在だったんだけど、まさかモンスターが同士食いして飢えを満たしているなんて知らなかった。

 転生して初めて自我が芽生えたというか我に返った時、狼型のモンスターを踊り食いしていたのには驚いた。

 驚きすぎて意識が飛び、再び気づいた時にはスライム型のモンスターを丸呑みにしている所だった。

 狼型もスライム型も、ものすごくまずかった……。


 バリボリゴキュゴクッ


 いやもう試行錯誤の連続だった。

 なんせお腹がすくのだ。

 食べないという選択肢はない。

 でも、まずいモンスターを生きたまま食べるのは勘弁して欲しい。

 せめて調理したい。

 だが調理には問題点が二つあった。


 一つ目。

 モンスターを殺してしまうと、ドロップ品を残して消滅してしまう。

 なので生きたままが大前提。

 二つ目。

 私には腕がない。

 いや、触手というか、攻撃する時に出てくる弾力のある板状の物ならあるのだが、腕はない。

 だってプリンだもの。


 正式名はシュガープリン。

 外見は粉砂糖をまぶした牛乳プリンみたいな感じ。

 かろうじてつぶらな瞳はあるものの、口や鼻はない。

 もちろん手足も。

 食べる時はお腹(というか体の真ん中辺り)がパカッと割れてモンスターを取り込んでいる。


 というわけで、私はまず、自分のステータスチェックをすることにしたのだ。

 ……ここに至るまで丸一日かかった、なんてことはない。

 すぐだった。

 いや、わりと。




 シュガープリン Lv.42

 

 Hp:7200

 Mp:650


 アビリティ:糖弾、鑑定、黒魔法(火・氷)




 どうやらステータスはさらに細かく見ることもできるようだった。

 魔力とか攻撃力とかの項目も、詳しく見たいと思うと見られた。

 糖弾ってなんだそれ?ってアビリティもちゃんと説明があった。




 糖弾:糖の球を飛ばすこと。




 あんまり参考にならなかったなんて思ってない。

 これはあれだと思う。

 試してみよってことだろう。


 というわけで糖弾を試した結果、なんか粘ついた液体が狼型にぶっかけられ、動きを封じてくれた。

 放っておくとなんだか狼の肉が溶けていってるような気がしたので慌てて食べた。

 ……甘くて美味しかった。

 というわけでそれ以来、私は糖弾で攻撃した後、丸食いをすることになった。


 もちろんバリエーションは重要なので、軽く炙った後に糖弾をかけて食べたり(糖弾をかけた時の狼の絶叫がすごかった……やっぱりあれって糖酸弾っていうべきじゃ……?)、糖弾かけた後ちょっと表面を凍らせたシャーベット状スライムを食べたりしている。




 こうやって日々、当てもなくモンスターを躍り食いしているとやたら哲学的な気分になってくる。

 因果応報、輪廻転生。

 私がこうやってモンスターをやっているのは生前の報いなんだろうなぁ、という悟り。

 私は、少なくとも6人の人間を不幸にしている。

 彼ら彼女らの人生を台無しにしてしまっている。

 そりゃこんな所でひたすらモンスターもぐもぐしてるわけだよなぁ、としみじみ思うわけだ。


 どうしてるかな、ハルト君。お父さんにお母さん、お兄ちゃんやお姉ちゃんはちゃんと笑えてるかな?

 私をめった刺しにした”ユリさん”はやっぱり殺人犯で捕まっちゃったんだろうか。

『あなたなんてハルトさんに似合わないっ。ハルトさんの前から消えて!』

 突然、借りている部屋に訪ねてきた女性を中に入れるべきじゃなかった。

 外見だけはいい、実はものぐさゲーマーなハルト君のことをやたら美化する彼女に反論するべきじゃなかった。

 別れろっていうならその場ではうんうん頷いていれば良かった。


 ユリと名乗ったその女性は、ハルト君が働いている会社の社長令嬢で、見た目だけなら抜群なハルト君に一目惚れしたお嬢様だった。

 ハルト君はいかにも英語どころかドイツ語やスペイン語までペラペラ、趣味はサーフィン、将来の夢は起業なんて派手な顔をしているくせに、しかもそこそこ優秀なくせに、実のところは趣味ゲーム、夢は正社員、英語だけならちょっとは喋られる、という人だった。


 デートも部屋でゲームデート。

 レストランでのフレンチやイタリアンより、部屋で食べるキムチ鍋が好きな人。

 思わず反論してしまった私も、今思えば悪かった。


『あなたがハルトさんの何を知ってるって言うの?!』

 激昂したユリさんが鞄から出した包丁で私は昇天。

 いや、そりゃ最初は恨んだ。

 痛かったもん。

 でも、日々モンスターを生きながら食べてるうちに思った。

 私の死は、何をもたらしたんだろう?って。


 私がモンスターを食べたことで私の空腹は癒え、経験値も獲得してレベルアップしているし、ドロップ品もアイテムボックスにため込んでいる。

 使う事はないだろうけどお金だって稼いでいる。

 モンスターは、私の糧になってくれている。


 では、トーコだった私は?

 私が死んだことで、誰か得をした人はいる?


 例えばユリさん。

 あの激昂しやすい性格からして、完全犯罪は無理なんじゃないかと思う。

 警察に捕まって殺人犯って言われたら、彼女の人生はそこで終わりじゃないだろうか。

 いくら会社社長の娘さんだと言っても、現代日本でなんの罰も受けないということにはならないと思う。

 というか、その社長さんの進退に関わってきたりしてたらどうしよう……。


 そしてハルト君。

 一緒にいて落ち着く人だった。

 一緒にいるのが自然で、たぶんこのまま結婚するのかな、と思っていたりもした。

 そんなハルト君は、ものぐさだけど、エッチなゲームも持ってたりしてるけど優しい人だった。

 自分のせいで(恋人)が死んだって知ったらきっと傷つく。

 私のことは忘れて次の幸せに向かってくれればいいけど、そういう要領のいい人じゃなかった。


 そして私の家族。

 お父さんもお母さんも穏やかでのんびりした性格だ。

 だからきっと、犯人であるゆりさんに極刑なんて望まないと思う。

 でも、その代わり静かに悲しみ続けるんじゃないかと思うといても立ってもいられない気分になる。


 私を可愛がってくれて、ついでに私にゲームの楽しみを植え付けたお兄ちゃんも、気の優しい穏やかな人だった。

 けっこう泣き上戸な所があって。

 お兄ちゃん、泣いてないかな。

 我が家で唯一といってもいいほどしっかり者のお姉ちゃん。

 絶対あの人、こっそり泣いてる。

 で、涙を絶妙なお化粧テクニックで隠して気丈に振る舞うんだ。




 そりゃ、地獄代わりにこんな所でプリンやってるよね……。

 いつか、私を倒して経験値の肥やしにしてくれる誰かが現われる日まで、私も経験値を貯めておくことにします。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ