勝利とお茶と逃亡
ルーナたんの抱っこにすりすり甘えながらチラッとソル君を見ると、それはもう苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。
女同士も駄目なんだろうか?初恋って大変だね。
「センセイ、俺も俺も」
ジャンが大きく腕を開いているが、そんなのは無視だ。
私は潔癖なんである。
次から次に女性を取っ替え引っ替えしていた男に許す抱っこはないのである。
「助かった」
ディーノさんがポン、と頭に手を乗せてくれる。
無骨な掌が優しくラビーの白い髪の毛を撫でてくれて、自然に顔がにやけてしまう。
ああっ、もう終わり?早くない?!
「センセーイ、俺、暇なんすけどぉ?」
「うっさいでござる。至福の時間を邪魔するなでござる」
「くっ、それでも可愛いラビウサが卑怯だ……っ」
ジャンは亜人フェチなんだろうか?
それとも毒舌フェチ?
どっちにしても危ない人みたいだから近寄らないようにしよう。
危機管理って大事だもんね。
「せっかくなので、帰る前にお茶するでござるよ」
シュタッとルーナたんの腕から飛び降り、コップを五つ取り出す。
戦闘後なので、カーリーお姉様のありがたいHpMp全回復する魔法の泉が湧いていることだし。
私はアイテムボックスから携帯コンロとやかん、それにポットを取り出し、ありがたい泉の水を湧かしてお茶を煎れ、お茶請けにプリンの入った木のコップを差し出した。
お菓子のプリンの方だ。
王道のカスタードプリン。
カティアの宿屋であらかじめ作って置いたのだ。
私は自らがプリンでありながらカラメルが苦手なので、カラメル無し、その代わりちょっぴり甘めに仕上げたプリンにしてみた。
バニラビーンズのような小さい豆を買っていたので、それのほんわり甘い香りが心を溶かす。
堅さは、ハルト君が好きだった、ちょっと堅めのやつ。
私はとろけるタイプが好きだったのだが、これを作る宿でうっかりハルト君を思い出してしまったのでこうなった。
ちなみにプリンはハルト君の大好物だ。
「――お茶にしてもHpって回復するんだね」
信じられないものを見るような目で、お茶を準備していた私を見ていたソル君だが、効果が変わらなかったことを知って驚いたようだ。
あと、暖かいお茶を飲んで若干、いつもの冷たい顔がほころんでいる。
うんうん、さっきまで熱かったけど、加護をもらえたので玉座の間の火は消え去っていたのだ。
火がなくなるとちょっと底冷えして寒かったからね。
「ラビーちゃんっ!これ美味しいっ!すっごく美味しいよぅっ」
ルーナたんがウルウルした目で言ってくれた。感動したんだろうか?
「運動の後に甘い物を食べると、染みるでござるもんねぇ」
運動というか、戦闘。
「そうじゃなくて!今までこんな美味しい物、たべ、た……こと……」
ルーナたんが自分の内側を探るような顔で口ごもった。
「ルーナたん」
私が声をかけると、ルーナたんは迷子のような心細そうな顔で私を見た。
「ゆっくりでいいでござる。急がなくても、大丈夫でござるよ」
ルーナたんの記憶は失われている。
逆に言えば、記憶を失うほど辛いことがあって、そこから自分自身を守るために記憶を切り離したとも言える。
ルーナたんの記憶が必要になるのはゲーム終盤。
それまで、ゆっくりルーナたんのペースで徐々に記憶を取り戻していけばいい。
急ぐことはないのだ。
それまで、月にいた頃のルーナたんが憧れた”普通の女の子”を楽しんでいればいいのだ。
「……うん。うん、ラビーちゃん」
ルーナたんは照れたように微笑んだ。
可愛いんだけど、それを食い入るように見つめる男の目線が軽くウザいかな。
今度二人っきりで話そうね、ルーナたん。
「さて、そろそろここから出ようでござるっ」
黙々とプリンを(しかも惜しいのかちびちびと)食べている大の男二人に発破をかけた。
ディーノさんが、ジャンですらも、小さいスプーンをちびちび口に運ぶのは可愛いと思ったけどね。
でもそろそろ次の町に行かないと。
やつが待っているんだから。
貴重な装備を盗ませてくれる、大切なイベントがっ!
洞窟の出口まで無事に戻ってきた。
カーリーお姉様との戦闘のおかげでレベルアップした勇者達に、この洞窟の雑魚はもはや敵ではなかった。
まぁ元々、ディーノさんとジャンの無双ではあったんだけど。
「うむっ、クリムゾンポムの実がなかったことは残念だったが、実に充実した冒険だったでござるっ」
清々しい外気を吸い込みながら堂々と胸を張ってそう言った。ジャンが後ろで、
「あれ?それって口実だったんじゃ?」
とか呟いていたがそんなことは聞こえない。
というか、ソル君といいジャンといい、妙な所で鋭いのはどうなんだろう?
その鋭さをもっと安全な冒険旅行に活かしてほしいものである。
「残念だったねっ、ラビーちゃん」
ルーナたんの白さだけが心の癒やしだよ、本当に。
「では世話になったでござるっ」
和やかな一行にそう言い置いてダッシュ。
「え?!ラビーちゃんっ?!」
「ぅおいっ?!センセイ、一人じゃ無理だろっ?!」
上がる声を尻目に、短い足を史上かつて無い勢いで回転させて勇者一行から姿をくらました。
途中、我に返ったジャンが真剣に追いかけてきたのでギリギリだったが、どうにか木の上に上って逃げ切ったのだ。
最弱のラビウサが勇者に勝った瞬間だった。




