決意
勇者たちが順調に氷河を越えているのを確認して、私は一足先にシューロスの町に入った。
雪と氷河の町・シューロス。
雪国だからか、市場はなく、個人商店が多く集まった通りが中央にある。
どの家もレンガでできていて、童話の世界にいるようだ。
ものすごく可愛い。
茶色の中に赤やピンク、水色があって、こんな可愛い家から大柄でひげ面のおじさんが出てくると思わず笑ってしまう。
そのおじさんも、可愛らしい柄のマフラーを巻いていたりしてもう地団駄踏みたいぐらい卑怯可愛い。
セーターがクマ柄って、何を狙っているんだと言いたい。
そんなシューロスにはなんとカカオの豆が売っていた!
その名もカカオ。
そのままだった。
ふんふん鼻歌を歌いながら買い漁り、牛乳も仕入れる。
カカオは発酵して乾燥してあるので、それをそのままラビーのアビリティで牛乳と共に加工すればチョコレートができる、はずだ。
ついでに小麦粉と卵も買い足しておく。
しっとり濃厚チョコレートケーキなんかには卵もばっちり使うからね。
うん、懐かしい。
バレンタインには、愛情というよりホワイトデーのお返し目当てに頑張ったものだ。
頑張って作ったフォンダンショコラに感動したハルト君は、お返しに最新の携帯ゲーム機を買ってくれたんだっけ。
ものすごく嬉しかった。
あと、男って大変だなと思った。
私なら絶対に文句言う。
文句も言わず、照れながらお返ししてくれたハルト君はサイコーだと思う。
「あらまぁ、カカオでこんなに美味しいケーキができるなんてねぇ」
今夜泊まる宿屋の女将さんと交渉して食堂の隅を借り、ブラウニーを売り出した。
木の実はクルミっぽいノワという実を使っている。
これもお店で購入済み。
露天の市場とは違って匂いも届かないから、お客さんはあんまりかなぁ、と思っていたら意外に盛況だった。
なんでも、この辺では見かけない珍しいラビウサ族が売っているお菓子、ということで注目されていたらしい。
宿屋の女将さんに相談したのも大きかったのかもしれない。
やっぱり宿屋って人が集まるんだなぁと思ったよ。
「ラビーちゃんっ!」
バタンっと食堂の扉を大きく開いて、銀髪の美少女が走ってきた。
後ろには3人の男性陣も見える。
「ルーナたん。無事に到着したようで何よりでござる」
「心配したんだよっ、ラビーちゃんっ!」
恐らくルーナたん的にはお怒りのギュウだと思うのだが、私からすれば至福の抱っこだ。
これで反省はあんまりする気がしないなぁと思いつつも、トントンとルーナたんの背中を撫でた。
「すまなかったでござる。一身上の都合でござる」
「全く反省してねぇな」
おや、ジャンのくせになかなか鋭い。
「おいセンセイ、いっくら情報通だからって、何の言葉も無しにとんずらするってそれはないだろうが?」
ぐいっと至福のルーナたん抱っこから引き剥がされ、襟首を掴まれたまま宙づりにされた。
「こ、これがいやしくも”先生”と呼ぶ相手にする所業でござろうか?!」
「センセイは言葉で言ったって誤魔化すからな。体に教えるのが一番だろ?」
「不潔な言い方するなでござるっ!」
全く、今までどれだけの女体にイケナイことを教えてきたんだか。
「ああん?!」
どこのチンピラかと思う勢いで凄まれた。
くっ、ここでプリンに変身できればこいつなんてあっという間に瀕死に追いやれるのにっ!
「そもそも、どうしてそこまで情報通なのかも胡散臭いんだよね」
ジャンをきっと睨んでいると、その横から冷たい突っ込みが飛んできた。
ソル君だ。敵が増えた。
血も涙もない奴らだ。
「それは仕方ないだろう。こいつはラビウサだからな」
ディーノさんが有無を言わさずジャンの手首を掴んで、ジャンから私を解放してくれた。
ジャンが痛そうに顔を顰めている。
おお、ちょっと痛そう。
「ディーノさん、どういう意味ですか?ラビウサだから、なんて……」
ディーノさんが私を椅子にポンと座らせてくれた。
その隣で、淡々と話し始める。
「ソルには言っただろう?20年前、俺たちの旅にはラビウサがついて来ていた」
は?!初耳なんですけど?!
「初耳ですが」
あ、ソル君も初耳なのね。
「ラビタローと言ったが、俺は話したことがあったぞ?」
「ラビタロー!彼もラビウサだったのですか?!」
なんと、ラビタローなんてラビウサがいたなんて知らなかった。
……まさか転生者の先輩なんて事はないよね?
「あぁ。言ったと思ったが?小柄で耳が長い男だと」
「あくまでそういう特徴の人間なんだと思ってました……」
う~ん、確かにどっちとも取れるかなぁ。
「彼は俺たちの旅を効果的に導いてくれた。
彼が言うには、ラビウサにはそのような使命があるのだと言っていた。
勇者を導く使命があるのだと。
だからラビーを見た時、どちらかと思ったのだ。
単に知ったかぶりのラビウサか、俺たちに与えられた次代のラビウサか」
なんか……話を聞く感じ、転生者っぽい匂いがする……!
「ディーノ殿、そ、そのラビタローとおっしゃる方は今、いずこに?」
ディーノさんは少し目線を落とした。
それで私はなんとなく分かってしまった。
「……死んだ。アンヌと共に、な」
私は耳をしおしお垂れさせ、足元を見つめた。
そうだよね。
分かっていたことではあるけれど、転生したからって死なないわけじゃない。
前世の記憶を持っているだけで、生きているこの体が活動をやめたらどっちにしたって死ぬ。
再び転生されるかどうかは、分からないけど。
ラビタローさんは真性のラビウサだったんだろうか?
それとも私みたいに亜人化したラビウサだったんだろうか?
「ラビウサがどこから知識を得ているのか、それは問題ではない。
彼女が俺たちを支えてくれるなら、その助けを請えばいい。
ラビウサの秘密を知った所で、俺たちに活用できるものとも思えん。
ラビー、お前は俺たちの敵だろうか?」
いきなりディーノさんが私の顔を覗き込んできたので、私はドキッとしてしまった。
そうして、ディーノさんの質問に、反射的に首を振る。
「敵じゃない。敵じゃない、でござる。
ラビーは、ジャンとかソルはともかく、ルーナたんを幸せにしたいでござるよ」
なんかもう、いちいちソル君に敬称をつけるのもうんざりしてきたので呼び捨ててみた。
「ルーナの幸せは、俺たちの幸せに繋がるのか?」
「当たり前でござる!ついでにソルもジャンもディーノ殿も幸せになれるはずでござるよっ!」
私の中で、2種類あるエンディングの内、真のエンディングを意識的に考え始めたのは、たぶんこの時が始めてだったと思う。
「ラビーに任せるでござる!
絶対にみんな、幸せにしてみせるでござるよっ!」
そうして、私の立ち位置も。
啖呵を切ったことを後悔はしていないけれど、ちょっぴり震えが走ったことは意識しないようにした。
うん、私ならきっとできるんだ!




