手紙
火のダンジョンから次の町・シューロスに向かうには、真北に向かわなけらばならない。
途中、氷河を抜けるという楽しいイベントも待っている。
でもまぁ勇者たちなら大丈夫だろう。
だってソル君は火の魔法を使えるし。
……ま、まさかだけど……攻撃魔法の全体化って知ってるのかな?
ファイアのままでカーソルを動かすと、敵単体から敵全体にファイアを打てるんだけど。
それがこの世界ではどういう感覚で使い分けられてるのかは知らないけどね。
道中にある、ディーノさん専用武器のフレイムソードもちゃんと見つけられるだろうか?
私はプリンになった体をプルプル震わせて振り返った。
ジャンを撒いた後、プリンに変身して一目散に先を急いだから、勇者たちはまだまだ後方にいるだろうけれど、彼らは無事にシューロスまで来られるんだろうか?
いやでもダンジョンほど凶悪な敵は出てこないからたぶん大丈夫……いや、でも長いフィールドだからMp尽きちゃうんだよねぇ。
野営すればMpは回復するけど、モンスターが来ないセーフゾーンの存在をちゃんと知っているだろうか
?
一緒に行けば良かったかなぁ?
いや、でもそれだとこの先色々ボロが出ちゃうんだと思うんだよね。
なんでそんなことまで知ってるんだ、って。
「ううむ……」
今さら勇者一行に合流するのは論外だ。
でもメモなら?
今までのBFシリーズであった感じの、攻略のメモみたいなのを要所要所で残していくのはどうだろう?
問題はどうやってメモを残すか、だが……。
「おぉ?そういえばデザートプリンセスは魔法の氷も使えるでござるよねぇ。
それを使ってどうにかできないでござろうか?」
ほかには目印用のデザートとしてラビーを模した焼き菓子があれば完璧だ。
「うむ。勇者たちが来るちょっと前にセットして回れば完璧でござるな」
私は自分のすんばらしいアイディアににんまり笑った。
〈一方その頃、勇者たちは〉
「ラビーちゃん、一人で大丈夫かしら……」
ルーナの顔色が冴えないのは、寒さだけではない。
勇者たちはラビーの弱さを体感的に知っているため、特に仲の良いルーナは真剣にラビーの安全を気にしていた。
「大丈夫じゃないかな?
あのウサギ――ラビーは大口を叩くだけあってこの辺りのことに詳しい。
モンスターを器用に避けながら、あの短い足で爆走する姿が目に見えるようだよ」
さらっと冷たいソル。
「お前なぁ、世話になっといてそれはないだろ?
いくら物知りだって、モンスターに見つかった瞬間に殺られるような弱さなんだぞ?」
ジャンの言葉に青ざめるルーナ。
それを見てジャンを睨むソル。
呆れたようににらみ返すジャン。
「――おい、あれはなんだ?」
そうして、そんなにらみ合いをじゃれ合いと認識して歯牙にもかけないディーノ。
彼が指さした先には、こんもりとした氷の塚があった。
氷の中には……どこぞのラビウサを模した焼き菓子と、そいつが手にした白い紙が入っている。
「……無事だったんだな、あいつ」
呆れたように呟くジャンだが、その声には安堵が色濃く滲んでいた。
「良かった……っ!ラビーちゃんっ!」
安堵の余り涙ぐむルーナ。
「ソル、溶かせるか?手紙が入っているが」
ディーノに急かされて、しょうがなさそうにソルは器用に氷を溶かしていった。
「――あぁ、中は中空になっているので大丈夫ですね。ウサギのくせに生意気な」
ぼそっとした後半の呟きは、ソルの口の中でくぐもって消えた。
「ラビーちゃんはなんて?」
急かすルーナに、途端に優しい目をしたソルが読んで聞かせる。
「えぇと……『よくぞここまでたどり着いたでござる。褒めてつかわす』――焼いていいかな?これ」
「読んでからにしろよ」
ジャンが手紙をあっさりソルから奪い取る。
「何々?『この近くの宝箱は見つけたでござるか?
木の根元にひっそり置かれているから気をつけるでござる。
この先からは氷河が待っているでござるが、ソル殿はもちろん魔法の全体化は知っているでござるよな?
ファイアを無駄打ちするなでござる』だとさ。
あったっけ?宝箱なんて?」
首を傾げるジャンと、『魔法の全体化……』と呟いて顔色が悪くなるソル。
「うん。ラビーの菓子はうまいな」
「そうですねっ」
マイペースに焼き菓子を楽しむ中年男と美少女。
遠目にそれを観察してにやけるプリン。
〈さらに進んだ一行〉
「お?またラビーの手紙があったぞ?」
ジャンが再び氷の塚を見つけた。
「全く……手間のかかるウサギだ」
ぶつくさ言いながら氷を溶かすソル。
「うわぁ、今度は可愛い形のパイですよっ」
「うまそうだな」
おやつと勘違いしている男女が2名。
「ふむふむ?『この先の湖ゾーンはセーフゾーンでござる!
休憩してMpを回復するでござるよ!』だとさ」
「なんでそんなことまで知ってるんだ、あのウサギは……」
疑念を深めるソルと、おやつを楽しむ3名。
「あ~っ!茶が欲しいっ!」
「そうそう、ラビーちゃんの煎れてくれたお茶、すっごく美味しかったよねっ」
「そうだな」
「次からあいつ拉致って行きましょうよ、ディーノさん」
「――そうだな」
「……?(拉致?)」
余談ではあるが、結局はラビーに対する『なんでそんなことまで知ってるんだ』という疑惑に結びつくことになっていた。
「しまったぁ!で、ござるぅぅぅ!」
体を捩らせて悶絶する巨大なプリンを見た者は、誰もいない……。




